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4章
49話「帰還の道すがら」
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夜明け前の北方の村は、まだ眠りの中にあった。
倒壊した家々と仮設小屋、瓦礫の上にもやわらかな朝の光が差し込みはじめる。
その光は、傷を隠さず、ただ静かにすべてを照らし出していく。
ノクティアは、焚き火のそばで眠る子どもたちを見守りながら、新しい一日が始まる気配を感じていた。
昨夜はほとんど眠れなかったけれど、胸の中にはどこか晴れやかな充足感があった。
(今日で、私たちはこの村を離れる。けれど、ここで交わした“約束”は、ずっとみんなの胸に残る――)
* * *
朝食の支度が広場で始まった。
エイミーと村の女性たちが鍋を囲み、子どもたちがパンを運ぶ。
レオナートは復旧班の男たちに最後の指示を出し、カイラスは村長と並んで状況の確認をしていた。
ノクティアは村の中央に立ち、見慣れた顔ぶれを見回す。
この数日で、村人の表情は明らかに変わっていた。
恐怖と不安に曇っていた目が、今は未来を見据えて静かに輝いている。
朝食のあと、ノクティアたちの“帰還”の準備が始まった。
「本当に……行ってしまわれるのですか?」
村長が涙声で尋ねる。
「はい。でも、すぐにまた砦から人や物資を届けます。
村が立ち直るその日まで、私たちは何度でも戻ってきますから」
ノクティアは村長の手を両手で包み込み、ゆっくりと頷いた。
* * *
エイミーは見送りに集まった子どもたちの輪の中にいた。
「また来る?」としがみつく小さな手を優しく握りしめる。
「絶対に約束するわ。今度は砦の花畑にも遊びに来てね」
子どもたちは泣き笑いになりながら、「うん!」「絶対いく!」と元気に声をあげる。
レオナートは、力仕事をしてくれた若者たちと握手を交わしていた。
「あなたたちがこの村を支えるんです。困ったら、すぐ砦に知らせてください」
「レオナートさん、忘れません!」
みな、別れを惜しみながら、それでも胸を張って送り出してくれた。
* * *
ノクティアたち一行は、名残惜しさと静かな決意を胸に、村をあとにする。
道はまだところどころ荒れている。
倒木や崩れた小橋、ぬかるみを避けて進むたび、仲間たちは自然と声をかけあった。
「エイミー、足もと気をつけて」
「はい、大丈夫です。ノクティアさんも、疲れていませんか?」
「私は平気よ。こうやってみんなと歩くと、不思議と力が湧いてくるの」
カイラスも後ろで笑う。
「帰ったら、きっとまた砦で大忙しだぞ。……でも、今だけはゆっくり歩こう」
彼らの歩みには、悲しみだけでなく新しい誇りと、温かな連帯が宿っていた。
* * *
昼頃、川辺の広場で休憩を取る。
エイミーがパンを配り、ノクティアは冷たい水で皆の手を拭う。
「昔、こうして遠足の途中でお弁当を食べたこと、覚えてますか?」
レオナートが少しはにかんで口にする。
「覚えているわ。……あのころも、みんなで一緒に笑ってた」
カイラスが小さなパンをちぎりながら言う。
「戦いの前と後で、同じ道でも景色は違う。……でも、こうして歩けるのは“守るべきもの”ができたからだ」
ノクティアはうなずく。
「そうね。ここで出会えた人、交わした約束、すべてが宝物になった」
* * *
午後、森の中でにわか雨に降られ、一行は木の下で雨宿りする。
ぽつぽつと雨が降る中、エイミーがふと口ずさむ。
やがて子どもたちも追いかけるように、小さな歌を歌い始める。
「♪ 雨が降っても みんなでいれば 怖くない――」
みんなで笑いながら、焚き火の薪を分け合い、体を寄せ合う。
雨が止むと、空には淡い虹がかかった。
「虹だ……!」
ノクティアが指差し、みなでその美しさに見入る。
「きっと村の人たちも、今ごろ虹を見てるね」
「これが“再生”のしるしだったらいいな」
自然の気まぐれが、まるでみんなへの贈り物のように思えた。
* * *
夕暮れ時、砦の塔が遠くに見えてくる。
「帰ってきた……!」
見張り台から誰かが手を振り、門の前にはたくさんの仲間たちが集まっていた。
「ノクティア様、カイラス様、おかえりなさい!」
エイミーはほっとしたように涙をこぼし、ノクティアも笑顔で仲間たちに手を振る。
砦に帰るその一歩一歩が、たしかな“約束の証”となって心に刻まれていった。
* * *
夜。
砦の食堂には温かな明かりが灯り、ノクティアたちは帰還の報告とともに、村での出来事や約束、そこで出会った人々の話を語った。
「これからも、私たちは困っている人のもとへ、何度でも手を差し伸べます。
あの村も、私たちの大切な仲間ですから」
ノクティアの言葉に、砦の人々が力強くうなずく。
カイラスはそっと彼女の肩に手を置く。
「この砦が、みんなの“帰る場所”であり続けるために――俺たちはまた、前を向こう」
ノクティアも静かに誓った。
(これからも、約束を守り続ける。みんなの明日が、何度でも笑顔で満ちるように)
その夜、砦の窓から見えた星空は、村で見上げたものと変わらず静かに、やさしく瞬いていた。
倒壊した家々と仮設小屋、瓦礫の上にもやわらかな朝の光が差し込みはじめる。
その光は、傷を隠さず、ただ静かにすべてを照らし出していく。
ノクティアは、焚き火のそばで眠る子どもたちを見守りながら、新しい一日が始まる気配を感じていた。
昨夜はほとんど眠れなかったけれど、胸の中にはどこか晴れやかな充足感があった。
(今日で、私たちはこの村を離れる。けれど、ここで交わした“約束”は、ずっとみんなの胸に残る――)
* * *
朝食の支度が広場で始まった。
エイミーと村の女性たちが鍋を囲み、子どもたちがパンを運ぶ。
レオナートは復旧班の男たちに最後の指示を出し、カイラスは村長と並んで状況の確認をしていた。
ノクティアは村の中央に立ち、見慣れた顔ぶれを見回す。
この数日で、村人の表情は明らかに変わっていた。
恐怖と不安に曇っていた目が、今は未来を見据えて静かに輝いている。
朝食のあと、ノクティアたちの“帰還”の準備が始まった。
「本当に……行ってしまわれるのですか?」
村長が涙声で尋ねる。
「はい。でも、すぐにまた砦から人や物資を届けます。
村が立ち直るその日まで、私たちは何度でも戻ってきますから」
ノクティアは村長の手を両手で包み込み、ゆっくりと頷いた。
* * *
エイミーは見送りに集まった子どもたちの輪の中にいた。
「また来る?」としがみつく小さな手を優しく握りしめる。
「絶対に約束するわ。今度は砦の花畑にも遊びに来てね」
子どもたちは泣き笑いになりながら、「うん!」「絶対いく!」と元気に声をあげる。
レオナートは、力仕事をしてくれた若者たちと握手を交わしていた。
「あなたたちがこの村を支えるんです。困ったら、すぐ砦に知らせてください」
「レオナートさん、忘れません!」
みな、別れを惜しみながら、それでも胸を張って送り出してくれた。
* * *
ノクティアたち一行は、名残惜しさと静かな決意を胸に、村をあとにする。
道はまだところどころ荒れている。
倒木や崩れた小橋、ぬかるみを避けて進むたび、仲間たちは自然と声をかけあった。
「エイミー、足もと気をつけて」
「はい、大丈夫です。ノクティアさんも、疲れていませんか?」
「私は平気よ。こうやってみんなと歩くと、不思議と力が湧いてくるの」
カイラスも後ろで笑う。
「帰ったら、きっとまた砦で大忙しだぞ。……でも、今だけはゆっくり歩こう」
彼らの歩みには、悲しみだけでなく新しい誇りと、温かな連帯が宿っていた。
* * *
昼頃、川辺の広場で休憩を取る。
エイミーがパンを配り、ノクティアは冷たい水で皆の手を拭う。
「昔、こうして遠足の途中でお弁当を食べたこと、覚えてますか?」
レオナートが少しはにかんで口にする。
「覚えているわ。……あのころも、みんなで一緒に笑ってた」
カイラスが小さなパンをちぎりながら言う。
「戦いの前と後で、同じ道でも景色は違う。……でも、こうして歩けるのは“守るべきもの”ができたからだ」
ノクティアはうなずく。
「そうね。ここで出会えた人、交わした約束、すべてが宝物になった」
* * *
午後、森の中でにわか雨に降られ、一行は木の下で雨宿りする。
ぽつぽつと雨が降る中、エイミーがふと口ずさむ。
やがて子どもたちも追いかけるように、小さな歌を歌い始める。
「♪ 雨が降っても みんなでいれば 怖くない――」
みんなで笑いながら、焚き火の薪を分け合い、体を寄せ合う。
雨が止むと、空には淡い虹がかかった。
「虹だ……!」
ノクティアが指差し、みなでその美しさに見入る。
「きっと村の人たちも、今ごろ虹を見てるね」
「これが“再生”のしるしだったらいいな」
自然の気まぐれが、まるでみんなへの贈り物のように思えた。
* * *
夕暮れ時、砦の塔が遠くに見えてくる。
「帰ってきた……!」
見張り台から誰かが手を振り、門の前にはたくさんの仲間たちが集まっていた。
「ノクティア様、カイラス様、おかえりなさい!」
エイミーはほっとしたように涙をこぼし、ノクティアも笑顔で仲間たちに手を振る。
砦に帰るその一歩一歩が、たしかな“約束の証”となって心に刻まれていった。
* * *
夜。
砦の食堂には温かな明かりが灯り、ノクティアたちは帰還の報告とともに、村での出来事や約束、そこで出会った人々の話を語った。
「これからも、私たちは困っている人のもとへ、何度でも手を差し伸べます。
あの村も、私たちの大切な仲間ですから」
ノクティアの言葉に、砦の人々が力強くうなずく。
カイラスはそっと彼女の肩に手を置く。
「この砦が、みんなの“帰る場所”であり続けるために――俺たちはまた、前を向こう」
ノクティアも静かに誓った。
(これからも、約束を守り続ける。みんなの明日が、何度でも笑顔で満ちるように)
その夜、砦の窓から見えた星空は、村で見上げたものと変わらず静かに、やさしく瞬いていた。
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