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5章
58話「恋のライバル?」
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春の朝、花探し隊の活躍で新しい花々が咲き始めた砦の花壇は、みずみずしい色であふれていた。
ノクティアは、窓辺に置かれた小さな花かごを見つめながら、そっと微笑んでいた。
(みんなのおかげで、ここにいられる――本当に、ありがたいな……)
だが、その静けさは唐突に破られた。
* * *
「ノクティア、ちょっとお時間いいかしら?」
明るい声とともに現れたのは、旅装束の女性騎士――アリシアだった。
すらりとした体躯に凛とした笑顔。カイラスの幼なじみであり、砦の春祭り以来、すっかり皆の人気者になっている。
「昨日は花壇でずいぶん元気そうだったわね。もう体調は大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけして……」
ノクティアは、どうにも苦手な“人懐っこさ”に戸惑いを隠せなかった。
アリシアはぐっと距離を詰め、肩をぽんと叩く。
「やっぱり、カイラスはあなたのそばにいる時が一番いい顔してるわよ」
「えっ……?」
「本当に昔から、ああ見えて人一倍寂しがり屋なの。私たち、ちょっと似てるところがあるかもしれないわね」
ノクティアは、思わず視線を泳がせてしまう。
アリシアの気安い雰囲気と、自分の“どこか一線を引いてしまう心”の間で、言葉を探してしまう。
* * *
そんな二人の様子を、少し離れた木陰からエイミーとレオナートが見つめていた。
「ノクティアさん、ちょっと困ってますね……」
エイミーがハラハラと手を握る。
「だが、あれが“団長の幼なじみ”というやつか」
レオナートは苦笑しつつ、
「まあ、カイラス様に惚れてるのはノクティアさんしかいないと思うが」
「わたしもそう思います! 団長がどれだけ鈍感でも、きっと伝わりますよね」
「押してダメなら引いてみるのも恋だな」
ふたりは控えめに背中を押すつもりで、砦の中の空気を見守っていた。
* * *
昼前、ノクティアとアリシアは花壇のそばで並んで座っていた。
「カイラスって、子どもの頃から変わらないのよ。
真面目で、不器用で、誰かを守ろうとして……それでいて、意外と人の気持ちに疎いところもある」
アリシアの口ぶりは明るい。
でもその中に、ふと寂しさのようなものが混じるのをノクティアは感じた。
「……カイラスは、今も砦の皆を守ろうとしている。私も、その力になりたくて……」
「そう、それでいいと思うわ。私も昔は、誰かに頼られるのが嬉しかったけど……
今はね、好きな人の隣に立てるだけでいい、って思えるようになったの」
(好きな人――)
ノクティアは胸がぎゅっとなるのを感じた。
* * *
その時、広場の向こうからカイラスの声がした。
「ノクティア、調子はどうだ? 花壇まで来て大丈夫だったか」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
カイラスは気づかぬうちにノクティアとアリシアの間に立ち、
「アリシアも、ノクティアをあまり疲れさせるなよ」と笑う。
「……ふふ、わかったわ。団長さん、心配性ね」
アリシアがからかうと、カイラスはややむきになって「そ、そんなことは……!」と顔を赤らめる。
(カイラス……やっぱり鈍感なんだから)
ノクティアは胸がくすぐったくもあり、少しだけ寂しくもあった。
* * *
その後もアリシアは積極的にノクティアに話しかけ、花の育て方や旅先の話、
「カイラスは昔こんな失敗もしてね」と微笑ましいエピソードを次々と語ってくれる。
ノクティアも最初は戸惑っていたが、徐々にアリシアの人柄に心を開いていった。
その様子を、エイミーとレオナートはじれったそうに見守り続けていた。
* * *
夕暮れ。花壇のそばで、カイラスがノクティアにそっと声をかける。
「今日の花壇、ずいぶんにぎやかだったな」
「ええ、アリシアさんがたくさん話をしてくれて」
カイラスはしばし黙り、
「ノクティア、お前のそばにいるのは、俺だけじゃないって思うと……なんだか落ち着かなくなる」と、ぽつりと呟いた。
ノクティアは驚きながらも、小さく微笑んだ。
「私も、時々同じ気持ちになるよ」
互いに、素直に気持ちを伝えるのはまだ難しい。
けれど、距離は少しだけ近づいた気がした。
* * *
その夜、エイミーがそっとノクティアの部屋を訪ねた。
「ノクティアさん、団長様のこと……大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。みんなのおかげで、少しずつだけど、前を向けそう」
エイミーはうれしそうに微笑み、「ノクティアさんはきっと大丈夫です!」と背中を押す。
ノクティアは、砦の小さな窓から春の星空を見上げた。
(私も、ちゃんと自分の気持ちを大切にしたい……)
新しい花壇に咲き始めた花のように、心の奥にも小さな“恋”が芽吹き始めていた。
ノクティアは、窓辺に置かれた小さな花かごを見つめながら、そっと微笑んでいた。
(みんなのおかげで、ここにいられる――本当に、ありがたいな……)
だが、その静けさは唐突に破られた。
* * *
「ノクティア、ちょっとお時間いいかしら?」
明るい声とともに現れたのは、旅装束の女性騎士――アリシアだった。
すらりとした体躯に凛とした笑顔。カイラスの幼なじみであり、砦の春祭り以来、すっかり皆の人気者になっている。
「昨日は花壇でずいぶん元気そうだったわね。もう体調は大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけして……」
ノクティアは、どうにも苦手な“人懐っこさ”に戸惑いを隠せなかった。
アリシアはぐっと距離を詰め、肩をぽんと叩く。
「やっぱり、カイラスはあなたのそばにいる時が一番いい顔してるわよ」
「えっ……?」
「本当に昔から、ああ見えて人一倍寂しがり屋なの。私たち、ちょっと似てるところがあるかもしれないわね」
ノクティアは、思わず視線を泳がせてしまう。
アリシアの気安い雰囲気と、自分の“どこか一線を引いてしまう心”の間で、言葉を探してしまう。
* * *
そんな二人の様子を、少し離れた木陰からエイミーとレオナートが見つめていた。
「ノクティアさん、ちょっと困ってますね……」
エイミーがハラハラと手を握る。
「だが、あれが“団長の幼なじみ”というやつか」
レオナートは苦笑しつつ、
「まあ、カイラス様に惚れてるのはノクティアさんしかいないと思うが」
「わたしもそう思います! 団長がどれだけ鈍感でも、きっと伝わりますよね」
「押してダメなら引いてみるのも恋だな」
ふたりは控えめに背中を押すつもりで、砦の中の空気を見守っていた。
* * *
昼前、ノクティアとアリシアは花壇のそばで並んで座っていた。
「カイラスって、子どもの頃から変わらないのよ。
真面目で、不器用で、誰かを守ろうとして……それでいて、意外と人の気持ちに疎いところもある」
アリシアの口ぶりは明るい。
でもその中に、ふと寂しさのようなものが混じるのをノクティアは感じた。
「……カイラスは、今も砦の皆を守ろうとしている。私も、その力になりたくて……」
「そう、それでいいと思うわ。私も昔は、誰かに頼られるのが嬉しかったけど……
今はね、好きな人の隣に立てるだけでいい、って思えるようになったの」
(好きな人――)
ノクティアは胸がぎゅっとなるのを感じた。
* * *
その時、広場の向こうからカイラスの声がした。
「ノクティア、調子はどうだ? 花壇まで来て大丈夫だったか」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
カイラスは気づかぬうちにノクティアとアリシアの間に立ち、
「アリシアも、ノクティアをあまり疲れさせるなよ」と笑う。
「……ふふ、わかったわ。団長さん、心配性ね」
アリシアがからかうと、カイラスはややむきになって「そ、そんなことは……!」と顔を赤らめる。
(カイラス……やっぱり鈍感なんだから)
ノクティアは胸がくすぐったくもあり、少しだけ寂しくもあった。
* * *
その後もアリシアは積極的にノクティアに話しかけ、花の育て方や旅先の話、
「カイラスは昔こんな失敗もしてね」と微笑ましいエピソードを次々と語ってくれる。
ノクティアも最初は戸惑っていたが、徐々にアリシアの人柄に心を開いていった。
その様子を、エイミーとレオナートはじれったそうに見守り続けていた。
* * *
夕暮れ。花壇のそばで、カイラスがノクティアにそっと声をかける。
「今日の花壇、ずいぶんにぎやかだったな」
「ええ、アリシアさんがたくさん話をしてくれて」
カイラスはしばし黙り、
「ノクティア、お前のそばにいるのは、俺だけじゃないって思うと……なんだか落ち着かなくなる」と、ぽつりと呟いた。
ノクティアは驚きながらも、小さく微笑んだ。
「私も、時々同じ気持ちになるよ」
互いに、素直に気持ちを伝えるのはまだ難しい。
けれど、距離は少しだけ近づいた気がした。
* * *
その夜、エイミーがそっとノクティアの部屋を訪ねた。
「ノクティアさん、団長様のこと……大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。みんなのおかげで、少しずつだけど、前を向けそう」
エイミーはうれしそうに微笑み、「ノクティアさんはきっと大丈夫です!」と背中を押す。
ノクティアは、砦の小さな窓から春の星空を見上げた。
(私も、ちゃんと自分の気持ちを大切にしたい……)
新しい花壇に咲き始めた花のように、心の奥にも小さな“恋”が芽吹き始めていた。
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