73 / 107
5章
68話「春の贈り物」
しおりを挟む
春風が砦の花壇をゆるやかに揺らし、畑では小さなつぼみたちがいっせいに首をもたげていた。
村も砦も、奇跡の花が咲いたその日から、どこか光に包まれているようだった。
ノクティアは朝早く目を覚ますと、窓から春の景色を見下ろした。
花壇の色、畑の緑、子どもたちの弾む声……。
この場所でまた新しい一日を迎えられることが、まるで夢の続きのようだった。
* * *
「ノクティア様、ちょっと来てください!」
食堂で朝食をとっていたノクティアのもとに、サーシャとフレッドが駆け込んでくる。
息を切らし、頬を上気させ、二人はノクティアの手を引いた。
「どうしたの?」
「内緒! でも、すごく大事なこと!」
不思議そうにしながらもノクティアは子どもたちに導かれて砦の外へ出る。
すると、砦の花畑で村と砦の子どもたちが、花冠や花飾りを手にして大騒ぎしていた。
「ノクティア様、これ、わたしたちからの贈り物です!」
エイミーやアリシア、レオナート、砦の兵士や村の大人たちも、なにやらそわそわと見守っている。
* * *
花畑の中央には、子どもたちが一晩かけて作った大きな「花の冠」が置かれていた。
たくさんの春の花、奇跡の花の花びら、色とりどりのリボンや葉っぱで編み込まれたそれは、
まるで春そのものをかたどったような、美しい冠だった。
「ノクティア様、カイラス様――
ずっとわたしたちを守ってくれてありがとう!
だから今日は、わたしたちがふたりを祝います!」
サーシャが誇らしげに言い、フレッドがすかさず「これ、みんなで作ったんだよ!」と胸を張る。
ノクティアは驚きと嬉しさで声が出ない。
カイラスも、普段は無口な彼が目を丸くしていた。
「これは……すごいな」
「本当に、みんな……ありがとう」
花冠はまずノクティアの頭にそっと乗せられる。
カイラスには、もうひとつ、子どもたちが作ったシンプルな王冠のような花輪が渡される。
「団長にも似合うかな?」
子どもたちの笑い声に、カイラスは珍しく照れながら、
「いや、俺にはもったいないな……」とつぶやく。
だがノクティアがそっと手を取ると、二人は自然と見つめ合い、
笑顔がふわりとこぼれる。
* * *
「さあ、今日はいよいよ“大宴会”だ!」
レオナートの高らかな号令で、砦と村をあげた宴が始まった。
花畑の中央に長いテーブルが並べられ、エイミーやアリシアが腕を振るった料理が次々に運ばれる。
パン、シチュー、焼き菓子、畑の春野菜……
子どもたちも大人たちも、お腹いっぱい食べ、笑い合い、
この場所でしか味わえない“春の幸せ”を分かち合った。
* * *
宴の合間、子どもたちが劇や歌を披露する。
エイミーは子どもたちと一緒に「奇跡の花の歌」を歌い、
アリシアは剣さばきの妙技を見せ、レオナートは珍しくギターを弾いて場を盛り上げる。
途中でフレッドが転んで泥だらけになり、サーシャが「だいじょうぶ?」と泣きそうになったかと思えば、
次の瞬間には皆で転げ回って大笑い。
誰かの帽子が羊に食べられそうになり、村の少年があわてて追いかける――
砦には久しぶりに、屈託のない笑い声が響きわたった。
* * *
宴もたけなわ、エイミーがそっとノクティアに声をかける。
「ノクティアさん、団長と一緒に花冠で踊りませんか?」
カイラスも「せっかくだから、みんなの前で踊ろう」と手を差し出す。
ノクティアは照れくさそうに頷き、
カイラスの手を取り、花畑の真ん中でゆっくりと舞う。
子どもたちや大人たちが手を叩き、
「ノクティア様!」「団長!」「ふたりとも最高!」と声を揃える。
ノクティアの頬には涙が伝い、
カイラスも珍しく、幸せそうな微笑みを浮かべていた。
* * *
夜になっても、宴の輪は続く。
花壇には灯火がともされ、子どもたちは疲れて眠り、大人たちは火を囲みながら語り合う。
エイミーが「ノクティアさん、今日はもう泣いてもいいですよ」とささやき、
ノクティアはみんなの手を握りしめた。
「……みんな、本当にありがとう。
私も、これからはみんなの幸せのために、生きていくね」
カイラスが静かに寄り添い、
「これからも、この場所を守り続けよう」と約束した。
* * *
春の夜風の中、砦の花畑では、花の冠がやさしく揺れていた。
――涙も、笑いも、希望も、全部この春の贈り物。
ノクティアもカイラスも、そして村と砦の全員も、
この日ばかりは、世界でいちばん幸せな笑顔になっていた。
村も砦も、奇跡の花が咲いたその日から、どこか光に包まれているようだった。
ノクティアは朝早く目を覚ますと、窓から春の景色を見下ろした。
花壇の色、畑の緑、子どもたちの弾む声……。
この場所でまた新しい一日を迎えられることが、まるで夢の続きのようだった。
* * *
「ノクティア様、ちょっと来てください!」
食堂で朝食をとっていたノクティアのもとに、サーシャとフレッドが駆け込んでくる。
息を切らし、頬を上気させ、二人はノクティアの手を引いた。
「どうしたの?」
「内緒! でも、すごく大事なこと!」
不思議そうにしながらもノクティアは子どもたちに導かれて砦の外へ出る。
すると、砦の花畑で村と砦の子どもたちが、花冠や花飾りを手にして大騒ぎしていた。
「ノクティア様、これ、わたしたちからの贈り物です!」
エイミーやアリシア、レオナート、砦の兵士や村の大人たちも、なにやらそわそわと見守っている。
* * *
花畑の中央には、子どもたちが一晩かけて作った大きな「花の冠」が置かれていた。
たくさんの春の花、奇跡の花の花びら、色とりどりのリボンや葉っぱで編み込まれたそれは、
まるで春そのものをかたどったような、美しい冠だった。
「ノクティア様、カイラス様――
ずっとわたしたちを守ってくれてありがとう!
だから今日は、わたしたちがふたりを祝います!」
サーシャが誇らしげに言い、フレッドがすかさず「これ、みんなで作ったんだよ!」と胸を張る。
ノクティアは驚きと嬉しさで声が出ない。
カイラスも、普段は無口な彼が目を丸くしていた。
「これは……すごいな」
「本当に、みんな……ありがとう」
花冠はまずノクティアの頭にそっと乗せられる。
カイラスには、もうひとつ、子どもたちが作ったシンプルな王冠のような花輪が渡される。
「団長にも似合うかな?」
子どもたちの笑い声に、カイラスは珍しく照れながら、
「いや、俺にはもったいないな……」とつぶやく。
だがノクティアがそっと手を取ると、二人は自然と見つめ合い、
笑顔がふわりとこぼれる。
* * *
「さあ、今日はいよいよ“大宴会”だ!」
レオナートの高らかな号令で、砦と村をあげた宴が始まった。
花畑の中央に長いテーブルが並べられ、エイミーやアリシアが腕を振るった料理が次々に運ばれる。
パン、シチュー、焼き菓子、畑の春野菜……
子どもたちも大人たちも、お腹いっぱい食べ、笑い合い、
この場所でしか味わえない“春の幸せ”を分かち合った。
* * *
宴の合間、子どもたちが劇や歌を披露する。
エイミーは子どもたちと一緒に「奇跡の花の歌」を歌い、
アリシアは剣さばきの妙技を見せ、レオナートは珍しくギターを弾いて場を盛り上げる。
途中でフレッドが転んで泥だらけになり、サーシャが「だいじょうぶ?」と泣きそうになったかと思えば、
次の瞬間には皆で転げ回って大笑い。
誰かの帽子が羊に食べられそうになり、村の少年があわてて追いかける――
砦には久しぶりに、屈託のない笑い声が響きわたった。
* * *
宴もたけなわ、エイミーがそっとノクティアに声をかける。
「ノクティアさん、団長と一緒に花冠で踊りませんか?」
カイラスも「せっかくだから、みんなの前で踊ろう」と手を差し出す。
ノクティアは照れくさそうに頷き、
カイラスの手を取り、花畑の真ん中でゆっくりと舞う。
子どもたちや大人たちが手を叩き、
「ノクティア様!」「団長!」「ふたりとも最高!」と声を揃える。
ノクティアの頬には涙が伝い、
カイラスも珍しく、幸せそうな微笑みを浮かべていた。
* * *
夜になっても、宴の輪は続く。
花壇には灯火がともされ、子どもたちは疲れて眠り、大人たちは火を囲みながら語り合う。
エイミーが「ノクティアさん、今日はもう泣いてもいいですよ」とささやき、
ノクティアはみんなの手を握りしめた。
「……みんな、本当にありがとう。
私も、これからはみんなの幸せのために、生きていくね」
カイラスが静かに寄り添い、
「これからも、この場所を守り続けよう」と約束した。
* * *
春の夜風の中、砦の花畑では、花の冠がやさしく揺れていた。
――涙も、笑いも、希望も、全部この春の贈り物。
ノクティアもカイラスも、そして村と砦の全員も、
この日ばかりは、世界でいちばん幸せな笑顔になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜
緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる