【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

72話「始まりの審問会」

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 王都の朝は、砦で迎える朝とは違っていた。
 鳥のさえずりも、石畳を叩く馬車の車輪の音も、すべてがどこか張り詰めている。

 ノクティア・エルヴァーンは、王都の中央魔導士会館の前で一度だけ深呼吸をした。
 この地に「最強魔導士」として迎えられたものの、本当に自分が王都で認められるのか――不安と期待が胸の奥で渦を巻いていた。

 会館の扉を開くと、すでに厳めしい顔ぶれがずらりと並んでいた。

 王都魔導士会の長老たち、その背後には上級貴族や王宮の重臣たち、
 そしてその最奥には――第2皇子にして監察官のリュゼル。

 リュゼルは公務用のローブに身を包み、凛然とした瞳でノクティアを見据えていた。
 昨日とはうってかわって、まるで他人のような冷たい眼差し。

 「ノクティア・エルヴァーン。辺境の功績により王都への帰還を許可されたが、その実力と人格が王都にふさわしいか、魔導士会にて正式に審問を行う。異議はあるか?」

 その言葉に、会場の空気がぴんと張りつめる。

 ノクティアは静かに頭を下げる。

 「異議ありません」

    * * *

 審問会の会場は、まるで公開裁判のようだった。

 魔導士会長老が形式的な称賛を述べたあと、すぐに厳しい質問が飛んでくる。

 「なぜ王都を離れ、辺境に下った?」
 「“無能令嬢”と呼ばれた過去をどう思う?」
 「あなたの魔法は王都の伝統に背くものでは?」

 会場には、ノクティアを“奇異の目”で見つめる貴族や魔導士の姿も多い。
 「一度失敗した者が栄誉を得てよいのか」
 「家門の名に泥を塗った娘を、再び迎える価値があるのか」――
 そんな声が、ささやきのように広がっていく。

 リュゼルはあえてそれを制止しない。
 むしろ、魔導士会の一員として厳しい目を向け、「特別扱いはしない」と周囲に示しているようだった。

 (これは私に与えられた“試練”……。逃げては、だめ)

 ノクティアは、ただ静かに一つひとつの問いに答えていく。

 「私は自分の力を証明したいのではなく、私を信じてくれる人たちに恥じない生き方を選びました」
 「無能だと呼ばれたのは、私の未熟さゆえです。ですが、今は人の痛みや弱さを知る強さも得られたと思っています」
 「伝統や格式よりも、“誰かを救うための魔法”でありたいと願っています」

 誠実な答え――
 けれど、長老たちは簡単に首を縦には振らない。

 「では、“最強”を謳うその力、実際に見せてもらおうか」
 魔導士会随一の試験場へと、ノクティアは導かれた。

    * * *

 円形の試験場。観覧席には、貴族や官僚だけでなく、多くの魔導士が集まっていた。

 「実技審査――」

 リュゼルが審判役として静かに宣言する。

 「課題は三つ。“防御障壁の展開”“治癒魔術の応用”“高度な創造魔法の実演”」

 どれも王都魔導士として“正統”とされるものばかり。
 だが、その内容にはリュゼルの「厳しさ」と「公正さ」がはっきりと見て取れた。

 (逃げない。今の私を、見せるだけ)

 ノクティアは静かに杖を構える。

    * * *

 最初の課題、「防御障壁の展開」。
 ノクティアは凛とした所作で詠唱し、空間に美しい結界を張る。
 だがそれはただ硬い壁ではなく、周囲の魔力の流れを調和させる“癒し”の波動を持っていた。

 「まるで空気が澄んでいくようだ……」
 「従来の障壁魔法とまったく異質……」

 見守る魔導士たちがざわめく。

    * * *

 次の課題は「治癒魔術の応用」。
 難易度の高い“同時複数治癒”――
 ノクティアは両手をかざし、重傷に見立てた魔導士の“疑似患者”たちを同時に癒してみせる。

 「ただ力が強いだけじゃない。思いやりが……」「ここまで温かい治癒魔法は……」

 観覧席から、驚嘆と感動のため息が洩れた。

    * * *

 最後の課題、「創造魔法」。
 ノクティアは目を閉じ、静かに心を整える。

 (私は、“誰かを救いたい”という気持ちが――力になる)

 彼女が唱えたのは、“辺境”で仲間を守ったときに編み出した独自の魔法――
 大地から花が咲き、空間が優しく光で満ちていく。
 ただ派手なだけの魔術ではなく、「そこにいる全ての人の心が癒やされる」――そんな創造の奇跡。

 「これが……“最強魔導士”の、真の魔法か……」
 「王都の伝統とは違うが、確かに新しい時代の力だ」

 会場は圧倒的な沈黙、そしてじわじわと感嘆の波が広がっていった。

    * * *

 審問会はすべて終わった。

 長老たちは「型破りだ」と困惑しながらも、その圧倒的な実力を認めざるを得なかった。
 貴族や権力者の中にも、静かにノクティアの姿に心を動かされた者たちがいた。

 リュゼルは審問会の締めくくりとして言った。

 「ノクティア・エルヴァーン、王都魔導士会はお前の実力を認める。
 ……ただし、ここは“力ある者”ほど人の目に晒される場だ。
 忘れるな、これはお前の新しい始まりだ」

 ノクティアは深く頭を下げる。

 「ありがとうございます。私は、力だけでなく、“人として”王都で受け入れられるよう努めます」

    * * *

 審問会が終わり、控室で一人きりになる。
 ノクティアは鏡の前で静かに微笑んだ。

 (私は、過去の自分と――今、ようやく向き合えた気がする)

 ――でも、これからが本当の“試練”。
 力だけでは得られない、仲間、絆、信頼――
 それを王都で築いていくと、改めて心に誓う。

 ノクティアの新たな日々が、ここから静かに始まろうとしていた。
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