78 / 107
6章
72話「始まりの審問会」
しおりを挟む
王都の朝は、砦で迎える朝とは違っていた。
鳥のさえずりも、石畳を叩く馬車の車輪の音も、すべてがどこか張り詰めている。
ノクティア・エルヴァーンは、王都の中央魔導士会館の前で一度だけ深呼吸をした。
この地に「最強魔導士」として迎えられたものの、本当に自分が王都で認められるのか――不安と期待が胸の奥で渦を巻いていた。
会館の扉を開くと、すでに厳めしい顔ぶれがずらりと並んでいた。
王都魔導士会の長老たち、その背後には上級貴族や王宮の重臣たち、
そしてその最奥には――第2皇子にして監察官のリュゼル。
リュゼルは公務用のローブに身を包み、凛然とした瞳でノクティアを見据えていた。
昨日とはうってかわって、まるで他人のような冷たい眼差し。
「ノクティア・エルヴァーン。辺境の功績により王都への帰還を許可されたが、その実力と人格が王都にふさわしいか、魔導士会にて正式に審問を行う。異議はあるか?」
その言葉に、会場の空気がぴんと張りつめる。
ノクティアは静かに頭を下げる。
「異議ありません」
* * *
審問会の会場は、まるで公開裁判のようだった。
魔導士会長老が形式的な称賛を述べたあと、すぐに厳しい質問が飛んでくる。
「なぜ王都を離れ、辺境に下った?」
「“無能令嬢”と呼ばれた過去をどう思う?」
「あなたの魔法は王都の伝統に背くものでは?」
会場には、ノクティアを“奇異の目”で見つめる貴族や魔導士の姿も多い。
「一度失敗した者が栄誉を得てよいのか」
「家門の名に泥を塗った娘を、再び迎える価値があるのか」――
そんな声が、ささやきのように広がっていく。
リュゼルはあえてそれを制止しない。
むしろ、魔導士会の一員として厳しい目を向け、「特別扱いはしない」と周囲に示しているようだった。
(これは私に与えられた“試練”……。逃げては、だめ)
ノクティアは、ただ静かに一つひとつの問いに答えていく。
「私は自分の力を証明したいのではなく、私を信じてくれる人たちに恥じない生き方を選びました」
「無能だと呼ばれたのは、私の未熟さゆえです。ですが、今は人の痛みや弱さを知る強さも得られたと思っています」
「伝統や格式よりも、“誰かを救うための魔法”でありたいと願っています」
誠実な答え――
けれど、長老たちは簡単に首を縦には振らない。
「では、“最強”を謳うその力、実際に見せてもらおうか」
魔導士会随一の試験場へと、ノクティアは導かれた。
* * *
円形の試験場。観覧席には、貴族や官僚だけでなく、多くの魔導士が集まっていた。
「実技審査――」
リュゼルが審判役として静かに宣言する。
「課題は三つ。“防御障壁の展開”“治癒魔術の応用”“高度な創造魔法の実演”」
どれも王都魔導士として“正統”とされるものばかり。
だが、その内容にはリュゼルの「厳しさ」と「公正さ」がはっきりと見て取れた。
(逃げない。今の私を、見せるだけ)
ノクティアは静かに杖を構える。
* * *
最初の課題、「防御障壁の展開」。
ノクティアは凛とした所作で詠唱し、空間に美しい結界を張る。
だがそれはただ硬い壁ではなく、周囲の魔力の流れを調和させる“癒し”の波動を持っていた。
「まるで空気が澄んでいくようだ……」
「従来の障壁魔法とまったく異質……」
見守る魔導士たちがざわめく。
* * *
次の課題は「治癒魔術の応用」。
難易度の高い“同時複数治癒”――
ノクティアは両手をかざし、重傷に見立てた魔導士の“疑似患者”たちを同時に癒してみせる。
「ただ力が強いだけじゃない。思いやりが……」「ここまで温かい治癒魔法は……」
観覧席から、驚嘆と感動のため息が洩れた。
* * *
最後の課題、「創造魔法」。
ノクティアは目を閉じ、静かに心を整える。
(私は、“誰かを救いたい”という気持ちが――力になる)
彼女が唱えたのは、“辺境”で仲間を守ったときに編み出した独自の魔法――
大地から花が咲き、空間が優しく光で満ちていく。
ただ派手なだけの魔術ではなく、「そこにいる全ての人の心が癒やされる」――そんな創造の奇跡。
「これが……“最強魔導士”の、真の魔法か……」
「王都の伝統とは違うが、確かに新しい時代の力だ」
会場は圧倒的な沈黙、そしてじわじわと感嘆の波が広がっていった。
* * *
審問会はすべて終わった。
長老たちは「型破りだ」と困惑しながらも、その圧倒的な実力を認めざるを得なかった。
貴族や権力者の中にも、静かにノクティアの姿に心を動かされた者たちがいた。
リュゼルは審問会の締めくくりとして言った。
「ノクティア・エルヴァーン、王都魔導士会はお前の実力を認める。
……ただし、ここは“力ある者”ほど人の目に晒される場だ。
忘れるな、これはお前の新しい始まりだ」
ノクティアは深く頭を下げる。
「ありがとうございます。私は、力だけでなく、“人として”王都で受け入れられるよう努めます」
* * *
審問会が終わり、控室で一人きりになる。
ノクティアは鏡の前で静かに微笑んだ。
(私は、過去の自分と――今、ようやく向き合えた気がする)
――でも、これからが本当の“試練”。
力だけでは得られない、仲間、絆、信頼――
それを王都で築いていくと、改めて心に誓う。
ノクティアの新たな日々が、ここから静かに始まろうとしていた。
鳥のさえずりも、石畳を叩く馬車の車輪の音も、すべてがどこか張り詰めている。
ノクティア・エルヴァーンは、王都の中央魔導士会館の前で一度だけ深呼吸をした。
この地に「最強魔導士」として迎えられたものの、本当に自分が王都で認められるのか――不安と期待が胸の奥で渦を巻いていた。
会館の扉を開くと、すでに厳めしい顔ぶれがずらりと並んでいた。
王都魔導士会の長老たち、その背後には上級貴族や王宮の重臣たち、
そしてその最奥には――第2皇子にして監察官のリュゼル。
リュゼルは公務用のローブに身を包み、凛然とした瞳でノクティアを見据えていた。
昨日とはうってかわって、まるで他人のような冷たい眼差し。
「ノクティア・エルヴァーン。辺境の功績により王都への帰還を許可されたが、その実力と人格が王都にふさわしいか、魔導士会にて正式に審問を行う。異議はあるか?」
その言葉に、会場の空気がぴんと張りつめる。
ノクティアは静かに頭を下げる。
「異議ありません」
* * *
審問会の会場は、まるで公開裁判のようだった。
魔導士会長老が形式的な称賛を述べたあと、すぐに厳しい質問が飛んでくる。
「なぜ王都を離れ、辺境に下った?」
「“無能令嬢”と呼ばれた過去をどう思う?」
「あなたの魔法は王都の伝統に背くものでは?」
会場には、ノクティアを“奇異の目”で見つめる貴族や魔導士の姿も多い。
「一度失敗した者が栄誉を得てよいのか」
「家門の名に泥を塗った娘を、再び迎える価値があるのか」――
そんな声が、ささやきのように広がっていく。
リュゼルはあえてそれを制止しない。
むしろ、魔導士会の一員として厳しい目を向け、「特別扱いはしない」と周囲に示しているようだった。
(これは私に与えられた“試練”……。逃げては、だめ)
ノクティアは、ただ静かに一つひとつの問いに答えていく。
「私は自分の力を証明したいのではなく、私を信じてくれる人たちに恥じない生き方を選びました」
「無能だと呼ばれたのは、私の未熟さゆえです。ですが、今は人の痛みや弱さを知る強さも得られたと思っています」
「伝統や格式よりも、“誰かを救うための魔法”でありたいと願っています」
誠実な答え――
けれど、長老たちは簡単に首を縦には振らない。
「では、“最強”を謳うその力、実際に見せてもらおうか」
魔導士会随一の試験場へと、ノクティアは導かれた。
* * *
円形の試験場。観覧席には、貴族や官僚だけでなく、多くの魔導士が集まっていた。
「実技審査――」
リュゼルが審判役として静かに宣言する。
「課題は三つ。“防御障壁の展開”“治癒魔術の応用”“高度な創造魔法の実演”」
どれも王都魔導士として“正統”とされるものばかり。
だが、その内容にはリュゼルの「厳しさ」と「公正さ」がはっきりと見て取れた。
(逃げない。今の私を、見せるだけ)
ノクティアは静かに杖を構える。
* * *
最初の課題、「防御障壁の展開」。
ノクティアは凛とした所作で詠唱し、空間に美しい結界を張る。
だがそれはただ硬い壁ではなく、周囲の魔力の流れを調和させる“癒し”の波動を持っていた。
「まるで空気が澄んでいくようだ……」
「従来の障壁魔法とまったく異質……」
見守る魔導士たちがざわめく。
* * *
次の課題は「治癒魔術の応用」。
難易度の高い“同時複数治癒”――
ノクティアは両手をかざし、重傷に見立てた魔導士の“疑似患者”たちを同時に癒してみせる。
「ただ力が強いだけじゃない。思いやりが……」「ここまで温かい治癒魔法は……」
観覧席から、驚嘆と感動のため息が洩れた。
* * *
最後の課題、「創造魔法」。
ノクティアは目を閉じ、静かに心を整える。
(私は、“誰かを救いたい”という気持ちが――力になる)
彼女が唱えたのは、“辺境”で仲間を守ったときに編み出した独自の魔法――
大地から花が咲き、空間が優しく光で満ちていく。
ただ派手なだけの魔術ではなく、「そこにいる全ての人の心が癒やされる」――そんな創造の奇跡。
「これが……“最強魔導士”の、真の魔法か……」
「王都の伝統とは違うが、確かに新しい時代の力だ」
会場は圧倒的な沈黙、そしてじわじわと感嘆の波が広がっていった。
* * *
審問会はすべて終わった。
長老たちは「型破りだ」と困惑しながらも、その圧倒的な実力を認めざるを得なかった。
貴族や権力者の中にも、静かにノクティアの姿に心を動かされた者たちがいた。
リュゼルは審問会の締めくくりとして言った。
「ノクティア・エルヴァーン、王都魔導士会はお前の実力を認める。
……ただし、ここは“力ある者”ほど人の目に晒される場だ。
忘れるな、これはお前の新しい始まりだ」
ノクティアは深く頭を下げる。
「ありがとうございます。私は、力だけでなく、“人として”王都で受け入れられるよう努めます」
* * *
審問会が終わり、控室で一人きりになる。
ノクティアは鏡の前で静かに微笑んだ。
(私は、過去の自分と――今、ようやく向き合えた気がする)
――でも、これからが本当の“試練”。
力だけでは得られない、仲間、絆、信頼――
それを王都で築いていくと、改めて心に誓う。
ノクティアの新たな日々が、ここから静かに始まろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜
緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる