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6章
75話「仮初めの協力」
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王都の朝は、喧噪と不安が入り混じっていた。
魔導士連続失踪事件――その影は下町にも及び、市井の人々の目にも、日増しに怯えと疑念が深く刻まれていく。
ノクティア・エルヴァーンはリュゼルとともに、今日も王都の下町へと足を運んでいた。
昨日は互いに激しくぶつかり合い、心の奥に深い溝ができたように感じていたが、
それでも「捜査」という共通の目的のために、二人は歩みを揃えていた。
* * *
王都の下町――かつてノクティアが“辺境送り”になる前、家名を蔑まれ、誰からも顧みられなかった路地裏。
だが今、彼女の目はもう過去の自分に縛られてはいなかった。
「……昨日の現場、もう一度確かめてみましょう」
ノクティアがそう切り出すと、リュゼルは頷く。
「昨夜の聞き込みで“黒衣の魔導士”を見たという証言が二件、同じ筋の通りから得られた。魔力痕跡もまだ新しい」
ふたりは黙々と現場を歩き、石畳に残る微かな魔力の流れを指先でなぞる。
「やはり……“転移”と“幻惑”の魔法が複雑に絡んでいる。これほどの高度な魔術を操れる者が、王都のどこかに潜んでいるなんて」
ノクティアの声に、リュゼルが静かに付け加える。
「そして失踪者はいずれも、“古代魔導理論”に関心を持っていた若手魔導士……この選別に何の意味が?」
ふと、遠くで子どもの叫び声が響いた。
「お、お母さーん! 誰か、助けて!」
ノクティアとリュゼルは反射的に駆け出した。
* * *
路地の先では、小さな男の子が大きな犬――いや、牙の伸びた魔物――に追われていた。
傍には、倒れ込んだ女性の姿。
「ノクティア!」
「ええ、いくわ!」
ノクティアは咄嗟に防御障壁を展開し、子どもを覆う。
リュゼルは冷静に魔導剣を抜き、魔物の進路を塞いだ。
「やるしかないな……!」
ノクティアの癒しの光が倒れた女性を包み、リュゼルの鋭い一撃が魔物を威嚇する。
短い連携――。
だが、ふたりの呼吸はすぐにぴたりと合った。
「ノクティア、魔力支援を頼む!」
「わかった!」
ノクティアが魔力の流れを制御し、リュゼルの剣に“雷撃”の魔法を重ねる。
稲妻が魔物を打ち、やがて路地の静寂が戻る。
「大丈夫ですか? けがは?」
ノクティアが子どもと女性に駆け寄る。
「あ、あなたが……最強魔導士様……」
「ありがとう、助かったよ……!」
リュゼルもひとつ深く息をつき、ふとノクティアを見た。
いつもの柔らかな微笑み。その横顔に、不思議な安心感を覚えた自分がいた。
* * *
「手際が良かったな、ノクティア」
「リュゼルも。魔物退治は久しぶりだったけど、意外と息が合うものね」
ふたりは自然に視線を交わす。
まだ少しだけぎこちないが、ほんの短い時間の中で“信頼”の芽が生まれ始めていた。
「……王都でも、“誰かを救う魔導士”でいられる気がしてきたわ」
「君のやり方は、王都でも認められるべきだと、少しだけ思えてきた」
リュゼルは、気恥ずかしそうに目をそらした。
(……いったい、どうしたんだ俺は。いつもなら“秩序”だけを優先してきたはずなのに)
ノクティアも胸の奥に、言葉にできない感情が生まれていた。
* * *
小さな事件の解決に、下町の人々は素直な拍手と歓声を送った。
「ありがとう、ノクティア様!」「殿下も、かっこよかった!」
ふたりは思わず顔を見合わせ、少し照れくさそうに笑った。
そのとき、石畳の向こうから力強い足音が響いてくる。
「ノクティア、無事か!」
振り返れば、カイラスが颯爽と現れた。
王都に到着したばかりとは思えないほどの落ち着きと存在感――その姿に、下町の人々がどよめいた。
「カイラス……!」
ノクティアの表情がほころぶ。
だが、その瞬間、リュゼルの胸に微かな違和感が走った。
(なぜだ……なぜ、俺は“あいつ”が来ただけで、こんなに落ち着かない?)
カイラスはノクティアの無事を何より気遣い、傷の手当てを優しく施す。
「君は昔から無理をしすぎる。ここでも同じだな。――リュゼル殿下、妹をよろしく頼む」
「……もちろんだ」
リュゼルは思わず、カイラスの横顔をじっと見つめる。
カイラスがノクティアを“特別”に思っていることが、隠しようもなく伝わってくる。
(自分は彼女にとって、どんな存在なのか――)
* * *
事件現場を後にしながら、ノクティアは二人の間で揺れていた。
カイラスの温かさも、リュゼルの誠実さも、どちらも彼女の心に残る。
けれど今は、目の前の事件に向き合うことでしか、自分の気持ちに答えを出せなかった。
「ありがとう、リュゼル。……さっきは、いい連携だったね」
「……ああ。これからも、二人で協力しよう」
リュゼルは素直に答える。その声は、どこか頼もしく、そして揺れていた。
* * *
夜の王都――
塔の上から、リュゼルは灯りの消えゆく街を見下ろしていた。
(ノクティア……。お前を“監察官”としてではなく、一人の女性として見ている自分がいる)
そう気づいたとき、リュゼルの心には、初めての“戸惑い”と“ときめき”が芽生えていた。
* * *
王都の闇の底では、さらなる不穏な魔力が渦巻いている。
だが、ノクティアとリュゼル――そしてカイラスの三人が、
新たな事件と“心の謎”に向き合う夜は、これからも続いていく――。
魔導士連続失踪事件――その影は下町にも及び、市井の人々の目にも、日増しに怯えと疑念が深く刻まれていく。
ノクティア・エルヴァーンはリュゼルとともに、今日も王都の下町へと足を運んでいた。
昨日は互いに激しくぶつかり合い、心の奥に深い溝ができたように感じていたが、
それでも「捜査」という共通の目的のために、二人は歩みを揃えていた。
* * *
王都の下町――かつてノクティアが“辺境送り”になる前、家名を蔑まれ、誰からも顧みられなかった路地裏。
だが今、彼女の目はもう過去の自分に縛られてはいなかった。
「……昨日の現場、もう一度確かめてみましょう」
ノクティアがそう切り出すと、リュゼルは頷く。
「昨夜の聞き込みで“黒衣の魔導士”を見たという証言が二件、同じ筋の通りから得られた。魔力痕跡もまだ新しい」
ふたりは黙々と現場を歩き、石畳に残る微かな魔力の流れを指先でなぞる。
「やはり……“転移”と“幻惑”の魔法が複雑に絡んでいる。これほどの高度な魔術を操れる者が、王都のどこかに潜んでいるなんて」
ノクティアの声に、リュゼルが静かに付け加える。
「そして失踪者はいずれも、“古代魔導理論”に関心を持っていた若手魔導士……この選別に何の意味が?」
ふと、遠くで子どもの叫び声が響いた。
「お、お母さーん! 誰か、助けて!」
ノクティアとリュゼルは反射的に駆け出した。
* * *
路地の先では、小さな男の子が大きな犬――いや、牙の伸びた魔物――に追われていた。
傍には、倒れ込んだ女性の姿。
「ノクティア!」
「ええ、いくわ!」
ノクティアは咄嗟に防御障壁を展開し、子どもを覆う。
リュゼルは冷静に魔導剣を抜き、魔物の進路を塞いだ。
「やるしかないな……!」
ノクティアの癒しの光が倒れた女性を包み、リュゼルの鋭い一撃が魔物を威嚇する。
短い連携――。
だが、ふたりの呼吸はすぐにぴたりと合った。
「ノクティア、魔力支援を頼む!」
「わかった!」
ノクティアが魔力の流れを制御し、リュゼルの剣に“雷撃”の魔法を重ねる。
稲妻が魔物を打ち、やがて路地の静寂が戻る。
「大丈夫ですか? けがは?」
ノクティアが子どもと女性に駆け寄る。
「あ、あなたが……最強魔導士様……」
「ありがとう、助かったよ……!」
リュゼルもひとつ深く息をつき、ふとノクティアを見た。
いつもの柔らかな微笑み。その横顔に、不思議な安心感を覚えた自分がいた。
* * *
「手際が良かったな、ノクティア」
「リュゼルも。魔物退治は久しぶりだったけど、意外と息が合うものね」
ふたりは自然に視線を交わす。
まだ少しだけぎこちないが、ほんの短い時間の中で“信頼”の芽が生まれ始めていた。
「……王都でも、“誰かを救う魔導士”でいられる気がしてきたわ」
「君のやり方は、王都でも認められるべきだと、少しだけ思えてきた」
リュゼルは、気恥ずかしそうに目をそらした。
(……いったい、どうしたんだ俺は。いつもなら“秩序”だけを優先してきたはずなのに)
ノクティアも胸の奥に、言葉にできない感情が生まれていた。
* * *
小さな事件の解決に、下町の人々は素直な拍手と歓声を送った。
「ありがとう、ノクティア様!」「殿下も、かっこよかった!」
ふたりは思わず顔を見合わせ、少し照れくさそうに笑った。
そのとき、石畳の向こうから力強い足音が響いてくる。
「ノクティア、無事か!」
振り返れば、カイラスが颯爽と現れた。
王都に到着したばかりとは思えないほどの落ち着きと存在感――その姿に、下町の人々がどよめいた。
「カイラス……!」
ノクティアの表情がほころぶ。
だが、その瞬間、リュゼルの胸に微かな違和感が走った。
(なぜだ……なぜ、俺は“あいつ”が来ただけで、こんなに落ち着かない?)
カイラスはノクティアの無事を何より気遣い、傷の手当てを優しく施す。
「君は昔から無理をしすぎる。ここでも同じだな。――リュゼル殿下、妹をよろしく頼む」
「……もちろんだ」
リュゼルは思わず、カイラスの横顔をじっと見つめる。
カイラスがノクティアを“特別”に思っていることが、隠しようもなく伝わってくる。
(自分は彼女にとって、どんな存在なのか――)
* * *
事件現場を後にしながら、ノクティアは二人の間で揺れていた。
カイラスの温かさも、リュゼルの誠実さも、どちらも彼女の心に残る。
けれど今は、目の前の事件に向き合うことでしか、自分の気持ちに答えを出せなかった。
「ありがとう、リュゼル。……さっきは、いい連携だったね」
「……ああ。これからも、二人で協力しよう」
リュゼルは素直に答える。その声は、どこか頼もしく、そして揺れていた。
* * *
夜の王都――
塔の上から、リュゼルは灯りの消えゆく街を見下ろしていた。
(ノクティア……。お前を“監察官”としてではなく、一人の女性として見ている自分がいる)
そう気づいたとき、リュゼルの心には、初めての“戸惑い”と“ときめき”が芽生えていた。
* * *
王都の闇の底では、さらなる不穏な魔力が渦巻いている。
だが、ノクティアとリュゼル――そしてカイラスの三人が、
新たな事件と“心の謎”に向き合う夜は、これからも続いていく――。
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