91 / 107
6章
85話「運命の選択」
しおりを挟む
戦いの傷跡が残るオルグレン侯爵邸。夜明け前の王都は、嵐の後の静けさに包まれていた。
「はぁ……」
ノクティアは、荒れた息を落ち着かせるように額の汗をぬぐった。
カイラスとリュゼル、二人が両脇に立ち、彼女の無事を確かめるように見つめている。
だが、勝利の余韻に浸る暇はなかった。
戦いの終盤、黒幕であるオルグレン侯爵は最期に“呪縛の魔法”を仕掛けていた。
ノクティアは敵の策略にはまり、魔導の封印とともに“王都から出なければ危険”という警告を受けてしまう。
「ノクティア、腕を見せてくれ」
カイラスが焦りを隠せず、彼女の手首をそっと掴む。
「……これは、魔力封じの紋……?しかも発動主はまだ生きている……」
リュゼルが険しい顔で紋章を調べる。
ノクティアは微かに唇を噛む。「私がここにいる限り、王都の人たちが巻き込まれる危険があるの。……このまま残れば、きっと大きな災いを招いてしまう」
沈黙の中、夜明けの鐘が遠くで鳴る。
ノクティアは、部屋の窓から淡い朝焼けを見つめた。
* * *
その後、魔導士会の会議室。
王都の幹部たちがノクティアの状況を把握し、慎重な対応を求める声があがる。
「“最強魔導士”のノクティア様が王都を離れるのは損失だ!」
「だが彼女がここに留まれば、敵の呪詛が広がる危険がある」
「一時的にでも、王都を離れるべきでは……」
会議室のざわめきの中、ノクティアは俯いているしかなかった。
(どうして……私がいることで誰かが苦しむのは、もう二度と嫌なのに)
* * *
そんな彼女のもとに、まずカイラスが静かに歩み寄る。
「ノクティア。お前が“どこにいても”、俺はお前を信じる。……だから、自分の心で選んでくれ。王都に残るのも、出ていくのも、お前の自由だ」
カイラスの瞳には、いさぎよい潔さと、切ない優しさが浮かんでいた。
「俺はどこまでだって、お前の味方だ」
ノクティアは思わず胸が熱くなった。
* * *
続いてリュゼルが、周囲の視線をものともせず、まっすぐノクティアの前に立った。
「ノクティア……」
彼の声は、普段の理知的な響きではなく、ほんの少し震えていた。
「俺は、お前に王都にいてほしい。この場所で、お前とこれからも並び立ちたい――それが本音だ」
リュゼルの真剣なまなざし、思いの強さがストレートに伝わってくる。
「……けれど、もしお前が出ていくというのなら、俺は……」
リュゼルの言葉は途中で途切れる。自分の気持ちと、“王都の第二皇子”としての立場が激しくぶつかり合っているのが、誰の目にも明らかだった。
* * *
ノクティアは二人の視線に挟まれ、深く息を吐いた。
(今までの私は、誰かの“期待”や“義務”に応えなきゃと、ずっと思っていた。……でも、本当に大切なのは、“自分の願い”じゃないの?)
“みんなのために”という気持ちも、“自分のために”という想いも、どちらも嘘じゃない。
それでも、最後に選ぶのは――“私の心”。
「私は……もう、誰かに決めてもらうんじゃなくて、自分で選びたい」
ノクティアは静かに言った。「私が本当に願っているもの、それをちゃんと見つけてから答えを出したいの」
その表情は、不安も迷いもあったが、どこまでも真っ直ぐだった。
* * *
その夜、王都の夜風がバルコニーに吹き込む。
ノクティアは高台から、王都の街を静かに見下ろしていた。
(王都で得たものも、砦での思い出も、すべてが今の私を作ってくれた。
リュゼルも、カイラスも、どちらも私の人生に欠かせない大切な人――
でも、“私の幸せ”は、私が見つけて、私が決めなきゃ)
月明かりの下、ノクティアの頬を一筋の涙が伝う。
けれどその涙は、もう過去の“孤独”や“屈辱”ではなかった。
自分自身を受け入れるための、希望の涙だった。
* * *
翌朝。
ノクティアは、王都の友や仲間たち――エイミーやレオナート、新しくできた少女の友人――一人ひとりと静かに言葉を交わす。
「ノクティアさん、どんな選択でも、私たちずっと応援してます!」
「……ノクティアさんがいたから、僕たちも強くなれたんです」
皆がそれぞれの言葉で、彼女の背中を押してくれる。
ノクティアは微笑む。(私はひとりじゃない――)
* * *
決断の朝、王都に新しい陽が昇る。
ノクティアは胸に手を当てる。「必ず“自分の答え”を見つけて戻ってくる」
心の中でそう誓い、静かに新しい一歩を踏み出すのだった――。
「はぁ……」
ノクティアは、荒れた息を落ち着かせるように額の汗をぬぐった。
カイラスとリュゼル、二人が両脇に立ち、彼女の無事を確かめるように見つめている。
だが、勝利の余韻に浸る暇はなかった。
戦いの終盤、黒幕であるオルグレン侯爵は最期に“呪縛の魔法”を仕掛けていた。
ノクティアは敵の策略にはまり、魔導の封印とともに“王都から出なければ危険”という警告を受けてしまう。
「ノクティア、腕を見せてくれ」
カイラスが焦りを隠せず、彼女の手首をそっと掴む。
「……これは、魔力封じの紋……?しかも発動主はまだ生きている……」
リュゼルが険しい顔で紋章を調べる。
ノクティアは微かに唇を噛む。「私がここにいる限り、王都の人たちが巻き込まれる危険があるの。……このまま残れば、きっと大きな災いを招いてしまう」
沈黙の中、夜明けの鐘が遠くで鳴る。
ノクティアは、部屋の窓から淡い朝焼けを見つめた。
* * *
その後、魔導士会の会議室。
王都の幹部たちがノクティアの状況を把握し、慎重な対応を求める声があがる。
「“最強魔導士”のノクティア様が王都を離れるのは損失だ!」
「だが彼女がここに留まれば、敵の呪詛が広がる危険がある」
「一時的にでも、王都を離れるべきでは……」
会議室のざわめきの中、ノクティアは俯いているしかなかった。
(どうして……私がいることで誰かが苦しむのは、もう二度と嫌なのに)
* * *
そんな彼女のもとに、まずカイラスが静かに歩み寄る。
「ノクティア。お前が“どこにいても”、俺はお前を信じる。……だから、自分の心で選んでくれ。王都に残るのも、出ていくのも、お前の自由だ」
カイラスの瞳には、いさぎよい潔さと、切ない優しさが浮かんでいた。
「俺はどこまでだって、お前の味方だ」
ノクティアは思わず胸が熱くなった。
* * *
続いてリュゼルが、周囲の視線をものともせず、まっすぐノクティアの前に立った。
「ノクティア……」
彼の声は、普段の理知的な響きではなく、ほんの少し震えていた。
「俺は、お前に王都にいてほしい。この場所で、お前とこれからも並び立ちたい――それが本音だ」
リュゼルの真剣なまなざし、思いの強さがストレートに伝わってくる。
「……けれど、もしお前が出ていくというのなら、俺は……」
リュゼルの言葉は途中で途切れる。自分の気持ちと、“王都の第二皇子”としての立場が激しくぶつかり合っているのが、誰の目にも明らかだった。
* * *
ノクティアは二人の視線に挟まれ、深く息を吐いた。
(今までの私は、誰かの“期待”や“義務”に応えなきゃと、ずっと思っていた。……でも、本当に大切なのは、“自分の願い”じゃないの?)
“みんなのために”という気持ちも、“自分のために”という想いも、どちらも嘘じゃない。
それでも、最後に選ぶのは――“私の心”。
「私は……もう、誰かに決めてもらうんじゃなくて、自分で選びたい」
ノクティアは静かに言った。「私が本当に願っているもの、それをちゃんと見つけてから答えを出したいの」
その表情は、不安も迷いもあったが、どこまでも真っ直ぐだった。
* * *
その夜、王都の夜風がバルコニーに吹き込む。
ノクティアは高台から、王都の街を静かに見下ろしていた。
(王都で得たものも、砦での思い出も、すべてが今の私を作ってくれた。
リュゼルも、カイラスも、どちらも私の人生に欠かせない大切な人――
でも、“私の幸せ”は、私が見つけて、私が決めなきゃ)
月明かりの下、ノクティアの頬を一筋の涙が伝う。
けれどその涙は、もう過去の“孤独”や“屈辱”ではなかった。
自分自身を受け入れるための、希望の涙だった。
* * *
翌朝。
ノクティアは、王都の友や仲間たち――エイミーやレオナート、新しくできた少女の友人――一人ひとりと静かに言葉を交わす。
「ノクティアさん、どんな選択でも、私たちずっと応援してます!」
「……ノクティアさんがいたから、僕たちも強くなれたんです」
皆がそれぞれの言葉で、彼女の背中を押してくれる。
ノクティアは微笑む。(私はひとりじゃない――)
* * *
決断の朝、王都に新しい陽が昇る。
ノクティアは胸に手を当てる。「必ず“自分の答え”を見つけて戻ってくる」
心の中でそう誓い、静かに新しい一歩を踏み出すのだった――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜
緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる