92 / 107
6章
86話「それぞれの告白」
しおりを挟む
朝焼けの王都。
ノクティアは高台のバルコニーから、まだ眠りの残る街並みを見下ろしていた。
事件の嵐がようやく収まりつつある。だが、心の中ではもうひとつの“大嵐”が渦巻いていた。
(みんな、無事で良かった。けれど私自身は――)
昨夜、仲間と交わした別れの言葉。カイラスとリュゼル、二人の熱いまなざし。
自分の“選択”が、彼らの運命も左右してしまうかもしれないという、責任にも似た戸惑い。
* * *
魔導士会の一室。
事件の報告と後始末が終わり、久しぶりに静けさが戻った。
そこへ、カイラスが静かに入ってくる。
彼の表情は、普段の穏やかさの奥に、決意と切なさが混じっていた。
「ノクティア――ちょっと、話せるか?」
「……うん」
ふたりきりの静寂。
カイラスは大きな手で、ぎこちなく頭をかきながら言った。
「王都でも、砦でも、どこにいたって……俺はずっとお前の味方だ。それは変わらない。けど――」
少しだけ視線を落とし、そして正面からまっすぐ見つめる。
「ずっと好きだった。お前が強くなっていくほど、俺はどんどん惹かれていった。守りたいだけじゃなくて、ただ隣にいたいって思ったんだ」
不器用で、誠実で、力強い告白。
ノクティアは一瞬、言葉が出なかった。
(カイラス……)
「……急がなくていい。でも、どうしても、今だけは言っておきたかった。俺は、お前が好きだ」
それだけ言うと、カイラスはそっとノクティアの肩に手を置き、「考えてくれ」とだけ残して部屋を出て行った。
* * *
心臓が速く打ち始めていた。
ノクティアは、思わず自分の胸に手を当てる。
(こんなふうに真正面から……カイラスの想いは、いつもまっすぐで、温かくて……)
その余韻が冷めやらぬうちに、扉が再びノックされた。
「ノクティア、入るよ」
今度はリュゼルが現れた。
彼の姿勢は、王子としての凛とした威厳よりも、一人の青年としての“素顔”がにじみ出ている。
「さっき、カイラスがここに来ていたな」
ノクティアはわずかに頷く。「……うん」
リュゼルは窓辺に歩み寄り、しばらく黙って外を眺めた。
「王都でお前が苦しんでいたとき、何度も後悔した。昔のお前を“無能”と呼んだことも、本当はずっと……忘れてない」
ゆっくり、噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「だが今は違う。お前はもう、誰よりも強い。誰よりも優しい。……俺はそんなお前に、心から惹かれている」
ノクティアの手を、そっと両手で包む。
「ノクティア。俺は、君と人生を並び歩きたい。もし迷うなら、何度でもそばで待つ。君がどこを選んでも、絶対に見放したりしない」
まっすぐな声、揺るぎないまなざし。
リュゼルもまた、ありのままの想いをぶつけてきた。
* * *
静寂――
ノクティアの目から、一筋の涙が零れ落ちる。
(どうして……こんなに、幸せで、こんなに苦しいんだろう)
「ごめんなさい、今すぐは答えを出せないの」
正直にそう告げると、リュゼルは静かに微笑み、手を離した。
「いいんだ。それだけ真剣に考えてくれるなら、それで十分だよ」
ノクティアは胸がいっぱいになり、しばらく何も言えなかった。
* * *
外は、昼下がりの柔らかな陽射し。
ノクティアはひとり、王都の花咲く中庭を歩いた。
カイラスとリュゼル、どちらの告白も、心に温かい炎となって残っている。
(私は……どちらが好きなの?
どちらも、大切な存在で――でも、恋の答えは、誰かに決めてもらうものじゃない)
答えを急がず、自分の心と向き合う決意を固める。
* * *
夕方、エイミーやレオナート、王都の仲間たちも集まり、事件の最終報告会が行われた。
ノクティアは自分の成長を、そして二人の想いを、仲間たちの優しい応援の言葉の中で静かに噛みしめていた。
「ノクティアさん、どんな答えでも、絶対に後悔しないでくださいね!」
「恋も人生も、自分の心が選ぶものですから」
エイミーのその言葉が、ノクティアの背中を優しく押した。
* * *
夜――
ノクティアは窓辺に腰掛け、王都の灯りを見下ろした。
(事件も、恋も、まだ終わっていない。
でも、もう“逃げずに自分で選ぶ”って決めたんだ)
自分の人生と、自分の恋。
そのどちらにも、真剣に向き合いたい。
ノクティアの頬を、夜風がやさしくなでていった――。
ノクティアは高台のバルコニーから、まだ眠りの残る街並みを見下ろしていた。
事件の嵐がようやく収まりつつある。だが、心の中ではもうひとつの“大嵐”が渦巻いていた。
(みんな、無事で良かった。けれど私自身は――)
昨夜、仲間と交わした別れの言葉。カイラスとリュゼル、二人の熱いまなざし。
自分の“選択”が、彼らの運命も左右してしまうかもしれないという、責任にも似た戸惑い。
* * *
魔導士会の一室。
事件の報告と後始末が終わり、久しぶりに静けさが戻った。
そこへ、カイラスが静かに入ってくる。
彼の表情は、普段の穏やかさの奥に、決意と切なさが混じっていた。
「ノクティア――ちょっと、話せるか?」
「……うん」
ふたりきりの静寂。
カイラスは大きな手で、ぎこちなく頭をかきながら言った。
「王都でも、砦でも、どこにいたって……俺はずっとお前の味方だ。それは変わらない。けど――」
少しだけ視線を落とし、そして正面からまっすぐ見つめる。
「ずっと好きだった。お前が強くなっていくほど、俺はどんどん惹かれていった。守りたいだけじゃなくて、ただ隣にいたいって思ったんだ」
不器用で、誠実で、力強い告白。
ノクティアは一瞬、言葉が出なかった。
(カイラス……)
「……急がなくていい。でも、どうしても、今だけは言っておきたかった。俺は、お前が好きだ」
それだけ言うと、カイラスはそっとノクティアの肩に手を置き、「考えてくれ」とだけ残して部屋を出て行った。
* * *
心臓が速く打ち始めていた。
ノクティアは、思わず自分の胸に手を当てる。
(こんなふうに真正面から……カイラスの想いは、いつもまっすぐで、温かくて……)
その余韻が冷めやらぬうちに、扉が再びノックされた。
「ノクティア、入るよ」
今度はリュゼルが現れた。
彼の姿勢は、王子としての凛とした威厳よりも、一人の青年としての“素顔”がにじみ出ている。
「さっき、カイラスがここに来ていたな」
ノクティアはわずかに頷く。「……うん」
リュゼルは窓辺に歩み寄り、しばらく黙って外を眺めた。
「王都でお前が苦しんでいたとき、何度も後悔した。昔のお前を“無能”と呼んだことも、本当はずっと……忘れてない」
ゆっくり、噛みしめるように言葉を紡ぐ。
「だが今は違う。お前はもう、誰よりも強い。誰よりも優しい。……俺はそんなお前に、心から惹かれている」
ノクティアの手を、そっと両手で包む。
「ノクティア。俺は、君と人生を並び歩きたい。もし迷うなら、何度でもそばで待つ。君がどこを選んでも、絶対に見放したりしない」
まっすぐな声、揺るぎないまなざし。
リュゼルもまた、ありのままの想いをぶつけてきた。
* * *
静寂――
ノクティアの目から、一筋の涙が零れ落ちる。
(どうして……こんなに、幸せで、こんなに苦しいんだろう)
「ごめんなさい、今すぐは答えを出せないの」
正直にそう告げると、リュゼルは静かに微笑み、手を離した。
「いいんだ。それだけ真剣に考えてくれるなら、それで十分だよ」
ノクティアは胸がいっぱいになり、しばらく何も言えなかった。
* * *
外は、昼下がりの柔らかな陽射し。
ノクティアはひとり、王都の花咲く中庭を歩いた。
カイラスとリュゼル、どちらの告白も、心に温かい炎となって残っている。
(私は……どちらが好きなの?
どちらも、大切な存在で――でも、恋の答えは、誰かに決めてもらうものじゃない)
答えを急がず、自分の心と向き合う決意を固める。
* * *
夕方、エイミーやレオナート、王都の仲間たちも集まり、事件の最終報告会が行われた。
ノクティアは自分の成長を、そして二人の想いを、仲間たちの優しい応援の言葉の中で静かに噛みしめていた。
「ノクティアさん、どんな答えでも、絶対に後悔しないでくださいね!」
「恋も人生も、自分の心が選ぶものですから」
エイミーのその言葉が、ノクティアの背中を優しく押した。
* * *
夜――
ノクティアは窓辺に腰掛け、王都の灯りを見下ろした。
(事件も、恋も、まだ終わっていない。
でも、もう“逃げずに自分で選ぶ”って決めたんだ)
自分の人生と、自分の恋。
そのどちらにも、真剣に向き合いたい。
ノクティアの頬を、夜風がやさしくなでていった――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる