【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

86話「それぞれの告白」

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 朝焼けの王都。
 ノクティアは高台のバルコニーから、まだ眠りの残る街並みを見下ろしていた。
 事件の嵐がようやく収まりつつある。だが、心の中ではもうひとつの“大嵐”が渦巻いていた。

 (みんな、無事で良かった。けれど私自身は――)

 昨夜、仲間と交わした別れの言葉。カイラスとリュゼル、二人の熱いまなざし。
 自分の“選択”が、彼らの運命も左右してしまうかもしれないという、責任にも似た戸惑い。

    * * *

 魔導士会の一室。
 事件の報告と後始末が終わり、久しぶりに静けさが戻った。

 そこへ、カイラスが静かに入ってくる。
 彼の表情は、普段の穏やかさの奥に、決意と切なさが混じっていた。

 「ノクティア――ちょっと、話せるか?」

 「……うん」

 ふたりきりの静寂。
 カイラスは大きな手で、ぎこちなく頭をかきながら言った。

 「王都でも、砦でも、どこにいたって……俺はずっとお前の味方だ。それは変わらない。けど――」
 少しだけ視線を落とし、そして正面からまっすぐ見つめる。

 「ずっと好きだった。お前が強くなっていくほど、俺はどんどん惹かれていった。守りたいだけじゃなくて、ただ隣にいたいって思ったんだ」
 不器用で、誠実で、力強い告白。

 ノクティアは一瞬、言葉が出なかった。
 (カイラス……)

 「……急がなくていい。でも、どうしても、今だけは言っておきたかった。俺は、お前が好きだ」

 それだけ言うと、カイラスはそっとノクティアの肩に手を置き、「考えてくれ」とだけ残して部屋を出て行った。

    * * *

 心臓が速く打ち始めていた。
 ノクティアは、思わず自分の胸に手を当てる。

 (こんなふうに真正面から……カイラスの想いは、いつもまっすぐで、温かくて……)

 その余韻が冷めやらぬうちに、扉が再びノックされた。

 「ノクティア、入るよ」

 今度はリュゼルが現れた。
 彼の姿勢は、王子としての凛とした威厳よりも、一人の青年としての“素顔”がにじみ出ている。

 「さっき、カイラスがここに来ていたな」

 ノクティアはわずかに頷く。「……うん」

 リュゼルは窓辺に歩み寄り、しばらく黙って外を眺めた。

 「王都でお前が苦しんでいたとき、何度も後悔した。昔のお前を“無能”と呼んだことも、本当はずっと……忘れてない」
 ゆっくり、噛みしめるように言葉を紡ぐ。

 「だが今は違う。お前はもう、誰よりも強い。誰よりも優しい。……俺はそんなお前に、心から惹かれている」

 ノクティアの手を、そっと両手で包む。

 「ノクティア。俺は、君と人生を並び歩きたい。もし迷うなら、何度でもそばで待つ。君がどこを選んでも、絶対に見放したりしない」

 まっすぐな声、揺るぎないまなざし。
 リュゼルもまた、ありのままの想いをぶつけてきた。

    * * *

 静寂――
 ノクティアの目から、一筋の涙が零れ落ちる。

 (どうして……こんなに、幸せで、こんなに苦しいんだろう)

 「ごめんなさい、今すぐは答えを出せないの」

 正直にそう告げると、リュゼルは静かに微笑み、手を離した。

 「いいんだ。それだけ真剣に考えてくれるなら、それで十分だよ」

 ノクティアは胸がいっぱいになり、しばらく何も言えなかった。

    * * *

 外は、昼下がりの柔らかな陽射し。

 ノクティアはひとり、王都の花咲く中庭を歩いた。
 カイラスとリュゼル、どちらの告白も、心に温かい炎となって残っている。

 (私は……どちらが好きなの?
 どちらも、大切な存在で――でも、恋の答えは、誰かに決めてもらうものじゃない)

 答えを急がず、自分の心と向き合う決意を固める。

    * * *

 夕方、エイミーやレオナート、王都の仲間たちも集まり、事件の最終報告会が行われた。
 ノクティアは自分の成長を、そして二人の想いを、仲間たちの優しい応援の言葉の中で静かに噛みしめていた。

 「ノクティアさん、どんな答えでも、絶対に後悔しないでくださいね!」
 「恋も人生も、自分の心が選ぶものですから」

 エイミーのその言葉が、ノクティアの背中を優しく押した。

    * * *

 夜――
 ノクティアは窓辺に腰掛け、王都の灯りを見下ろした。

 (事件も、恋も、まだ終わっていない。
 でも、もう“逃げずに自分で選ぶ”って決めたんだ)

 自分の人生と、自分の恋。
 そのどちらにも、真剣に向き合いたい。

 ノクティアの頬を、夜風がやさしくなでていった――。
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