【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
93 / 107
6章

87話「守るべきもの」

しおりを挟む
 王都の空が、不穏な魔力の渦でゆっくりと染まっていく。
 新月の夜、静けさは嵐の前の予感をはらみ、人々は窓を閉め、遠くから響く鐘の音に胸をざわつかせていた。

 ノクティアは王都の中央広場に立っていた。
 肩には魔導士会の外套、胸の奥には決意と少しの不安。
 その傍らに、リュゼルとカイラス――どちらも普段以上に険しい表情で彼女の隣に立っている。

 「ノクティア、準備はいいか?」
 カイラスが静かに問う。

 「ええ、やるしかないもの」
 ノクティアは微笑み、手のひらに青白い魔力を灯す。

 リュゼルも、王子の威厳よりも“ひとりの男”としての決意をその瞳に宿していた。

 「王都と人々のために――そして、君のためにも。もう絶対に、誰も失いたくない」

    * * *

 敵は王都地下に眠る“封印魔術”を操る黒幕・オルグレン侯爵の遺した“魔導災厄”だった。
 侯爵自身は倒れたものの、彼の魔力は地下迷宮に呪詛の核として残り、今や王都全域を飲み込もうとしている。

 「地下広間の封印陣が……暴走寸前です!」
 魔導士会の若者が駆け寄り、顔を蒼白にして報告した。

 「広場と地下が繋がっている。もし完全に暴走すれば、王都が――」
 リュゼルの声に、場に緊張が走る。

 「行こう。俺たち三人なら、絶対に守れるはずだ」
 カイラスの力強い言葉に、ノクティアとリュゼルが頷いた。

    * * *

 三人は地下迷宮の大扉をくぐる。
 光も届かぬ闇の奥、呪いの気配が重くのしかかる。

 「ここが……封印の間……」
 ノクティアは魔導の気流を感じ取り、魔法陣の中心に立つ。

 「封印を解くには、“三位一体”の魔力が必要です」
 リュゼルは王家の血に宿る特殊な魔力を手に取り、カイラスは護剣を構えた。

 「俺は剣で道を切り開く。ノクティアは魔力を、リュゼルは制御を頼む」
 カイラスの指示に、三人は呼吸を合わせる。

 「“守るべきもの”があるから、絶対に負けない」
 ノクティアの声が、封印の間に力強く響いた。

    * * *

 魔力の嵐が巻き起こり、地下広間に“魔導災厄”が姿を現す。
 黒い影、幾重にも渦巻く異形の腕、空間そのものがねじれるような威圧感。

 「来るぞ――!」
 カイラスが前に出て剣を振るう。強大な魔力が弾き返されるが、ノクティアがすかさず回復と補助魔法を展開。

 「カイラス、右側! リュゼル、封印陣の制御を!」
 ノクティアは的確に指示を飛ばし、三人の連携は今までになく冴えていた。

 リュゼルも渾身の力で王家の魔力を封印陣に流し込む。

 「ノクティア、頼む! “君の力”がなければ、この災厄は沈められない!」

 「絶対に、みんなを守る――!」

 ノクティアは砦の仲間たち、王都の友、そして大切な人たちの顔を思い浮かべる。
 心に灯る、たしかな“愛と希望”。

 魔導災厄の怒号が轟くなか、ノクティアは最大級の浄化魔法を発動した。

 「――光よ、闇を祓え!」

 まばゆい閃光が迷宮を満たし、災厄の影を一気に吹き飛ばす。
 カイラスがその隙に災厄の核を剣で断ち切り、リュゼルは魔力を増幅させて封印を完成させた。

    * * *

 空間が静寂に包まれる。
 闇が晴れ、残るのは三人の息遣いと、どこか新しい希望の気配。

 「……やったのか?」
 カイラスが剣を収める。

 ノクティアは崩れ落ちそうな身体を支えつつ、ふたりに微笑みかけた。

 「うん、終わった。……三人で、王都を守れた」

 リュゼルが静かに、けれどはっきりと言った。

 「君がいたから、僕たちはここまで来られたんだ」

    * * *

 地上に戻れば、夜明けの王都に安堵と歓喜の声が広がる。

 エイミー、レオナート、下町の子どもたち、市民も魔導士も、みんなが三人の無事を祝福してくれる。

 ノクティアは胸の奥からこみ上げるものをこらえきれず、涙をひとつ零す。

 (私には、守りたい“居場所”がこんなにもたくさんあったんだ――)

 カイラスとリュゼルは互いに視線を交わし、
 「……ありがとう、ノクティア」「お疲れさま、ノクティア」
 と同時に言い合い、どちらも微笑む。

    * * *

 事件は終わった。
 けれど――

 恋の答えは、まだ出ていない。
 それぞれの想いが、静かに夜明けの王都に溶けていく。

 ノクティアは両手を胸に重ねて、そっと誓う。

 (私は、これからも――守りたいもののために、生きていく)

 そして彼女の物語は、新しい未来へと歩み始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

処理中です...