【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

88話「涙の約束」

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 夜明けの王都は、まだ戦いの余韻を色濃く残していた。
 迷宮の闇を払ったものの、ノクティアの身体には確かな疲労と、じくじくと痛む傷が残っていた。

 地下から地上に戻る途中、彼女は足元がふらつき、ふいに膝をついた。

 「ノクティア!」

 カイラスとリュゼルが同時に駆け寄る。
 カイラスが力強い腕でノクティアを支え、リュゼルが焦った様子で回復魔法を唱える。

 「ごめんなさい、大丈夫。少し休めば……」
 ノクティアは微笑もうとするが、唇がわずかに震えてしまう。

 「無理をするな。ここで休め」
 カイラスはそっと彼女を地面に座らせ、肩を貸す。

 「ノクティア、君は僕たちの希望なんだ。少しでも傷が深くなれば……」
 リュゼルもいつになく切実な声を投げかける。

    * * *

 夜明け前の静けさの中、三人だけの時間が訪れる。

 カイラスは悔しげに拳を握り締める。

 「……俺は、結局何もできなかった。ノクティアを守ると誓ったのに、またお前に傷を負わせてしまった」

 「そんなことないよ、カイラス。あなたがいたから、私は……」

 「それでも、足りなかった。もっと強くなりたい、何度でも誓う……お前の笑顔を守るためなら、命だって惜しくない」

 カイラスのまっすぐな言葉に、ノクティアは胸が熱くなる。

 ふいにリュゼルが、その横顔に強く言葉を投げかけた。

 「それは俺も同じだ。カイラス――お前は、ノクティアを守る力があるかもしれない。けれど、俺には俺の“守り方”がある。
 俺は彼女の選択も、弱さも、全部受け入れて支えたいんだ」

 「守るだけじゃない。ノクティアが何を望み、どこへ進むのか――それも全部、彼女自身が決めていい。
 だからこそ、俺は絶対に手を離さない」

 カイラスとリュゼル、二人の間に強い火花が散る。
 今まで以上に本気の言葉と想いが、真正面からぶつかり合う。

    * * *

 ノクティアはふたりの間で、ただ戸惑うばかりだった。
 (私は、こんなに誰かに必要とされている……。こんなに強く想ってもらえるなんて……)

 けれど、その分だけ苦しさも増していく。

 「どうして、そんなに……私なんかのために、そんなふうに想ってくれるの?」

 小さな声で、ノクティアが問いかける。
 カイラスは素直に答える。

 「好きだからだ。何があっても、お前を守り抜きたい。それだけだ」

 リュゼルも、わずかに頬を染めて、まっすぐ答えた。

 「君が生きていてくれれば、それだけでいい。君がどんな選択をしても、俺はそばにいる」

 ノクティアの胸に、二人の言葉が強く響く。

    * * *

 ふいに、ノクティアの目から涙が零れ落ちた。
 その涙は悲しみだけではなく、感謝と喜び、そして戸惑いが混じったものだった。

 「ありがとう……本当に、ありがとう……。
 私、こんなに誰かに想われて、守られて――生きててよかったって、心から思う」

 ノクティアは、涙をぬぐいながら、ふたりに微笑んだ。

 「だけど……私は、もう“守られるだけ”じゃなくて、ちゃんと自分で選んで、自分で歩きたい。
 みんなの想いに応えたいからこそ、私も“自分の意志”で生きていくって、決めたの」

 夜明けの光が、東の空に淡く広がり始める。

 「だから……お願い。私が自分の答えを見つけるまで、そばにいてください。
 カイラスも、リュゼルも、みんなも――これからも一緒に生きていきたい」

    * * *

 カイラスは、力強く頷いた。

 「もちろんだ。お前が決めるまで、絶対に離れない」

 リュゼルも静かに微笑み、「ずっと君の味方だよ」と囁いた。

    * * *

 やがて夜が明け、王都の鐘が静かに響く。
 事件の終息は、彼らの中に新しい絆と決意を残した。

 ノクティアは立ち上がり、朝焼けの光のなかでそっと誓う。

 (もう迷わない。私は、私自身の人生を選ぶ。
 たとえそれがどんな未来でも――大切な人たちと一緒に、強く歩んでいく)

 涙の約束は、確かな“希望”へと変わっていくのだった。
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