【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

89話「新たな旅立ち」

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 朝陽が王都の石畳に柔らかな光を落とし、長い夜の気配をゆっくりと溶かしていく。
 魔導士連続失踪事件――王都を揺るがせた一連の災厄は、ついに終焉を迎えた。
 だがノクティアの心には、今、もうひとつの“扉”が開かれようとしていた。

 「……本当に、終わったんだね」

 魔導士会のテラスで、ノクティアは遠く霞む王城の尖塔を眺めていた。
 昨日までの騒ぎが嘘のように静かな朝。けれど彼女の胸の中には、寂しさよりも静かな充実と、新しい決意が芽生えていた。

    * * *

 魔導士会の一室。
 事後処理に追われていたリュゼルは、書類の束からふと顔を上げた。

 (ノクティア……君は、どこへ行くのだろう)

 王都に君臨する第2皇子としての責務、そしてひとりの青年としての恋心。
 彼の胸の奥には、いまだ消えぬ未練と、彼女への“自由”を願う気持ちがせめぎ合っていた。

    * * *

 一方、砦の騎士団長・カイラスも、王都の北門の見張り台に立っていた。
 新しい風に長い髪をなびかせ、ゆっくりと遠い空を見つめる。

 (ノクティア……お前が選ぶ場所が、どこであっても)

 カイラスの想いもまた、静かな強さと切なさをたたえていた。

    * * *

 その日、ノクティアは王都の仲間たち――魔導士会、エイミーやレオナート、事件で絆を結んだ下町の人々――
 一人ひとりに挨拶をして回った。

 「ノクティアさん、もう王都を離れるんですか……?」

 エイミーが、目に涙をためて手を握る。

 「うん。ここに来て、本当にたくさんの大切なものを見つけた。でも今は、もう一度自分の“本当の居場所”を探したいの」

 「……また、きっと会えますよね?」

 「絶対に。みんなと過ごした日々を、絶対に忘れない」

 レオナートも寂しげに笑いながら、「ノクティアさんの勇気、ずっと僕の誇りです」と見送った。

    * * *

 出発の朝――

 王都北門の前に、ノクティアは小さな荷物を抱え立っていた。

 やがてカイラスが、無骨な旅装束のまま現れる。
 「遅れてすまない。少し、見送りたくてな」

 「ありがとう、カイラス。……本当に、ここまで一緒にいてくれて」

 「何度だって、どこへだって、俺はお前の味方だ」

 ふたりの間に流れるのは、恋でも友情でもあり、もっと深い信頼の色。

 カイラスは、そっとノクティアの肩を抱き寄せる。
 「どこへ行くんだ?」

 「決まっていない。でも、きっと新しい景色と、新しい自分に会える気がする」

 「怖くなったら、すぐ帰ってこいよ。……いや、呼ばれたら必ず駆けつける」

 ノクティアは笑顔で頷いた。

    * * *

 そこへ、リュゼルが馬で駆けつけてくる。
 王子としての気品をまといながらも、どこか無防備な表情。

 「ノクティア、やっぱり行くんだね」

 「うん」

 しばし、言葉が見つからないまま、ふたりは見つめ合った。

 「王都で過ごした時間……君のことを知れば知るほど、どうしようもなく惹かれていった。
 でも、君が“自由”でいてくれることが、今は一番の願いだ。
 また必ず、会いに行く。王子としてじゃなく、一人の男として、君に――」

 リュゼルの瞳は、最後までまっすぐだった。

 ノクティアは彼の手をそっと握る。

 「ありがとう、リュゼル。あなたの誇りも優しさも、きっと私を支えてくれる」

    * * *

 門の前には、王都で出会った多くの人々が集まっていた。

 「ノクティア様、お元気で!」

 「また王都に戻ってきてください!」

 皆の声がひとつになり、ノクティアの背を押す。

 最後にカイラスが、まっすぐな声で告げた。

 「ノクティア――約束だ。お前がどこにいても、俺たちは必ず“また会う”」

 ノクティアは振り返り、王都の空を見上げた。

 「うん。私も、約束する。
 ――もう、“ひとり”じゃないから」

    * * *

 小さな荷物を肩に、ノクティアはゆっくりと門をくぐる。
 石畳の先に続く新しい道。
 迷いはある。でも、恐れよりも希望が、今は胸を満たしている。

 (たくさんの出会い、たくさんの想い。
 そして、私自身の願い――)

 空には、春の雲がゆっくりと流れていた。

 ――自分の“居場所”はきっと、これから自分で作っていける。

 そう思えた瞬間、ノクティアは大きく息を吸い、新たな一歩を踏み出した。

    * * *

 王都の北門を見送るカイラスとリュゼル。
 ふたりの間に、静かな決意が交差する。

 「……これでいいのか?」

 カイラスがぽつりと呟くと、リュゼルが微笑む。

 「君も、僕も、彼女にとって“特別な人”であり続ければいい。
 ノクティアの幸せが、僕たちの幸せだろう?」

 「……そうだな。だけど、負ける気はない」

 ふたりは肩を並べ、春の空を見上げた。

    * * *

 ノクティアの新たな旅が始まる。
 過去も、傷も、出会いも全部背負いながら。

 未来へ続くその道に、かつてない希望と優しさが満ちていた――。
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