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6章
90話「春の空、再会の予感」
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春の風が王都の大通りをやさしく駆け抜けていく。
かつての緊張や喧騒は、いまは心地よい活気へと変わっていた。
石畳には陽光がきらめき、行き交う人々の顔にも穏やかな笑みが浮かぶ。
王都の空が、ようやく“希望”で満ちた季節を迎えていた。
* * *
その朝――
王都郊外の小さな村。
旅装束に身を包み、長い髪を風に揺らしながら歩く女性の姿があった。
ノクティアは、荷物を肩にかけてゆっくりと王都の門へ向かっていた。
(懐かしい……この道も、空も、すべて)
数ヶ月ぶりの王都。
ノクティアはかつてよりも少しだけ強い足取りで、凱旋というより“再会”を楽しむように歩みを進める。
門番が彼女を見つけて声をあげる。
「ノクティア様!? 本当に……ノクティア様なんですね!」
「ただいま。王都は、変わりないですか?」
「ええ、皆、きっとノクティア様に会いたがっています!」
彼女はほほえみ、軽く会釈をして門をくぐる。
* * *
王都の街並みは春祭りの準備で色とりどりの花飾りに彩られていた。
広場では子どもたちが駆け回り、エイミーやレオナート、旧知の仲間たちも忙しそうに立ち働いている。
「ノクティアさん!? わあ、本当に戻ってきてくれたんですね!」
エイミーが手を振りながら駆け寄る。
「エイミー、元気そうでよかった」
「はいっ。春祭りの準備が楽しくて、レオナートさんなんて朝からずっと浮かれてるんですよ!」
レオナートもやってきて、「ノクティアさん、お帰りなさい。もう砦に戻らなくていいんですか?」と微笑む。
「ふふ、まだ“どこか”って決めてないけど……。また、みんなの顔が見たくなって」
再会の喜びに包まれるなか、広場のあちこちから「ノクティア様が戻ったぞ!」という声が上がる。
* * *
そんな人々のざわめきは、王都の奥深くにも届いていた。
王宮の執務室。
リュゼルは報告書を片付けていたが、ふと窓の外の春の空を見上げる。
(もう、戻ってこないかもしれないと――そう思った日もあった)
だが心の奥で、ノクティアの再来をずっと信じていた自分に気づく。
そこへ慌てた侍従が駆け込んでくる。
「殿下! ノクティア様が、王都にお戻りになったとのことです!」
リュゼルの瞳が、大きく揺れる。
「……そうか。急ぎ、広場へ向かう」
* * *
同じ頃――
騎士団本部。
カイラスは騎士たちの訓練を終え、汗をぬぐっていた。
ふと、風に乗って賑やかな声が届く。
「ノクティア様が戻ってきたぞ!」
カイラスの胸が、高鳴る。
「……本当に、また会えるんだな」
剣を置き、すぐさま広場へと駆け出した。
* * *
広場の一角、花壇のそばでノクティアは再会の嵐に囲まれていた。
幼い子どもたちが「ノクティア様!」「新しい花を見て!」と駆け寄り、
エイミーやレオナート、仲間たちが次々と声をかけていく。
ふいに、人混みをかき分ける大きな影。
「ノクティア!」
その声に振り返れば、カイラスが息を弾ませて立っていた。
「カイラス……!」
「おかえり。――もう、迷わないよな?」
「うん。ただいま。……また、みんなと一緒に春を迎えたいって、思ったの」
カイラスは静かに頷き、ノクティアの肩にそっと手を置いた。
「新しい旅を、またここから始めればいいさ。お前らしく、ゆっくりと」
ノクティアの胸に、静かな幸福が広がる。
* * *
そのとき、もうひとつの影が広場に現れる。
「ノクティア――」
リュゼルだった。
端正な衣服に身を包み、しかしその顔はどこか素直な少年のような表情で。
「君が戻ってくれて……ありがとう」
「私こそ。……リュゼル、元気そうでよかった」
「春祭りも近い。もしよければ、今年は――一緒に踊らないか?」
ノクティアは少しだけ照れながらも、頷いた。
「ぜひ。けれど……まだ、私は自分の心に答えが出せなくて」
リュゼルは微笑み、「焦らなくていい」と手を差し伸べる。
* * *
その様子を、カイラスも穏やかに見つめていた。
「どちらにせよ、俺は絶対に諦めないけどな。お前が誰を選んでも、後悔しないようにする」
エイミーやレオナートがはやし立て、広場には笑い声が広がった。
* * *
日が傾き始め、王都の空は柔らかな桜色に染まる。
広場の片隅で、ノクティアはひとり空を見上げていた。
(また、ここに戻ってこられた。この空の下で――私は、私らしく生きていく)
その傍らには、カイラスとリュゼル。
二人の眼差しが、変わらぬまっすぐさでノクティアに向けられている。
「これからも――一緒に歩いていこう」
誰が言ったでもなく、三人の間に自然に生まれる誓い。
* * *
春の風が王都の空を舞い、新たな物語の気配を運んでくる。
恋の答えはまだ遠い。
けれど、希望と再会の約束だけは、誰にも奪えない。
ノクティアの未来――そして三人の関係は、
“この春の空”の下で、また静かに歩み始める。
かつての緊張や喧騒は、いまは心地よい活気へと変わっていた。
石畳には陽光がきらめき、行き交う人々の顔にも穏やかな笑みが浮かぶ。
王都の空が、ようやく“希望”で満ちた季節を迎えていた。
* * *
その朝――
王都郊外の小さな村。
旅装束に身を包み、長い髪を風に揺らしながら歩く女性の姿があった。
ノクティアは、荷物を肩にかけてゆっくりと王都の門へ向かっていた。
(懐かしい……この道も、空も、すべて)
数ヶ月ぶりの王都。
ノクティアはかつてよりも少しだけ強い足取りで、凱旋というより“再会”を楽しむように歩みを進める。
門番が彼女を見つけて声をあげる。
「ノクティア様!? 本当に……ノクティア様なんですね!」
「ただいま。王都は、変わりないですか?」
「ええ、皆、きっとノクティア様に会いたがっています!」
彼女はほほえみ、軽く会釈をして門をくぐる。
* * *
王都の街並みは春祭りの準備で色とりどりの花飾りに彩られていた。
広場では子どもたちが駆け回り、エイミーやレオナート、旧知の仲間たちも忙しそうに立ち働いている。
「ノクティアさん!? わあ、本当に戻ってきてくれたんですね!」
エイミーが手を振りながら駆け寄る。
「エイミー、元気そうでよかった」
「はいっ。春祭りの準備が楽しくて、レオナートさんなんて朝からずっと浮かれてるんですよ!」
レオナートもやってきて、「ノクティアさん、お帰りなさい。もう砦に戻らなくていいんですか?」と微笑む。
「ふふ、まだ“どこか”って決めてないけど……。また、みんなの顔が見たくなって」
再会の喜びに包まれるなか、広場のあちこちから「ノクティア様が戻ったぞ!」という声が上がる。
* * *
そんな人々のざわめきは、王都の奥深くにも届いていた。
王宮の執務室。
リュゼルは報告書を片付けていたが、ふと窓の外の春の空を見上げる。
(もう、戻ってこないかもしれないと――そう思った日もあった)
だが心の奥で、ノクティアの再来をずっと信じていた自分に気づく。
そこへ慌てた侍従が駆け込んでくる。
「殿下! ノクティア様が、王都にお戻りになったとのことです!」
リュゼルの瞳が、大きく揺れる。
「……そうか。急ぎ、広場へ向かう」
* * *
同じ頃――
騎士団本部。
カイラスは騎士たちの訓練を終え、汗をぬぐっていた。
ふと、風に乗って賑やかな声が届く。
「ノクティア様が戻ってきたぞ!」
カイラスの胸が、高鳴る。
「……本当に、また会えるんだな」
剣を置き、すぐさま広場へと駆け出した。
* * *
広場の一角、花壇のそばでノクティアは再会の嵐に囲まれていた。
幼い子どもたちが「ノクティア様!」「新しい花を見て!」と駆け寄り、
エイミーやレオナート、仲間たちが次々と声をかけていく。
ふいに、人混みをかき分ける大きな影。
「ノクティア!」
その声に振り返れば、カイラスが息を弾ませて立っていた。
「カイラス……!」
「おかえり。――もう、迷わないよな?」
「うん。ただいま。……また、みんなと一緒に春を迎えたいって、思ったの」
カイラスは静かに頷き、ノクティアの肩にそっと手を置いた。
「新しい旅を、またここから始めればいいさ。お前らしく、ゆっくりと」
ノクティアの胸に、静かな幸福が広がる。
* * *
そのとき、もうひとつの影が広場に現れる。
「ノクティア――」
リュゼルだった。
端正な衣服に身を包み、しかしその顔はどこか素直な少年のような表情で。
「君が戻ってくれて……ありがとう」
「私こそ。……リュゼル、元気そうでよかった」
「春祭りも近い。もしよければ、今年は――一緒に踊らないか?」
ノクティアは少しだけ照れながらも、頷いた。
「ぜひ。けれど……まだ、私は自分の心に答えが出せなくて」
リュゼルは微笑み、「焦らなくていい」と手を差し伸べる。
* * *
その様子を、カイラスも穏やかに見つめていた。
「どちらにせよ、俺は絶対に諦めないけどな。お前が誰を選んでも、後悔しないようにする」
エイミーやレオナートがはやし立て、広場には笑い声が広がった。
* * *
日が傾き始め、王都の空は柔らかな桜色に染まる。
広場の片隅で、ノクティアはひとり空を見上げていた。
(また、ここに戻ってこられた。この空の下で――私は、私らしく生きていく)
その傍らには、カイラスとリュゼル。
二人の眼差しが、変わらぬまっすぐさでノクティアに向けられている。
「これからも――一緒に歩いていこう」
誰が言ったでもなく、三人の間に自然に生まれる誓い。
* * *
春の風が王都の空を舞い、新たな物語の気配を運んでくる。
恋の答えはまだ遠い。
けれど、希望と再会の約束だけは、誰にも奪えない。
ノクティアの未来――そして三人の関係は、
“この春の空”の下で、また静かに歩み始める。
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