【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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7章

第95話「告白、春の決意」

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 春祭りの夜は静かに明けていった。
 王都の広場には昨夜の余韻が残り、人々は誰もがほっとした笑顔を見せている。

 ノクティアは祭りの片付けを手伝いながら、何度も心の奥に湧き上がる“想い”と向き合っていた。
 ――この幸せを守りたい。この人のそばにいたい。
 もう、ごまかすことはできなかった。

    * * *

 祭りの会場から離れた石畳の小道。
 朝露が残る庭園で、カイラスはひとり空を見上げていた。

 「カイラス」

 静かな呼び声に振り向くと、ノクティアが少し緊張した面持ちで立っていた。
 春の光に髪がきらめいて、昨夜の騒動の疲れもどこか誇らしく映っている。

 「……どうした、ノクティア」

 「少し……話がしたくて」

 ふたりは並んで歩き、花壇のそばに腰を下ろす。
 遠くで鳥がさえずり、花の香りが漂う。

 しばらく、どちらからともなく沈黙が流れた。
 ノクティアは膝の上で手をぎゅっと握りしめ、決意を込めてカイラスに向き直る。

 「私、昨日の事件で、あらためて気づいたの。
 ――私、守りたいものがたくさんある。けど、一番は……」

 カイラスがやさしい目で頷く。
 ノクティアはその視線に背中を押されるように、そっと言葉を紡いだ。

 「……私、やっぱりあなたが好き。
 初めて“私自身”を守りたいって思わせてくれたのも、ここまで歩いてこられたのも、全部……カイラス、あなたがいたから」

 その声は震えていたけれど、ひとつも迷いはなかった。

 カイラスは目を見開き、しばらくノクティアをじっと見つめていた。
 やがて、ゆっくりと大きな手でノクティアの肩を抱き寄せる。

 「ノクティア。……俺も、お前が好きだ。
 初めて会ったときから、ずっと――でも、どこかで“自分なんかが支えていいのか”って思ってた。
 でももう迷わない。これからは、俺がずっと隣にいる」

 ノクティアの瞳に涙が浮かぶ。
 それは悲しみでも不安でもなく、心の底から湧き上がる“嬉しさ”だった。

 「ありがとう……カイラス。ずっと、言いたかった」

 ふたりはそっと額を寄せ合い、春の光のなかで微笑み合った。

    * * *

 その少し離れた場所、リュゼルは静かにその様子を見ていた。
 胸の奥に、小さな痛みと温かな余韻が広がる。

 (……やっぱり、彼女の隣にいるべきなのはカイラスなのだろう)

 けれど、不思議と悔しさはなかった。
 むしろ、ノクティアの幸せそうな顔を見ていると、自分も救われたような気持ちになる。

 ノクティアとカイラスが手を取り合っている姿を見届け、リュゼルはふたりに歩み寄る。

 「カイラス、ノクティア。……おめでとう」

 ノクティアは驚いたように顔を上げた。
 リュゼルは、穏やかな微笑みで続ける。

 「俺も……そろそろ“自分の道”を探すときかもしれない。君たちの幸せを心から祈っている」

 ノクティアは胸が熱くなり、リュゼルの手を両手で包むように握る。

 「リュゼル……ありがとう。あなたがいたから、私はここまで強くなれた」

 カイラスも真剣な眼差しでリュゼルに向き合う。

 「……お前がいてくれたから、ノクティアも俺も、本当に前に進めた。ありがとう、リュゼル」

 リュゼルはふたりを見つめ、そっと背中を押すように微笑んだ。

 「――お幸せに。……これからは“王都の第2皇子”じゃなく、一人のリュゼルとして、お前たちとまた会いたい」

    * * *

 その夜、砦にも王都にも春風が吹いていた。
 ノクティアとカイラスは静かに寄り添い、これからの未来を語り合う。

 「これでよかったの?」

 ノクティアが不安そうに尋ねると、カイラスは力強く頷く。

 「お前の選んだ道が、俺の道だ。……これからは一緒に歩こう」

 ノクティアは微笑み、カイラスの胸に顔を埋めた。

 春の光が二人を優しく包み込む。

 どこかでリュゼルが夜空を見上げ、
 (俺も――もう一度、夢を見てみるか)
 と呟く。

    * * *

 それぞれの“決意”と“告白”が、新しい春を連れてくる。
 ノクティアとカイラスの未来は、いま静かに動き出した。
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