備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず

文字の大きさ
53 / 69
第2章 矢作、村を出る?!

犯人は誰だ?!***ベン視点***

しおりを挟む
眠りに落ちる。

それは誰もが夜に与えられた休息の一時。
の…はずだった。

【のど飴】を食べた人達がそのまま泡を吹いて倒れてそのまま目を覚まさない。



***ある家の前  ベン視点***


トントン。
ドアを叩く音に、中の住人が小さくドアを開けた。ドアの隙間から顔を出した中年の女性には疲れと絶望感が滲んでいたが、訪ねてきた相手を見た瞬間その顔は怒りに変わった。

『何をしに来たの!!帰って!!』

怒鳴りつけられたのは、ベンだ。
実はベンはあの【のど飴】が原因で目覚めない眠りに落ちた人々の家を訪れて周っていた。
そして訪れる家はどこも全てこのような有様だった。

とは言え、辺境の村長としても冒険者としても有名なベンを相手は無下には出来ない。そのせいかそのまま扉を完全に閉ざす事は出来ないでいた。

『ご家族に起きた事は大変だったと心よりお見舞い申し上げます。しかし、我々ならば目覚めさせ元通りする事が出来ます。』
深々下げた頭の向こうに、小柄な青年の姿が彼女の目に写った。


『これを彼の鼻先に近づけて。それだけで目覚めます。目覚めたらこの水を飲ませてください。』小柄な青年は、頭を下げたベンの向こうから彼女に向かってピンク色の花と竹筒を渡そうと差し出していた。

柔らかな声が勧めるピンク色の花の香りは既に家の中に広がっていた。嗅いだ事ないその香りは心の中を至福の気持ちにする初めて味わうものだった。

香りに笑顔になりかけて、彼女はハッとして頭を振った。
怒りは持続させなくてはならない。大切な主人が倒れたのだから。気を取り直して今一度彼らに怒鳴る。

『誰が原因を作ったと思ってるだい。怪しげな薬なんてもうコリゴリだよ。なけなしの金を叩いてこんな目に遭うなんて。神様は酷いよ。』

『ダメ!!神獣様に怒られますよ!!』
突然の青年の大声にビクッとしたせいか、おばさんの怒りは更に膨らんだ。

『あ、アンタねぇ。ちょっと優しくしてれば付け上がって!!こちとら、訴え出ることも出来るんだか』『お母さん、お母さん!!ねぇ、きいてる?』

高尾に怒鳴りつけていた女性の袖を引っ張る者が現れた。まだ小さな女の子はきっとこの家の子供だろう。まだ8歳くらいか。
怒鳴られた高尾様を後ろに庇いながらベンはそんな事を考えた。村に残してきた子供たちが頭を掠める。

『お母さん、お父さんが目を覚ましてお母さんを呼んでるよ!!』『なんだって!』
怒鳴っていたことも忘れて、2人がドタバタと奥へ向かったのを見届けて高尾が呟いた。

『もう効果出たね』と。

あと少しだ。これまでもこのパターンが多かった。次はきっと呼ばれて…。

そこからは、前の家と同じだった。
高尾様特製の【回復薬入りの飲み薬】で
全回復だ。これまでの傷跡も潜んでいた病も何もかも全て回復する。

そして目覚めた患者は全て同じ事を言う。『だから、ラッセル商会さんの【のど飴】じゃないんだよ。交換したんだ。』と。

【|《》のど飴】と交換し、その飴で昏睡する。

『申し訳ありません。ベン様に来て頂いてこんな貴重なお薬まで貰ったのに。あんな言い方をしてしまって。』
恐縮する彼女の肩を叩いて『それは貴方がご主人様を深く愛しておられるからですよ。素敵な事です。とにかく良くなられて何よりでした。我々はこれで失礼します。』


このパターンもいつも通り。恐縮する彼女のお詫びが長くなりそうなのを断って家を出ようとしたその時。

『待ってください。お礼なんてものでは無いのですが手渡した相手の手がかりがあります。私は妙なスキル持ちでして匂いに敏感なのです。
あの時、おかしな匂いがしました。』

!!!
やっとか。探していたヒントなのか?!
敵のしっぽを掴む。それは現在の最重要事項だ。

『どんな匂いでしたか?』
『えーっと。』

起きたばかりの相手に無理をさせるなんて普段なら絶対しない。それでも行き詰まっている現段階にとって、縋るようなヒントに食いついてしまう。

男性は、頭を抱えてヒントさがしていた。
『そ、そうだ。森です。森の匂いです!』

え?

森の匂い?!

予想外のヒントに毒気を抜かれる。相手は絶対にジーラン商会だと思ったのに。森とはなんだろう。

混乱しながら、私がこの役を買ってでた時の矢作さんの大反対の様子を思い出していた。

『私が企画運営した事です。その始末も私の役目。必ず私が赴きます。』
静かでしっかりとした口調。
こんなどんでん返しを受けても冷静さを失わない。やはり凄い。

そう思って見ていたら、ジル様が隣で囁いた。『矢作さんの手を見てください。ほら、血が滲んでる。握りしめ過ぎて爪が肌を破ったのですね。』

。。。

この部屋にいるもの達全員、同じ気持ちだ。


悔しい。

その一言に尽きた。だからこそ言わねば。

『矢作さん。今患者さんの家では我々に対する不信感は最高値だと思います。真心も真実も何も届かない。そう思ってよいかと。
高尾様が作られた【神花】の花の香りで目覚めるのが事実だとしても、相手に受け入れられなくては無意味です。

こう言うと驕っているようですが、私には辺境の村の村長であると言う1面があり、怒り狂う相手に隙を作れます。』

キョトンとする矢作さん。
せ、説明しずらい。

『ふふふ。ベンさんではご自分の口から言えないでしょうから私から補足しますね。辺境の村とは、この国ではある意味特権階級です。
国を守る人々🟰辺境の村。それはどの国にも共通した認識です。しかも彼はその村の村長です。
更には冒険者としても大変有名な存在で知らぬ者はおりません。となれば固く閉ざした扉を開けざる負えない。
ベンさんはかなり身分が高いのですよ。』

絶句する矢作さんと草薙さん。

ちょっと恥ずかしいが、今は一刻を争う時。

『私にお任せ下さい。必ず、彼らを助けて敵のヒントを探して来ます。』

俯く矢作さんの悔しさは、この部屋の誰もが感じていた。納得してくれるだろうか。

『ベンさん。私のミスのフォローをお願いしても宜しいですか?本来ならば、自分でその後始末をするべきです。しかし私では役に立たない。
最適任者のベンに頼むしかありません。
どうかお願いします。』
深々下げた頭に胸がいっぱいになる。
これまでの矢作さんから受けた恩を思えば何ほどでもない。でも、それでも矢作さんの思いは伝わった。

その時。
『私も行きます。薬は私の領分ですから。』
決意を秘めた高尾様の言葉に驚いたように矢作さんが振り向いた。

『高尾…』『私が矢作さんの代わりに参ります。だから安心してください。』

矢作さんが少し俯いて『高尾、頼んだ。』と。声は少し震えていたのは誰も知らぬ振りだ。あの草薙さんでも。

物思いにふけっていたのを相手が気にして声がかかる。

『あの…役に立ちませんか?』
『いいえ。大変に役に立ちました。我々にとって最重要な事柄の1つですので。
本当に感謝します。
どうか、お大事になさってください。』

高尾様と2人、頭を下げて家を出た。

しかし我々全員、相手はジーラン商会だと思っていた。森の香りとは。
意外なヒントに考え込んでいたら、高尾様がとんでもない事を言い出した。


『あの時、香りだと言う彼に近づいて彼の口の匂いを嗅ぎました。ヒントの森の香り以外の匂いがした気がして。
。。。

えーっと。
あれは。。』

考え込んだ高尾様は思い出したように顔を上げて叫んだ。
『そうだ!!焦げ臭いような異様な匂いが森の香りと一緒にしました。森を壊したあの嫌な匂いに似ていた。』

ヒントは意外な方向へ向かっていた。


そしてその頃、ラッセル商会が大変な事になっていた。


***

『毒を配るラッセル商会出ていけ!!』
あの日から騒ぐ人々が詰めかけて騒いだ。
商売どころではない。

『大丈夫です。少しづつでも嘘は暴かれます。そして真実は必ず勝ちますから。』
ハッキリそう言う矢作の目の下にはくっきり黒いクマができていた。

ベン達の努力が、功を奏すには暫く時間がかかる。そして、この事態を逆転するには更に…。

考え込む人々の元に、店員のひとりが駆け込んできた。

『大変です。大勢人が押し寄せて。』

『それは毎日同じではないか。今更何の報告なんだ?』ラッセルさんの言葉に更に慌てた様子で店員が、答えた。


『凄くたくさんの人達が『矢作様は凄い人だ。ラッセル商会ののど飴に異変などあるはずは無い。証明できる!!』と叫んでいて。』

事態は更に矢作の思惑を外れて何処かへ向かっているようだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの唯一の趣味である、美味しい食事を異世界でも食べ歩くためだった。  

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...