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第2章 矢作、村を出る?!
矢作、斜め上の方に行く?!
しおりを挟む震えている子猫。
倒れていたボロボロの男。
ま、回復させるのに口移しを使ったのは迂闊だったけど緊急事態だから仕方ない。それなのに、草薙の様子がおかしかったのは少し腹立たしいけど、でも全回復して良かった。
あの男は、ジルさんの知り合いだったらしく意識が回復したらあっという間に連れて行ってしまったしな。
問題は子猫だ。猫にはミルクが定番だ。
だが、牛問題は未解決のまま。
ミルクはない。
と、なれば魚だ。サザエさんでも猫は必ず魚を咥えて逃げていた。
と、なれば取っておきのの鮭を焼いて食べさせよう。名案だ!!
何故かジルがやたらと慌ててるけど、俺は弱っている動物に弱いんだよ。
『ほら、食べな。』
震えて傍に寄ってこない猫に近づいて皿を出せば、クンクンと匂いを嗅いで少し口をつけた。よしよし、食べてるな。
ん??
あれ?猫が光ってないか?
『この世界の猫って、光るのか?』
ブンブン。
うーん、全員が激しく首を横に振っている所をみると珍しい現象なんだな。
『猫、大丈夫か?』
そっと頭を撫でると眩し!!
眩しさが収まると、焦げてた猫がいない。
繭?
『この世界の猫って、繭の中に入って体を癒すのか?それとも姿が変わるのか?』
あれ?
全員の顔色が悪い気がする。
『猫も私がお預かりして宜しいでしょうか?知り合いに猫に詳しい人がおりますので。』
ジルの顔の広さは凄いな。
『じゃあ、頼んでいいか?でも、ジルにばかり負担が多くて悪いな。』
猫ならぬ繭を抱き上げて扉から出ようとしていたジルが振り返って慌てた様子でこちらに向き直った。
『矢作さん、私にも役立つ所を残して下さい。これでもこの旅の護衛隊長なのですから。』
お互いに苦笑いが浮かぶ。
確かに俺と草薙の2人では、この世界での旅など夢のまた夢だ。ジル達がいてこその旅。本当にいつも感謝しかないのだが。
目的とは違う活動ばかりだが、それでも王都に無事来れたのはジル達のおかげなのだ。
。。。
そうだな。
俺は俺のやるべき事をやるしかないな。
少し草臥れた様子のジルに、改めて誓う。
『ジル、いつもそう言ってくれてありがとう。なら、俺も頑張らなきゃな。
俺の全力で次の作戦に取り掛かる事にするよ。』
何か言いかけた様な、何とも言えない顔のジルが『では、よろしくお願いします。』と言って猫(繭)を抱えて扉が出ていった。
「よーし、草薙やるぞ!!」
「お?先輩日本語は久しぶりですね。それだけやる気満載なのですね。
次の作戦が楽しみです!!」
***草薙視点***
「楽しみです」
言ったよ。確かに言いました。
その作戦がこれじゃなきゃ…な。
子供の頃から、怪談は苦手だったんだ。
だから、目の前に広がる荒れ果てた街並みは見るだけで十分にダメージを受ける。
それなのに。
『ラッセルさん、最高です!!』
興奮して顔を赤らめた先輩は、またもや顔面凶器になっているが本人はそんな事お構い無しだ。そして今回ばかりは俺も全く先輩の顔面にビビらない。
何故って…。
目の前の朽ちかけた街並みから十分すぎるほどダメージを食らっているからだ。
昼間だと言うのに何故か薄暗く見える。いや、それどころか誰も居ないはずの家の窓に人影が見えるのは何故だ!!
「先輩!!もう絶対居ますって。無理すぎる。」
何なら裸足で逃げ出したい。
『草薙。今回の作戦には広い土地がどうしても必要なんだ。それをこの広さの土地をなんと市場価格の8割引で買えたんだぞ!!買いの一手しかないだろ!!それに低コストは商売上手の常識だろ?』
満足そうな先輩には、あの窓の人影は見えないのか?
あぁぁ、ゆ、揺れてる?!
何で??揺れちゃうんだよ。
人は黒黒したりゆらゆらしちゃダメだ!!
このままだと…主に俺が終わるよ。
『今回ばかりは私も草薙さんに賛成です。
購入資金調達のために、確かに特権階級相手に商売をされるように進言はしましたがその資金でこんな場所を購入されるは……』
おぉ、怖いほど先輩推しのジルさんが反対を表明している。こりゃ本気でここはお化け屋敷なんだな。じゃああれは本物?!
『ここは祝福されない場所と呼ばれ誰も近寄りません。矢作さん、この場所で商売をされてもお客さんは来ないと思いますよ。』
はい!!村長まで反対しています!!!
先輩!!
無理ゲー決定です。
もう無理ですってば!!
はっ!!
もしかして、お化け屋敷を作るのか?!
新たなテーマパークか?!
『草薙。全部考えている事が日本語でダダ漏れしてるぞ。
お前のその考えも日本だったら面白いが、この世界では誰も来ないよ。
ここは癒しの場所になるんだ。』
癒し!!!!
先輩、あんな事があってショックでおかしくなったな。
誰がお化け屋敷で癒されると言うんだ。
そんな嘘をついて、庶民の皆さんの日銭をむしり取る気か。先輩、、これは完全に正気をうしなっ…痛!!
た、叩かれた。地味に痛い、デコピン。
『だから、日本語でダダ漏れだ。
ちゃんと作戦があるから安心しろ。まあそうは言っても、このままじゃ確かにみんなの心配も理解出来る。大丈夫、これからここは生まれ変わるんだよ。そのための秘策もある。
それにここには、実は秘密もあるんだ。』
そう言って先輩が取り出したのは【石灰】
えっ?なんで【石灰】?!
『これが秘策だ!!
これを撒けば、畑が綺麗になるんだ。ずっと前に物知りの大家の婆さんから聞いたから間違いない。
畑を綺麗にして美味しい野菜をご馳走してくれた思い出はいつまでも俺の心にある。』
いや、先輩。感動話のような感じでまとめてるけど幽霊と【石灰】は何の関係もないから。
あっ。
もう撒き出した。
高尾が呼び出したらしき、精霊達が一緒に石灰を巻くから埃っぽい。
『ゴホッゴホッ。』
あちこちで聞こえる咳き込む声に先輩の焦った声が響いた。
『マスクない人は、帰って大丈夫です。後はこちらでやりますから!!』
ジルさんを始めいつものメンバー、だけじゃない。先輩を応援に来た皆さんも置き去りにして先輩の【石灰撒き】は白い煙を上げながら続いていた。
あれ、マスクくらいで防げるのか?
疑問はあっても、誰もこの煙には負ける。
ジルさんが、何度も『矢作さん、無理をしないで下さい』と叫ぶが手を振る先輩の陽気な様子に諦めて帰途についた。
『草薙さん、本当にあれは荒廃した場所を清めるのですか?今まではこの様な穢れのある場所は、正教が祈祷してました。』
『セッキョウ?』
『草薙、要するに坊主が祈る。けど金とるって奴よ。』いつもざっくりだけど、わかりやすさ抜群のコルバさん。
お坊さんが祈るんじゃなくて、畑に撒く石灰で解決しようとする辺りが先輩らしいけど、今回ばかりは無理ゲー決定だから。
『大丈夫です。高尾さん達が付いていますから矢作さんに何か起こる事はないと思います。ただ、綺麗になるかは……』
ほら、村長さんだって困ってる。
先輩に心配のないのは良いけれど、諦めて貰うにはどうすれば良いかその後、皆で話し合った。
もちろん!!
結果は出ないけど。だって先輩は本当に、全く常識が通じないから。どっちかと言うと常識をぶち破っていくタイプだからな。
(いや、正確にはぶち壊す一択だったな)
その日の夕暮れ近くになって、漸く先輩が帰ってきた。こちらの心配など全く意に返さず、ケロッと笑顔で『終わったよ。』と。
固まる俺たちに軽く一言。
『まあ、明日見れば分かるから。』
少し疲れた様子の先輩へのツッコミは、それ以上出来ずみんなで明日を待つことにした(夜あそこに行くのは無理ゲーだし。)
翌朝、またあの場所へ行く憂鬱を抱えながらも上機嫌の先輩に少し和みながら進んで行くと。
ん?
んん???
街並みはどこ?
石灰の撒いた後はあるけれど、あの不気味な街並みが消えてる。
いや、それだけじゃ全員が固まったりしないってば。みんな先輩に慣れたんだから。
『草薙!ほら、やっぱりこの場所で当たりだったろ?』
先輩の指さす方向に見えているのは
【大穴&大量の吹き出す湯気】
『地脈を高尾達に調べて貰ったから、間違いないんだよ。癒し🟰【温泉】!!だろ?な!』
いや、先輩。『な』とか軽々しく言ってる場合じゃないから。
巨人の入る温泉ですか、ここ。
プールの水深は1.2mが適度なんですけど。
どう見ても水深が10m以上ある。
既に池を超えて湖?
『また、ダダ漏れか。いやぁ、予測外に精霊達が集まったんだよ。
ちょっと張り切っていたら、街並みが急に崩壊し始めて本当に慌てたよ。そしたら気の利く精霊がサッサと片付けまでしてくれたんだ。精霊霊って本当に面倒見が良いな。』
ジルさん。
目が点ですよ。
村長に至っては、薄笑いになってて怖いし、応援に来た人達は超ドン引中だし。
『あ、ジル。後でお願いがあるんだ。この街並みは実は人が住んでいたんだよ。
あっ、でも大丈夫。崩壊前に全員救い出したから。
でもさ、高尾がやたらこの人達に怒っていて引き離すのが大変だったよ。』
先輩の指さす方向を見てジルさんの顔が険しくなった。
そこにいたのは、幽霊なんかじゃなかった。黒装束を着た人間達だった。
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