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近づいた距離、広まる噂
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「羽柴くんが変わったのは、総務課の向坂さんが原因らしい」
そんな誰かの囁きは、いつの間にか確信めいた噂となり女性社員たちの間を巡っていった。
それでも総務課の同僚たちだけは、その話を信じなかった。
来海の人柄を知っているからこそ彼女を守るように自然と距離を縮め、何気ない声掛けを欠かさなかった。
けれど、他の課の女性社員たちの反応は違っていた。
ロッカールームや給湯室で来海が挨拶をしても返事はなく、視線は冷たく逸らされ、自分が来たことで弾んでいた会話は途切れる。
来海の周囲には目に見えない壁が築かれていく。
その空気に触れるたびに胸は締め付けられ、学生時代に異性を巡るいざこざに巻き込まれ、理由も分からないまま標的にされた記憶が鮮明に蘇った。
だからこそ来海は目立たぬように生きてきたはずだった。
それなのに――すべての原因は充輝が無遠慮に距離を詰めてきたせいだと来海は思わずにはいられなかった。
社内にいるだけで息が詰まり、同僚たちにも気を遣わせてしまう。
そうして来海は昼休みになると一人で外へ出るようになる。
ベンチで風に当たりながらコンビニ弁当を広げる日もあれば、カフェや定食屋で静かに時間を潰す日もあった。
そんな日常が数週間続いたある日の昼休み。
銀行へ向かう道すがら、背後から突然声をかけられた。
「来海じゃん。久しぶり、元気だった?」
振り向いた先にいたのは、長橋 泰斗。
泰斗は来海を異性不信にさせた元カレで本来なら二度と顔を合わせたくない存在だった。
この再会は来海の平穏を更に揺るがす引き金となっていく。
泰斗の顔を見た瞬間、来海の身体は反射的に強ばった。
大学卒業以来の再会だというのに、見た目も軽薄な口調も相手の反応を楽しむような視線も何ひとつ変わっていない。
それどころかむしろ、悪意だけがより露骨になったようにすら来海は感じていた。
「つーかお前、地味なのも相変わらずだな。そんなんじゃ男、いねぇだろ?」
嘲るように投げつけられた言葉に来海は言い返すことも出来ず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。
(……本当に、何も変わってない)
胸の奥でそう呟きながら同時に浮かんだのはかつての自分への疑問だった。
(どうして、こんな人と付き合ってたんだろう)
出会った頃の泰斗は今とは違って人当たりがよく、自然と輪の中心にいるタイプで来海にとっては「すごい人」だった。
友人を通じて言葉を交わすようになり、気づけば一緒に過ごす時間が増えていった。
そんな中で泰斗は来海のことを「特別だ」と言った。
「来海って、他の子と違うんだよな。一緒にいると落ち着くし、くだらない話も馬鹿にしないで聞いてくれるしさ」
その言葉を来海は疑いなく信じた。
付き合い始めると、誰にでも優しかった泰斗は周囲が驚くほど来海一途になった。
頻繁な連絡、甘い言葉、惜しみない愛情表現。
来海は泰斗に愛されていることを幸せに思っていた。
けれど、変化が訪れたのは交際から一年を過ぎた頃だった。
泰斗の周囲に、いつの間にか女の影がちらつくようになっていたものの来海は友達程度なら問題ないと考える性格だったから、泰斗が口にする「友達と飲みに行く」「同じ趣味の先輩に誘われた」「好きなのはお前だけだから、信じて」という言葉をそのまま受け取った。
胸の奥に不安が渦巻いても疑う自分の方が間違っているのだと、何度も自分に言い聞かせながら。
そんな中、浮気を決定づけたのは友人からの何気ない一言。
「……泰斗さ、別の子とも付き合ってるらしいよ」
その瞬間、来海の中で何かが静かに音を立てて崩れ落ちていった。
そんな誰かの囁きは、いつの間にか確信めいた噂となり女性社員たちの間を巡っていった。
それでも総務課の同僚たちだけは、その話を信じなかった。
来海の人柄を知っているからこそ彼女を守るように自然と距離を縮め、何気ない声掛けを欠かさなかった。
けれど、他の課の女性社員たちの反応は違っていた。
ロッカールームや給湯室で来海が挨拶をしても返事はなく、視線は冷たく逸らされ、自分が来たことで弾んでいた会話は途切れる。
来海の周囲には目に見えない壁が築かれていく。
その空気に触れるたびに胸は締め付けられ、学生時代に異性を巡るいざこざに巻き込まれ、理由も分からないまま標的にされた記憶が鮮明に蘇った。
だからこそ来海は目立たぬように生きてきたはずだった。
それなのに――すべての原因は充輝が無遠慮に距離を詰めてきたせいだと来海は思わずにはいられなかった。
社内にいるだけで息が詰まり、同僚たちにも気を遣わせてしまう。
そうして来海は昼休みになると一人で外へ出るようになる。
ベンチで風に当たりながらコンビニ弁当を広げる日もあれば、カフェや定食屋で静かに時間を潰す日もあった。
そんな日常が数週間続いたある日の昼休み。
銀行へ向かう道すがら、背後から突然声をかけられた。
「来海じゃん。久しぶり、元気だった?」
振り向いた先にいたのは、長橋 泰斗。
泰斗は来海を異性不信にさせた元カレで本来なら二度と顔を合わせたくない存在だった。
この再会は来海の平穏を更に揺るがす引き金となっていく。
泰斗の顔を見た瞬間、来海の身体は反射的に強ばった。
大学卒業以来の再会だというのに、見た目も軽薄な口調も相手の反応を楽しむような視線も何ひとつ変わっていない。
それどころかむしろ、悪意だけがより露骨になったようにすら来海は感じていた。
「つーかお前、地味なのも相変わらずだな。そんなんじゃ男、いねぇだろ?」
嘲るように投げつけられた言葉に来海は言い返すことも出来ず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。
(……本当に、何も変わってない)
胸の奥でそう呟きながら同時に浮かんだのはかつての自分への疑問だった。
(どうして、こんな人と付き合ってたんだろう)
出会った頃の泰斗は今とは違って人当たりがよく、自然と輪の中心にいるタイプで来海にとっては「すごい人」だった。
友人を通じて言葉を交わすようになり、気づけば一緒に過ごす時間が増えていった。
そんな中で泰斗は来海のことを「特別だ」と言った。
「来海って、他の子と違うんだよな。一緒にいると落ち着くし、くだらない話も馬鹿にしないで聞いてくれるしさ」
その言葉を来海は疑いなく信じた。
付き合い始めると、誰にでも優しかった泰斗は周囲が驚くほど来海一途になった。
頻繁な連絡、甘い言葉、惜しみない愛情表現。
来海は泰斗に愛されていることを幸せに思っていた。
けれど、変化が訪れたのは交際から一年を過ぎた頃だった。
泰斗の周囲に、いつの間にか女の影がちらつくようになっていたものの来海は友達程度なら問題ないと考える性格だったから、泰斗が口にする「友達と飲みに行く」「同じ趣味の先輩に誘われた」「好きなのはお前だけだから、信じて」という言葉をそのまま受け取った。
胸の奥に不安が渦巻いても疑う自分の方が間違っているのだと、何度も自分に言い聞かせながら。
そんな中、浮気を決定づけたのは友人からの何気ない一言。
「……泰斗さ、別の子とも付き合ってるらしいよ」
その瞬間、来海の中で何かが静かに音を立てて崩れ落ちていった。
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