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飛鳥さん卒コン 編
膝枕
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「かっきー、首痛くない?高さ大丈夫?」
「うん、ちょうどいいよ。あぁ~、柔らかくてきもちい~…」
「も~…特別だからね…?」
飛鳥さんの楽屋を出てすぐ、かっきーはめまいを起こしてしまった。きっと、緊張から開放されて疲れが出たんだと思う。
とりあえず近くにあったベンチで横にさせて休ませることにした。
私は、というと…
"枕があったほうが楽だから"とお願いされて、かっきーに膝枕をしていた。
(ちょっと恥ずかしいけど…かっきーを休ませないとだから…)
誰かに見られないかとキョロキョロしていると、下から視線を感じた。
かっきーがぽーっとした表情でこちらを見ている。
膝枕が嬉しいのか、いつもよりかっきーの視線が熱い。
(そんなに見られたら…ドキドキしちゃうじゃん…)
「ど、どう…?少し落ち着いた?」
動揺をごまかそうと、かっきーの様子を聞いてみた。
「うん、さっきよりだいぶ楽だよ…さくちゃんの、膝枕のおかげ……ねぇ、さくちゃん…?」
「ん?」
「ここからさくちゃんの顔見てたら……チューして欲しくなっちゃった…」
(………ん?)
意識がぼんやりして、周囲への注意力が薄れているんだろうか。
聞き間違いじゃなければ、膝枕とはレベルが違い過ぎるおねだりが飛んできた。
「そ、そんな、無理だよ……いつ誰が通るか分かんないし」
"え~"と不満そうな声を上げるかっきー。
でも、良かった。
こんなおねだりをしてくる程度には、かっきーが回復してきたらしい。
「かっきー、ごめんね…?かっきーだってライブで疲れてるのに、終わってからも私のことずっと気にしてくれて…」
「ううん、いいの。今日のライブ、すっごく楽しかったし。飛鳥さんの最後のライブだと思ったら寂しい場面だって何度もあったけど。それ以上に、楽しいライブだった」
「うん、私も」
「だから、さっきはライブで疲れてたわけじゃないよ。なんか、緊張の糸がとけたっていうか、不安から解放された、っていうか…」
緊張。不安。
私も、誰かにかっきーとの関係を自分から報告するなんて初めてだったから、すごく緊張したし、不安だった。
(美緒ちゃんには知られてるけど、あれはバレちゃっただけで私から報告したわけじゃないからなぁ…)
かっきーだって私との交際を誰かに話すのは初めてだっただろうし、緊張したのは当たり前だ。
でも、さっき楽屋から出てきた時のかっきーの様子からすると、、
もしかしたらかっきーは、私が抱えていたものとは別の緊張や不安と戦っていたんじゃないか。
なんとなく、今しか聞けない話のような気がしたので、かっきーに言葉の真意を訊いてみた。
少し考えてから、かっきーが穏やかに語り始める。
「私ね、さくちゃんと今みたいな関係になれて、本当に幸せ……前も幸せだったけど、なんだろう、自分の気持ちに素直になれるって、こんな幸せなんだなって思う。ただ…」
まるで、太陽が灰色の雲に覆われていくように、かっきーの表情が不安で曇っていく。
「たまにね、ほんと、たまになんだけど。私、とんでもないことをしちゃったんじゃないか、って怖くなる時があって……グループの中で好きな人が出来て、それで、気持ちを伝えて……私がしたことで、メンバーみんなも、スタッフさんも、それに、さくちゃんのことも…いつか、大変なことに巻き込んじゃうんじゃないか、って…」
かっきーは、胸のあたりで組んだ両手を小さく震わせながら、不安を吐き出してくれた。
私はその手を温めるようにそっと包み込んで、ただ耳に傾けるしかなかった。
「だからね、さっき、飛鳥さんが喜んでくれた顔を見たら、安心したっていうか…私とさくちゃんの関係を知って、あんな顔をしてくれる人がいるって…なんか、すごく嬉しかったし、ホッとした…」
「うん…私も、嬉しかった」
付き合い始めたあの日から、同じ秘密を共有してきた私たち。
世間に対してその秘密を守らなきゃいけなくて、バレたら大変なことになるかもしれない。
2人とも、そういう責任感と緊張感は常にあったと思う。
でも多分、そのプレッシャーと戦ってきたのはかっきーのほう。
私たちが付き合い始めた一番大きなきっかけは、かっきーがくれた。46時間TVの2日目の夜に、誰もいないスタジオでかっきーがキスしてくれたのは一生忘れない。
それに、翌朝に私の部屋まで来て告白してくれたのもかっきーから。
だからかっきーは、私たちの関係が原因でいつかよくない事態を起きるとしたら、自分に責任を感じてしまうだろう。
自分が選んだ行動の結果なんだって。
それが今日、初めて誰かに報告をして。
その相手は、私たちにとって大事な大事な先輩で。
そんな飛鳥さんに、喜んでもらえて。
安心できたのは、きっと私よりもかっきーのほうだ。
「かっきー、ずっと不安だったんだね……ごめんね、一人でそんな思いさせて…」
「ううん、そんな、いいの。ほんと、たまに不安になるくらいで…それに、飛鳥さんに報告して、私もこれまでの不安をはっきり自覚したっていうのもあるし」
たしかに、過ぎた後で初めて自覚する、そんな感情もあるのかなって思う。
ただ、私には、いまこの瞬間にどうしてもかっきーに伝えたい感情があった。
「でも、かっきー……私のこと"巻き込んだ"なんて、思わないでね……私だって、かっきーのおかげで自分の気持ちにやっと気付けて、それを伝えられて、本当によかったって思ってるし……いま、すごく幸せなの…それは全部、かっきーの、おかげなんだよ…?」
どうしてだろう。
かっきーを慰めるつもりだったのに。
かっきーがあの日振り絞ってくれた勇気と、かっきーがこれまで抱えてきた不安を思うと、私も涙を抑えられなかった。
「さくちゃん…」
「だから…だから……私たちのことで、これから何があっても、何が心配になっても、絶対に一人で抱え込まないでね…!かっきーがしたことは、絶対、間違ってないから…誰かを好きな気持ちを伝えるのが間違ってるなんて、そんなこと絶対にないから…!」
「…うん……ごめん…ごめんね……さくちゃん……ありがとう…」
私の膝枕で横になったままのかっきーが、手を伸ばして私の涙をそっと拭ってくれる。
「絶対…絶対だからね…?かっきーが、一人で不安になるなんて、絶対やだよ…?かっきーには私がいるし、これから起きるどんなことも私たち二人のことだから…絶対、忘れないでね…?約束だよ…?」
「うん…約束する…!」
私たちの関係が理由で、今後もし世間から厳しい声を浴びてしまうことになったら。
かっきーは、自分のせいだと感じてしまう。
多分、それは誰にも変えられない。かっきー自身でも、どうしようもない。
だからこそ私は、そんなかっきーを何があってもかっきーを絶対に守りたいと思った。
かっきーの顔を見ると、さっきのライブ中くらい涙で濡れている。
私も人のことは言えないけど。
「ほら、かっきー。目、つぶって?今度は私が拭いてあげるから。あ、ちょっとだけ体起こせる?」
「うん、ありがと…」
かっきーが少し体勢を変えると、どれだけ涙に濡れてもその美しさを損なわない顔が、私の目の前に来た。
(ふふ…素直に目を閉じてくれるかっきー、かわいいな…)
そんなことを考えていると、私の唇がかっきーの唇に引き寄せられていく。
それは、すごく自然で、逆らえない。逆らう気も起きなかった。
ちゅ……
初めて交わしたキスとは逆。
今度はかっきーが驚いていた。
「え…さくちゃん…いい、の…?」
「うん…私も、しちゃくなっちゃったから……それに……これで、さっきの約束も忘れないでしょ…?」
「ふふっ、そうだね…こんなところでキスしちゃったら、ずっと忘れられないね…」
・・・・・・・・・・・
それから、体調を整えたかっきーが体を起こして。
そろそろみんなのところに戻らないとね、なんて話していると。
??「あーー!かっきーもさくちゃんも!すごい探したんだよー!!」
まるでアニメから飛び出てきたキャラクターのようなかわいらしい声が廊下に響く。
二人とも驚いて声がした方向を見ると、頬を膨らませてこちらをにらんでいる子が一人。
怒っている、のかもしれない。
でも、やっぱり声がかわいすぎるせいで迫力は半減している。
そんなところも、私たち4期生の最年長メンバーである真佑ちゃんこと、"まゆたん"の魅力だ。
真佑「もーー!ライブ終わったら4期生で集合写真撮ろうって言ってたじゃん!それを沙耶香と林に送ろうって!4期生は16人で全員だからねって!」
(あっ……そういえば……)
昨夜まゆたんから、今日のライブに出演する4期生宛にそんな内容のLINEが届いていたんだった。
飛鳥さんに呼ばれた驚きで、完全に頭から抜けてしまっていた。
たぶん、かっきーも私と同じだろう。
飛鳥さんの楽屋に入る前にスマホもサイレントモードにしてたから、全く気付かなかった。
約束を忘れて楽屋から離れていた私たちに、文句を言いながらまゆたんが近づいてくる。
でも、私とかっきーがたった今たくさん泣いたばかりの顔だったことに気付いたのか、ハッとして固まった。
真佑「あ…あれ…?なんか、そんな空気じゃなかった…?」
遥香「ううん…!まゆたんごめんね、すぐ行くから!ね?さくちゃん?」
さくら「うん…そうだね!」
ライブ中とは別の感情で溢れてきた涙を手で拭い、かっきーとほぼ同時に立ち上がる。
すぐに控室に戻らなくちゃ。
でも、私たちを呼びに来たはずのまゆたんがなぜか立ち止まったままだった。
「まゆたん…?」
かっきーが心配そうに声をかける。
「かっきーもさくちゃんも、さぁ……」
少しうつむいたまま、どこか不満そうな声。
「先輩たちがどんどん卒業していって寂しいだろうけど…まだ、みんないるんだから……」
「え…?」
「もうちょっと、同期を頼ってもいいんだよ…?」
(そっか…まゆたんは、私とかっきーが飛鳥さん卒業のショックで泣いていたと思って…)
たしかに、卒業コンサート終演直後のタイミングを考えれば、そう考えるのが自然だ。
かっきーも、私と同じことを察して困ったように笑みを浮かべている。
でも私は、まゆたんの言葉が嬉しかった。
グループ加入前から飛鳥さんを推していたファンとして、今はまゆたんこそ人一倍寂しいはずなのに。
「ほら、私、いちおう4期で最年長だし、それにしては頼りないかもしれないけど、、」
「ううん…!まゆたんのことはいつだって頼もしいって思ってるよ?」
私はまゆたんを励ますと同時に、かっきーに目配せをしてたたみかけるよう合図する。
「わ、わたしも頼もしいって、思ってるよ!まゆたん、いつもありがとう!」
「ほんとにー?やったぁ♪……あ、そうだ、みんな待たせてるんだった!!ほら、行こ!」
今の"やったぁ♪"の声だけでファンを虜にしてしまいそうなまゆたんが、私とかっきーの肩を叩いて先導してくれる。
こんなに頼れる同期がいて。
大好きなかっきーがいて。
それに、我が子のように面倒を見てくれた先輩もいて。
このグループで、私はなんて良い出会いに恵まれてきたんだろう。
(飛鳥さん…私、みんなと一緒ならまだここでがんばれそうです…だから…)
楽屋へと走りながら、飛鳥さんがいる楽屋を一瞬だけ振り返る。
(私たちのこと、これからも見守っててくださいね…)
飛鳥さん卒コン編
~完~
「うん、ちょうどいいよ。あぁ~、柔らかくてきもちい~…」
「も~…特別だからね…?」
飛鳥さんの楽屋を出てすぐ、かっきーはめまいを起こしてしまった。きっと、緊張から開放されて疲れが出たんだと思う。
とりあえず近くにあったベンチで横にさせて休ませることにした。
私は、というと…
"枕があったほうが楽だから"とお願いされて、かっきーに膝枕をしていた。
(ちょっと恥ずかしいけど…かっきーを休ませないとだから…)
誰かに見られないかとキョロキョロしていると、下から視線を感じた。
かっきーがぽーっとした表情でこちらを見ている。
膝枕が嬉しいのか、いつもよりかっきーの視線が熱い。
(そんなに見られたら…ドキドキしちゃうじゃん…)
「ど、どう…?少し落ち着いた?」
動揺をごまかそうと、かっきーの様子を聞いてみた。
「うん、さっきよりだいぶ楽だよ…さくちゃんの、膝枕のおかげ……ねぇ、さくちゃん…?」
「ん?」
「ここからさくちゃんの顔見てたら……チューして欲しくなっちゃった…」
(………ん?)
意識がぼんやりして、周囲への注意力が薄れているんだろうか。
聞き間違いじゃなければ、膝枕とはレベルが違い過ぎるおねだりが飛んできた。
「そ、そんな、無理だよ……いつ誰が通るか分かんないし」
"え~"と不満そうな声を上げるかっきー。
でも、良かった。
こんなおねだりをしてくる程度には、かっきーが回復してきたらしい。
「かっきー、ごめんね…?かっきーだってライブで疲れてるのに、終わってからも私のことずっと気にしてくれて…」
「ううん、いいの。今日のライブ、すっごく楽しかったし。飛鳥さんの最後のライブだと思ったら寂しい場面だって何度もあったけど。それ以上に、楽しいライブだった」
「うん、私も」
「だから、さっきはライブで疲れてたわけじゃないよ。なんか、緊張の糸がとけたっていうか、不安から解放された、っていうか…」
緊張。不安。
私も、誰かにかっきーとの関係を自分から報告するなんて初めてだったから、すごく緊張したし、不安だった。
(美緒ちゃんには知られてるけど、あれはバレちゃっただけで私から報告したわけじゃないからなぁ…)
かっきーだって私との交際を誰かに話すのは初めてだっただろうし、緊張したのは当たり前だ。
でも、さっき楽屋から出てきた時のかっきーの様子からすると、、
もしかしたらかっきーは、私が抱えていたものとは別の緊張や不安と戦っていたんじゃないか。
なんとなく、今しか聞けない話のような気がしたので、かっきーに言葉の真意を訊いてみた。
少し考えてから、かっきーが穏やかに語り始める。
「私ね、さくちゃんと今みたいな関係になれて、本当に幸せ……前も幸せだったけど、なんだろう、自分の気持ちに素直になれるって、こんな幸せなんだなって思う。ただ…」
まるで、太陽が灰色の雲に覆われていくように、かっきーの表情が不安で曇っていく。
「たまにね、ほんと、たまになんだけど。私、とんでもないことをしちゃったんじゃないか、って怖くなる時があって……グループの中で好きな人が出来て、それで、気持ちを伝えて……私がしたことで、メンバーみんなも、スタッフさんも、それに、さくちゃんのことも…いつか、大変なことに巻き込んじゃうんじゃないか、って…」
かっきーは、胸のあたりで組んだ両手を小さく震わせながら、不安を吐き出してくれた。
私はその手を温めるようにそっと包み込んで、ただ耳に傾けるしかなかった。
「だからね、さっき、飛鳥さんが喜んでくれた顔を見たら、安心したっていうか…私とさくちゃんの関係を知って、あんな顔をしてくれる人がいるって…なんか、すごく嬉しかったし、ホッとした…」
「うん…私も、嬉しかった」
付き合い始めたあの日から、同じ秘密を共有してきた私たち。
世間に対してその秘密を守らなきゃいけなくて、バレたら大変なことになるかもしれない。
2人とも、そういう責任感と緊張感は常にあったと思う。
でも多分、そのプレッシャーと戦ってきたのはかっきーのほう。
私たちが付き合い始めた一番大きなきっかけは、かっきーがくれた。46時間TVの2日目の夜に、誰もいないスタジオでかっきーがキスしてくれたのは一生忘れない。
それに、翌朝に私の部屋まで来て告白してくれたのもかっきーから。
だからかっきーは、私たちの関係が原因でいつかよくない事態を起きるとしたら、自分に責任を感じてしまうだろう。
自分が選んだ行動の結果なんだって。
それが今日、初めて誰かに報告をして。
その相手は、私たちにとって大事な大事な先輩で。
そんな飛鳥さんに、喜んでもらえて。
安心できたのは、きっと私よりもかっきーのほうだ。
「かっきー、ずっと不安だったんだね……ごめんね、一人でそんな思いさせて…」
「ううん、そんな、いいの。ほんと、たまに不安になるくらいで…それに、飛鳥さんに報告して、私もこれまでの不安をはっきり自覚したっていうのもあるし」
たしかに、過ぎた後で初めて自覚する、そんな感情もあるのかなって思う。
ただ、私には、いまこの瞬間にどうしてもかっきーに伝えたい感情があった。
「でも、かっきー……私のこと"巻き込んだ"なんて、思わないでね……私だって、かっきーのおかげで自分の気持ちにやっと気付けて、それを伝えられて、本当によかったって思ってるし……いま、すごく幸せなの…それは全部、かっきーの、おかげなんだよ…?」
どうしてだろう。
かっきーを慰めるつもりだったのに。
かっきーがあの日振り絞ってくれた勇気と、かっきーがこれまで抱えてきた不安を思うと、私も涙を抑えられなかった。
「さくちゃん…」
「だから…だから……私たちのことで、これから何があっても、何が心配になっても、絶対に一人で抱え込まないでね…!かっきーがしたことは、絶対、間違ってないから…誰かを好きな気持ちを伝えるのが間違ってるなんて、そんなこと絶対にないから…!」
「…うん……ごめん…ごめんね……さくちゃん……ありがとう…」
私の膝枕で横になったままのかっきーが、手を伸ばして私の涙をそっと拭ってくれる。
「絶対…絶対だからね…?かっきーが、一人で不安になるなんて、絶対やだよ…?かっきーには私がいるし、これから起きるどんなことも私たち二人のことだから…絶対、忘れないでね…?約束だよ…?」
「うん…約束する…!」
私たちの関係が理由で、今後もし世間から厳しい声を浴びてしまうことになったら。
かっきーは、自分のせいだと感じてしまう。
多分、それは誰にも変えられない。かっきー自身でも、どうしようもない。
だからこそ私は、そんなかっきーを何があってもかっきーを絶対に守りたいと思った。
かっきーの顔を見ると、さっきのライブ中くらい涙で濡れている。
私も人のことは言えないけど。
「ほら、かっきー。目、つぶって?今度は私が拭いてあげるから。あ、ちょっとだけ体起こせる?」
「うん、ありがと…」
かっきーが少し体勢を変えると、どれだけ涙に濡れてもその美しさを損なわない顔が、私の目の前に来た。
(ふふ…素直に目を閉じてくれるかっきー、かわいいな…)
そんなことを考えていると、私の唇がかっきーの唇に引き寄せられていく。
それは、すごく自然で、逆らえない。逆らう気も起きなかった。
ちゅ……
初めて交わしたキスとは逆。
今度はかっきーが驚いていた。
「え…さくちゃん…いい、の…?」
「うん…私も、しちゃくなっちゃったから……それに……これで、さっきの約束も忘れないでしょ…?」
「ふふっ、そうだね…こんなところでキスしちゃったら、ずっと忘れられないね…」
・・・・・・・・・・・
それから、体調を整えたかっきーが体を起こして。
そろそろみんなのところに戻らないとね、なんて話していると。
??「あーー!かっきーもさくちゃんも!すごい探したんだよー!!」
まるでアニメから飛び出てきたキャラクターのようなかわいらしい声が廊下に響く。
二人とも驚いて声がした方向を見ると、頬を膨らませてこちらをにらんでいる子が一人。
怒っている、のかもしれない。
でも、やっぱり声がかわいすぎるせいで迫力は半減している。
そんなところも、私たち4期生の最年長メンバーである真佑ちゃんこと、"まゆたん"の魅力だ。
真佑「もーー!ライブ終わったら4期生で集合写真撮ろうって言ってたじゃん!それを沙耶香と林に送ろうって!4期生は16人で全員だからねって!」
(あっ……そういえば……)
昨夜まゆたんから、今日のライブに出演する4期生宛にそんな内容のLINEが届いていたんだった。
飛鳥さんに呼ばれた驚きで、完全に頭から抜けてしまっていた。
たぶん、かっきーも私と同じだろう。
飛鳥さんの楽屋に入る前にスマホもサイレントモードにしてたから、全く気付かなかった。
約束を忘れて楽屋から離れていた私たちに、文句を言いながらまゆたんが近づいてくる。
でも、私とかっきーがたった今たくさん泣いたばかりの顔だったことに気付いたのか、ハッとして固まった。
真佑「あ…あれ…?なんか、そんな空気じゃなかった…?」
遥香「ううん…!まゆたんごめんね、すぐ行くから!ね?さくちゃん?」
さくら「うん…そうだね!」
ライブ中とは別の感情で溢れてきた涙を手で拭い、かっきーとほぼ同時に立ち上がる。
すぐに控室に戻らなくちゃ。
でも、私たちを呼びに来たはずのまゆたんがなぜか立ち止まったままだった。
「まゆたん…?」
かっきーが心配そうに声をかける。
「かっきーもさくちゃんも、さぁ……」
少しうつむいたまま、どこか不満そうな声。
「先輩たちがどんどん卒業していって寂しいだろうけど…まだ、みんないるんだから……」
「え…?」
「もうちょっと、同期を頼ってもいいんだよ…?」
(そっか…まゆたんは、私とかっきーが飛鳥さん卒業のショックで泣いていたと思って…)
たしかに、卒業コンサート終演直後のタイミングを考えれば、そう考えるのが自然だ。
かっきーも、私と同じことを察して困ったように笑みを浮かべている。
でも私は、まゆたんの言葉が嬉しかった。
グループ加入前から飛鳥さんを推していたファンとして、今はまゆたんこそ人一倍寂しいはずなのに。
「ほら、私、いちおう4期で最年長だし、それにしては頼りないかもしれないけど、、」
「ううん…!まゆたんのことはいつだって頼もしいって思ってるよ?」
私はまゆたんを励ますと同時に、かっきーに目配せをしてたたみかけるよう合図する。
「わ、わたしも頼もしいって、思ってるよ!まゆたん、いつもありがとう!」
「ほんとにー?やったぁ♪……あ、そうだ、みんな待たせてるんだった!!ほら、行こ!」
今の"やったぁ♪"の声だけでファンを虜にしてしまいそうなまゆたんが、私とかっきーの肩を叩いて先導してくれる。
こんなに頼れる同期がいて。
大好きなかっきーがいて。
それに、我が子のように面倒を見てくれた先輩もいて。
このグループで、私はなんて良い出会いに恵まれてきたんだろう。
(飛鳥さん…私、みんなと一緒ならまだここでがんばれそうです…だから…)
楽屋へと走りながら、飛鳥さんがいる楽屋を一瞬だけ振り返る。
(私たちのこと、これからも見守っててくださいね…)
飛鳥さん卒コン編
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