5 / 7
5話「歪(ひず)み」
しおりを挟む―半年後―
男爵家の破産の危機は僕とラーラの宝石や衣服を売り、使用人の数を減らすことでかろうじで脱した。
家令から財政難を告げられた日から食事はパンと、豆のスープと、じゃがいもと玉ねぎのキッシュのみになった。たまに茹でた鶏肉が出てくることもある。
生活が質素になってからラーラの機嫌が悪い。
「田舎にはなんの楽しみもない。
買い物もできない、美味しい料理も食べられない、綺麗なドレスも着られない、世話をしてくれる使用人の数も少ない、新婚なのにセックスもできないなんて最低!」
王都を出るとき「弟に子ができるまでラーラとの間に子供を作らない」と父と約束した。
だからラーラと子供ができる行為をするわけにはいかない。
弟のイムレはまだ学生だ。婚約者もいない。
弟が婚約者を見つけ結婚するのは学園を卒業した後になるだろう。弟に子供ができるのはもっと先になる。
避妊薬を使えば子供ができるリスクを回避できるが、今の生活レベルではとても買えない。
「僕が男爵位を賜ったとき、ラーラはあんなに喜んでくれたじゃないか」
「あのときは貴族に順位があることも男爵の暮らしがこんなに貧しいことも知らなかったのよ!
貴族はみんな一緒だと思ってたの!
毎日宝石やドレスを買って大勢の使用人にかしずかれて、贅沢な暮らしができると思ってたのよ!」
「なら僕がプロポーズしたとき黙って受け入れれば良かっただろう!
そうすればお前は王太子の愛人になり贅沢な暮らしができたんだ!」
「愛人になるなんて嫌よ!
私は正妻の地位もお金もどっちも欲しかったの!」
貧しくなってからラーラとの口論が増えた。
ラーラと一緒にいても前ほどときめかない。
「喧嘩しても仕方ない、気晴らしに街の散策でもしよう」
ラーラをデートに誘ったが、
「買い物するわけでも、ご飯を食べに行くわけでも、劇を見に行くわけでもないのに、こんな田舎の街を散策して何が楽しいのよ!」
断られてしまった。
僕も庶民の暮らしを見ても前ほど胸が高鳴らなくなっている。
王太子だったとき庶民の暮らしを見てわくわくしたのは、庶民の暮らしが王太子の生活と結びつかなかったからだと気づいてしまった。
今の僕は市井の人間とさして変わらない生活をしている。そして死ぬまでこの生活が続く。
彼らの生活を見て胸がときめくはずがない。
ラーラのころころと変わる表情も、喜怒哀楽がすぐに出る性格も、最近はうっとうしく感じている。
ここには僕の教養に釣り合った人間がいない。高度で政治的な話をできる人間が誰もいない。
ラーラは僕が知的な話をしても、つまらなそうな顔をするだけ。
これがナディアだったら……いや元婚約者のことを考えても仕方がないな。
次第にラーラと会話する回数も減り、顔を合わせることも少なくなった。
その頃からラーラの様子が変わった。
ラーラは昼間寝て、夜中に起き出し、毎晩どこかに出かけるようだった。
そしてある日ラーラが妊娠した。
僕は結婚してからラーラと一度も子作りをしていない。だからラーラのお腹の子は僕の子ではない。
ラーラを問い詰めると、
「うるさいわね! この貧乏男爵! 金を持ってないあんたなんかなんの魅力もないのよ! あんたとなんか離婚よ!」
と言われ突き飛ばされた。
ラーラはそのまま屋敷を出て行ってしまった。
王太子の地位を捨て愛する人と一緒になったのに……こんなにもあっさりと裏切られ、結婚生活が破綻してしまうとはな。
離婚は認められていないし、弟より先に子を作ることは許されていない、父にラーラの妊娠についてどう報告したものか……。
とりあえずラーラを探し出して家に連れ戻さなくてはならない。父への言い訳はそれから考えよう。
しかしラーラがこの家の敷居を生きて跨ぐことは二度となかった。
翌日、ラーラは遺体で発見された。
86
あなたにおすすめの小説
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
姉にざまぁされた愚妹ですが何か?
リオール
恋愛
公爵令嬢エルシーには姉のイリアが居る。
地味な姉に対して美しい美貌をもつエルシーは考えた。
(お姉様は王太子と婚約してるけど……王太子に相応しいのは私じゃないかしら?)
そう考えたエルシーは、自らの勝利を確信しながら動き出す。それが破滅への道とも知らずに……
=====
性懲りもなくありがちな話。だって好きだから(•‿•)
10話完結。※書き終わってます
最初の方は結構ギャグテイストですがラストはシリアスに終わってます。
設定は緩いので何でも許せる方向けです。
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!!
婚約破棄から幸せになる物語です。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
あなたをずっと、愛していたのに 〜氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~
柴野
恋愛
「アナベル・メリーエ。君との婚約を破棄するッ!」
王子を一途に想い続けていた公爵令嬢アナベルは、冤罪による婚約破棄宣言を受けて、全てを諦めた。
――だってあなたといられない世界だなんて、私には必要ありませんから。
愛していた人に裏切られ、氷に身を閉ざした公爵令嬢。
王子が深く後悔し、泣いて謝罪したところで止まった彼女の時が再び動き出すことはない。
アナベルの氷はいかにして溶けるのか。王子の贖罪の物語。
※オールハッピーエンドというわけではありませんが、作者的にはハピエンです。
※小説家になろうにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる