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20話「王太子の苦悩と後悔。言い伝えに背き水竜の像を破壊した代償」王太子視点
――王太子視点――
「王太子殿下、申し上げます!」
「なんだ!」
イルゼがいなくなりようやく仕事に集中できると思ったのもつかの間、今度は文官が部屋に入ってきた。
「王都の井戸が干上がったとの報告がありました!」
「またか……!
今日はいくつだ?」
「昨日から今日にかけて干上がった井戸の数は八十基です!」
「八十だと! 昨日の倍じゃないか!」
「これで王都に約千基ある井戸のうち、百五十基が干上がりました!」
文官の言葉に俺は頭を抱えた。ついに干上がった井戸の数が一割を超えてしまった……!
「それだけではありません!
各領地から井戸や川や池が枯れたとの報告が相次いでおります!」
「くそっ……!
なんだってこのタイミングで……!」
一週間前、卒業パーティーで水竜の石像を破壊した。
その三日後、王都の井戸が十基枯れた。
最初のうちは井戸の十基や二十基、枯れてもどうとでもなると考えていた。
これが水竜の像を壊した祟りだというのなら、水竜の力も大したことないなと事態を甘く見ていた。
しかし、井戸が枯れたという報告は、その翌日も届き、さらにその次の日、そのまた次の日も続けて寄せられた。
一日に枯れる井戸の数は日に日に数を増していく。
そのうちに、王都だけでなく周辺の領地からも井戸や川が枯れたという報告が届くようになった。
俺が水竜の像を破壊する命令を下したのを、大勢の貴族に聞かれている。
卒業パーティーの会場を王宮にし、パーティーに保護者を招いたことが裏目に出た。
パーティーに参加したのが、令嬢や令息だけならいくらでも言いくるめる事ができた。だが、当主が相手ではそうもいかない。
俺はただ、大勢の前でアデリナを絶望させたかっただけなんだ!
あいつが三日と空けずに磨いている水竜の像を破壊したら、普段すましているアデリナでも動揺する。
上手く行けば泣き顔を見られる。
そう思って卒業パーティーの会場で水竜の像を破壊した。
水竜の像を破壊したことと、各地の井戸や川が枯れたことの因果関係は証明されていない。
しかし、このタイミングで井戸や川が枯れたら人々は原因は水竜の像を破壊したことにあると思うだろう。
くそっ! こんなことになるなら、もっと目立たないようにこっそりと水竜の像を破壊すればよかった!
「申し上げます!」
兵士が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「今度はなんだ!」
俺はキレ気味で兵士に問いかけた。
「一大事です!
み、民衆が城門の前に押し寄せています!」
「なんだと……!」
俺は立ち上がり、窓の外に目を向けた。城の門の前に大勢の人が集まっているのが見えた。
「彼らは井戸水が枯れたのは、王家が水竜様の像を破壊したせいだと口々に叫んでいます!
水竜の像を破壊したことと井戸が枯れたことに因果関係はないと説明しても、聞く耳を持ちません!」
そう告げた兵士の顔が青ざめていた。よほど怖い目にあったのだろう。
タガが外れた民衆というのは、これだから達が悪い。
水竜の像を破壊した話がもう平民にまで広がっているのか……!
「井戸の一基や二基、百基や二百基が枯れたぐらいで騒ぎやがって!
これだから平民は嫌いなんだ!
残っている井戸を使えばいいだけの話だろう!!」
王都には千基近い井戸がある。そのうちの一割や二割が枯れたところでなんてことないだろう……!
「王太子殿下に申し上げます!」
書類を手にした騎士が部屋に入ってきた。
「今度はなんだ!」
次から次へと問題を持ち込んできやがって! 俺を過労死させる気か!?
「王太子殿下の命を受け、私と部下数名はアデリナ様の捜索を行って参りました。
今日ようやくアデリナ様の足取りがつかめました!」
「それは本当か!?」
ようやく入ってきた吉報に、俺は少し落ち着きを取り戻した。
俺が数名の騎士にアデリナの捜索を命じたのは、まだ各地に異変が起きる前のことだ。
王太子妃教育を受けたイルゼがポンコツだとわかり、アデリナを連れ戻しイルゼの代わりに仕事だけやらせようと考えたのだ。
アデリナには側室の地位を与えるつもりだ。あいつが望むなら子供を一人くらい作ってやってもいい。
実家から勘当され行き場の無くなったアデリナは、廃墟に隠れ住み、空腹と寒さに耐えながら震えているに違いない
落ちぶれたアデリナを、助け出し衣食住を提供する。そうすれば奴は俺を恩人だと崇めることだろう。
奴は心を入れ替え、俺とイルゼの為に生涯尽くしてくれるはずだ。
俺とイルゼの代わりに仕事をこなしてくれるなら、奴がイルゼを虐めていたことを不問に付してやる。
アデリナの捜索を命じた数日後、王都の井戸が枯れ始めた。そちらの調査を優先したので、アデリナの捜索が後回しになってしまった。
「それで、今、アデリナはどこにいるんだ?」
「アデリナ様はパーティーを退席したあと、
走ってブラウフォード公爵家に向かいました。
公爵家の門番に阻まれ敷地には入れなかったようです。
その後、ゆく当てもなく道を歩いていたアデリナ様は、偶然通りかかった農夫に助けられたようです。
アデリナ様は農夫の馬車に乗り王都の東にある宿駅に向かい、そこで一泊しています」
「王都の東にある宿駅に一泊しただと……?」
王都の東にはリスベルン王国へ渡る船着き場がある。
まさか、アデリナは国外追放を真に受けて国境に向かったというのか?
「翌日、アデリナ様は宿で親しくなった行商人の馬車に乗り、リスベルン王国に向かったようです」
やはりアデリナは、国境にある船着き場を目指していたのか!
「それでは、もうアデリナはこの国にはいないのか?」
「おそらくアデリナ様は、リスベルン王国の王都に着いている頃かと存じます……」
くそっ! 誰だアデリナを馬車に乗せた奴は!? 余計なことをしやがって!
それがなければ、奴は歩いて国境に向かうしかなかった。徒歩での移動距離はたかがしれている。
誰もアデリナを馬車に乗せなければ、捜索隊は余裕でアデリナを保護することができたのに……!
「アデリナを捜索していた折、不思議な話を耳にしました」
「不思議な話だと?」
「アデリナ様を馬車の荷台に乗せた農夫がおりました。
彼の家を尋ねたのですが、彼の家や畑はモンスターの被害に遭っていなかったのです」
「何?」
井戸の水が枯れたのと時を同じくし、街道や森や畑にモンスターが出現するようになった。
モンスターの被害報告は日に日に増えていく。モンスターに荷馬車が襲われたり、畑が荒らされたり、その被害は甚大だ。
それなのに、その農夫の家や畑はモンスターの被害に遭っていないというのか?
「それだけではありません。
アデリナ様が宿泊した宿駅では、井戸は水がこんこんと湧き、以前より水量が増し、水が美味しくなったそうです」
「それは本当か?」
王都の井戸は枯れるか、水量が減っている。
その宿だけ井戸の水が増えていると……?
「もう一つアデリナ様は、青い髪の十歳くらいの少年と一緒だったそうです」
「青い髪の少年?
誰なんだ、そいつは?」
アデリナは俺と婚約破棄したばかりだ。それなのにもう新しい男を見つけ、そいつと旅をしているというのか? 節操のない女だ。
「わかりません。
現在調査中です」
しかし不味いな。
アデリナと婚約破棄したタイミングで王都や地方の井戸が枯れ、アデリナが立ち寄った宿の井戸水が増えた……。
そんなことが民に知られたら、アデリナを国外追放した王家にさらに非難が集まってしまうだろう!
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