「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ

文字の大きさ
21 / 50

21話「国王の起死回生の一手」王太子視点

しおりを挟む



――王太子視点――



「青い髪の少年が何者かなど、今はどうでもいい。
 それよりも、アデリナが泊まった宿の井戸水が増えたことを絶対に民に知られるな!
 これ以上、王家に批判が集まるのを避けたい!」

「承知いたしました」

騎士は挨拶をすると退室した。



◇◇◇◇◇



騎士が退室したあと、俺は執務用の椅子によりかかり深く息を吐いた。

全く……次から次へと問題が起きる。

初代から数えて父上で十四代目。

歴代の国王の中には水竜を信仰しない者もいた。

八代目の国王は取り分け信仰心が薄かった。彼は水竜に関する資料を燃やし、像の台座に刻まれていた水竜の名前を削ってしまった。

だから今では、水竜の名前すらわからない。台座に頭文字の「Q」だけが残っている。

今残っているのは焼却を免れた資料と、当時の人間が記憶を頼りに復元した資料のみだ。

資料の復元をするなら、水竜の名前くらい書き残せよ。当時の人間が抜けているのか、何らかの事情で水竜の名前だけ残せなかったのか……それはわからない。

資料にはあやふやな部分もある。完全に消失してしまった記録もある。

水竜の資料を焼却するような王の時代でも、この国は豊かだった。

毎年豊作で、川の水量は豊富で、井戸も池も湖もこんこんと水が湧き出ていた。

この国には、国王か王太子が三日に一度水竜の像を磨くしきたりがある。

そのしきたりを破れば、トリヴァイン王国は水竜の加護を失い国は元の荒野に戻ると言い伝えられている。

だが水竜の資料を焼却し、水竜の名前を台座から削り取った国王の時代にも国は豊かだったのだ。

父上も水竜の像を磨く仕事を母上に丸投げしていた。しかし、何の異変も起こらなかった。

俺も父上もしきたりを破って水竜の像を磨かなかった。しかし国にはなんの異変も起こらなかった。

つまり水竜の伝説は単なる伝承に過ぎず、水竜の像にはなんの力もないのだ。

俺はそう確信し水竜の像を破壊した。それなのにまさかこんな結果に繋がるなんて……。

なんで、なんで、なんで……! 俺や父上の代にだけこんな災害に見舞われるんだよ……!

「エドワードはいるか……」

「父上……!」

その時、父が執務室に入ってきた。

父の頬はやつれ、目の下に深いクマがあり、瞳には覇気がなく、髪も髭もボサボサで、酷い有り様だった。

今の父には、文武両道に優れ獅子王と称された頃の面影はなかった。

王都の井戸水が枯れた知らせを聞いてから父は城の書庫にこもり、水竜に関する古文書を読みふけっていた。

数代前の国王の時代にほとんどの資料が消失したので、書庫に籠もって水竜のことを調べても無駄なのに……。

「あれから書庫に籠もって古文書を読み漁ったが、
 新たなことはわからなかった」

「そうですか」

「そうだと思ってました。無駄なことをしましたね」とは口が裂けても言えない。

「だが、リスベルン王国になら水竜に関する資料が残っているかもしれん」

「えっ?」

なぜ我が国にもない水竜の資料がリスベルン王国に残っているんだ?

「我が国の七代目の王の時代。
 リスベルン王国の十五代目の国王が水竜に興味を持った。
 リスベルン王国の十五代目の国王は、当時の王妃に書き写した物で構わないから、水竜の資料を譲ってくれと頼んだそうだ。
 王妃はその願いを聞き入れ、水竜に関する資料を書き写しリスベルンの国王に渡したらしい……」

「そんなことが……」

この国の水竜に関する資料って他国に渡していいのか? その当時の王族は危機管理能力が薄かったんだな。

水竜の資料を焼却したのは八代目の国王だ。

七代目の国王の時代に資料の写しをリスベルン王国に渡したのなら、リスベルン王国には我が国には残っていない資料があるかもしれない。

「リスベルン王国の十五代目の王は大層な美形で、我が国の王妃がその美しさの虜になり……。まあ、そんなことはどうでもいい」

色仕掛けか……確かにリスベルン王国の王族は美形が多いことで有名だ。それにしてもご先祖様ちょろすぎないか?

「アデリナが青い髪の少年と共に、リスベルン王国に渡った話も聞いた。
 アデリナが立ち寄った場所で、不思議な現象が起きてることもな」

「父上は、そこまでご存知だったのですね」

書物に籠もって遊んでるように見えて、ちゃんと情報収集してたんだな。さすが父上、抜け目がない。

「リスベルン王国の国王に手紙を送る。
 手紙にこう記すつもりだ。
 水竜に関する文献を我が国に返すこと。
 アデリナと青い髪の少年を保護し、我が国に送り返すこと」

「アデリナには利用価値があるので保護するのはわかります。
 ですが彼女と一緒にいる青い髪の少年まで保護する必要はありますか?」

家出少年か、旅の行商人の仲間かなんかだろう?

別段気に留める必要もない。

「余が幼い頃、曽祖父が話していた。
『水竜様は気まぐれにトカゲや少年の姿に化けて街の様子を観察することがある。そのような物を見かけたら丁重に扱うように』と……。
 年寄りの与太話だと思い今の今まで忘れていた」

「まさか、アデリナの側にいる青い髪の少年が水竜の化身だとでもいうのですか?」

「わからん……。
 しかし、青い髪の少年の周りではそうとしか考えられない奇跡のような現象が起きている。
 彼を捕らえて……いや保護して、我が国に丁重にお迎えして損はないだろう」

父の話を俺は半信半疑で聞いていた。

農夫の畑の件と、宿駅の井戸水の件に青い髪の少年が関わっているとしたら……。

青い髪の少年が水竜の化身じゃなかったとしても、何らかの不思議な力を持っている可能性が高い。

この際、青い髪の少年が何ものであっても構わない……!

トリヴァイン王国を水量が豊富で、実りが豊かで、モンスターの被害が出ない、かつての平和で豊かな国に戻してくれるのなら……!


◇◇◇◇◇

父上がリスベルン王国への書状を、伝書鳩の足に取り付け空へと放つ。

俺にはその鳩がこの国を救う唯一の希望に見えた。



※クヴェルの髪は水色です。しかし「水色」を「青」と表現することがあるので、ここでは「青い髪の少年」と記しています。
 信号機の「緑」を「青」と表現するようなものです。
 

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。 心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。 そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。 一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。 これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...