転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

勝手な賭け

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 最初に入室した爺さんが挨拶をする。

「メリル殿、久しぶりだな」
「エンリケ様もお元気そうで。それに、今日は二人も可愛いお客様を連れてきていただいて嬉しいわ」
「私のひ孫のミリアナとその友達のラジェだ」

 ラジェと一緒に商人の挨拶をする。

「立派な商人の挨拶ね。私はアジュール商人ギルド長のメリルよ」

 自己紹介をすれば、メリルさんはスパークの名前に反応した。だが、それ以上は何も聞いて来なかった。
 商業ギルド長にしては……こう、ギラギラしていない。私の知っている王都の商業ギルド長は西も東もギラギラしている印象が強い。
 爺さんとメリルさんの顔を交互に見つめていると、爺さんにジト目で見られたので笑顔を返す。
 メリルさんが目を細めながら言う。

「二人ともお菓子は好きかしら?」
「はい。好きです」
「僕も好きです」

 元気よく答えると、メリルさんが部下に指示を出す。
 ソファに座ると、すぐに紅茶とお菓子のソフトクッキーが配膳された。アジュールのほうが王都より砂糖は身近にあるのか、ここに来てっからお菓子を見掛ける頻度が多いような気がする。
 クッキーをひと齧りする。これはマカダミアナッツに似たものが入ったソフトクッキーだ。美味しい。ラジェもクッキーを気に入ったようで満足な顔をしている。
 私たちがホクホク顔をしているのを横目に、メリルさんが爺さんに尋ねる。

「それで、急に面会の日にちを早めてまで登録したいレシピとは何でしょうか?」
「うむ。メリル殿も思いもよらないものだ」

 爺さんが、先ほど漁師から受け取った袋の中からハズレ針を取り出し口角を上げる。
 メリルさんは眉間に皺を寄せ、首を傾げる。

「ハズレ針をあちこちから引き取っていると噂が耳に入っていましたが、事実でしたか」
「はは。まぁ、話を聞いてくれ。私も始めこそはこれをゴミだと思っていた」
「……それは、違うのですか?」

 メリルさんがテーブルに直接置かれたウニを嫌な顔で見る。
 爺さんが愉しそうに話を続ける。

「メリル殿、賭けをしないか? ハズレ針が登録可能のレシピになった暁には、ハズレ針の漁業権をペーパーダミー商会に十割だ」

 メリルさんが解せない顔をしながら尋ねる。

「賭けということは、こちらも条件を提示していいのですよね?」
「そうでないと賭けにはならない」

 メリルさんが少し考え、閃いた顔をする。

「では、ハズレ針が食材として登録不可の場合、ペーパーダミー商会の会頭と会わせてください」

 へ? 私と会いたい?
 爺さんも思ってもいない賭けの条件だったようで、訝しげに尋ねる。

「何故、ペーパーダミー商会の会頭と会いたいのだ?」   
「ペーパーダミー商会の噂は、アジュールまで聞こえていますよ。ソフトクッキーを始め、砂糖を使用した菓子の先陣はオーシャ商会かと思われていた。それなのに、彗星のごとく現れた商会が次から次に斬新かつ洗練されたレシピを登録……しかも、会頭は一度も公の場にでない。気になる要素しかないのではないかしら?」

 メリルさんはおっとりしているけど、やはり商業ギルド長だ。静かに捲し上げる感じで、ジワジワと詰めるスタイルだ。
 爺さんが軽く鼻で笑い答える。

「ふっ、賭けの条件はそれでよい」

 ん? 爺さん、勝手に私を二人の賭けに放り込まないでほしい。でも……この勝負、メリルさんには悪いけど勝つのは爺さんだ。昨晩のエルさんのウニのパスタは絶品だった。あれを食べて、レシピ登録を拒むことはできないだろう。
 メリルさんは、爺さんがあっさりと賭けを承諾したことに少し疑念を抱いていたようだったけど、無事に互いに握手を交わした。

「ミリアナ。お主たちはレシピを登録する間、この辺りでも観光するとよい」
「それなら、もしよろしければ、商業ギルドの船を見学しますか?」

 メリルさんにそう提案された。

「見たいです!」
「僕も」
「それでは、後ほど係の者に向かわせますね。それまで屋上からの景色を楽しんでください」
「メリルさん、ありがとうございます!」

 爺さんが船の話をしている間、無言だった。爺さん……さては、本当に船が苦手なの?
 メリルさんと別れ際に追加のお菓子を貰ったので、満面の笑顔でお礼を言った。
 その後、キースとラジェと商業ギルドの屋上へと向かう。
 屋上はちょっとした観光地になっているのか、商人以外の人たちで賑わっていた。

「ラジェ、あっちで海見よ!」
「うん」

 ラジェと手を繋ぎ、絶景だという景色を見に行く。確かに地平線まで広がる海に光が反射してキラキラと輝いている。
 ラジェが海を見つめながら言う。

「綺麗だね。でも、海ってどうして青いのかな?」
「海が青く見せたいから……かもね」
「海が?」
「うん」

 正確には太陽の赤い光だけを海が吸収して、残った青色が反射されているのだけど……細かい話は、この綺麗な景色の前では無用な気がしてあえて説明しなかった。

「それなら海は赤が好きなんだね」
「どうして?」
「赤を独り占めしているから?」

 ラジェが海を眺めながらロマンチックなことを言う。
 そういう風に考えたことはなかった。確かにそう考えると、海が誰にも赤を渡したくないようにも思えた。
 せっかくなので、目の前に広がる景色を持参した道具でスケッチする。この光景を絵に残して家に持って帰ろう。ジークの喜ぶ顔を想像しながら、少し間、スケッチに勤しんだ。
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