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本編
砂の拳
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カニを船に乗せると、足元が揺れた。調子に乗って少し大きく作りすぎたかもしれない。
正気に戻ったリュヤさんが後方に走り出す。
「あ! 待って」
小回りが利く小さいサイズのカニでリュヤさんの道を塞ぐ。
リュヤさんの水魔法の攻撃が放たれるが、カニは無傷だ。同じ水魔法でも、私のほうが魔力で勝っているようだ。
「もう、諦めてください」
リュヤさんと同じセリフを返すと、足元に火の矢が飛んできた。
あ、危ない! あと一歩前に進んでいたら私の足に刺さっていたかもしれない。
「ちっ、外したか。船を壊しやがって。子供でも許さねぇぞ!」
男の怒鳴り声は聞こえるけど、姿は見えない。
「超ド級デカライト」
船全体をライトで照らすと、弓を放った者が見える。あの船長らしき人物だ。超ド級デカライトに一瞬驚いたように見えたが、すぐに新たな矢が放たれた。急いで風魔法で避けたが、矢は私の腕を掠った。
「痛ーい!」
痛い、痛い、痛い!
涙目で右腕を見れば、服の一部が破れ、血が滲んでいた。ほんの少し掠っただけなのに、すごく痛い。せっかくオーレリア王女にもらった服なのに……右腕に触れながらヒールを唱える。
「し、白魔法まで……化け物……」
リュヤさんが私を恐ろしげな目で睨むと、船長が再び弓を引くのが見えた。急いで全身を水魔法の水で纏う。これなら弓が当たっても平気だ。
放たれた矢が水に吸収されると、船長が私を指差す。
「おい、リュヤ! テメェの水魔法であれをなんとかしろ!」
「無理言わないで!」
言い争うはしているけど、二人とも完全に戦闘態勢だ。
でも、私は戦闘要員ではない。つまみ食い要員なのだ。
こういう場面、月光さんなら余裕だろうけど……二人同時に相手するのは私には難しい。バクバクとうるさい心臓を落ち着かせる。
(カニ突進でいけるかな? でもカニって横向きにしか走らないよね? あれ、カニってどうやって真っ直ぐ走らせることができるんだろう)
ダメだ……矢が掠めた痛みのショックのせいで完全に焦っている。ひとまず、落ち着こう。ひっひっふーだ……ってこれも違う!
三人の間で睨み合いの沈黙が流れると、甲板の一部が噴火するように壊れ、ラジェが飛び出してくる。
「ラジェ!」
「ミリーちゃん!」
ラジェが無事でよかった! ラジェの顔を見ると、変な焦りもすぐに消えた。
笑顔で駆け寄ってきたラジェが途中で止まり、たちまち険しい顔に変わる。
「ミリーちゃん、その腕の血、怪我をさせられたの?」
「矢がちょっと擦れて。痛かったけど、ヒールで治したからもう大丈夫だよ」
「……誰にやられたの?」
「誰って……」
こちらに敵意を向け続ける船長に視線を移す。
「あいつがミリーちゃんを傷つけたの?」
「そうだけど、もう治ったか――」
話の途中でラジェの魔力が四方に散乱し始め、その鋭い魔力をひしひしと肌に感じた。
「ラジェ! 待って!」
ラジェに落ち着くように説得しようとしたが、時はすでに遅かった。
ラジェは砂を蹴り、一気に船長との距離を詰めると、砂魔法で作った巨大な拳で船長を殴り飛ばした。
殴られた勢いで後方の帆柱にぶつかった船長は、そのまま気絶したように白目を向いた。
(あんな巨大拳のラジェの砂魔法、今まで見たことない……)
ラジェの行動に呆気に取られていると、リュヤさんが地面に何か玉のようなものを投げた。すると、玉から出た煙で辺りが一瞬何も見えなくなった。
風魔法で急いで煙を消すが、リュヤさんを見失ってしまう。
(月光さん以外にも忍者ムーブする人がいるんだ……)
見失ったといっても辺りは海だ。どこにも逃げ道なんかない。
アジュール方面を確認すれば、一隻のギラギラした船がものすごいスピードでこちらに向かっているのが見えた。ギラギラ船から月光さんの魔力が強くなるのを感じる。やった、助け船だ!
暗闇と距離で見えないと思うけど、助け船に向かって大きく手を振りながらラジェに声をかける。
「ラジェ! 助けが来たよ! ラジェ――?」
反応がないので振り返ると、ラジェは気絶した船長を見下ろしたまま再び砂魔法の拳を生成していた。周りにあった木片がカタカタと揺れながら砂に変わり、ラジェの足元に一筋の裂け目が生まれ徐々に伸びていった。
あ、これって……以前私が経験した魔力の暴走と同じだと思う。何度かラジェの名前を呼ぶが、聞こえていないようだ。
「どうしよう……」
砂と化した木片だったものに、視線を落とす。このままだと船の一部まで砂に変えられてしまいそうな勢いだ。
(声がけがダメなら、ラジェに直接触れれば……そしたら正気に戻ってくれるはず)
ラジェの全身から溢れ出る魔力に対抗するように、私も魔力を放出させながら纏った。
ラジェに近づけば、ぐいっと押し返される感覚がした。ゆっくりと魔力を掻き分けながら、ラジェの手に軽く触れる。
「ラジェ、もう大丈夫だから。そんなに魔力を出し続けると危ないよ?」
「……え、ミリーちゃん?」
ラジェが首を傾げながら目を合わせる。
よかった。気付いてくれた。
「もう大丈夫だから……」
視線を下げたラジェが、白目を剥いたままの船長を困惑した表情で眺める。
「これは、僕がやったの?」
「そうだけど、覚えていない?」
「覚えていない……」
ラジェの手を強く握り微笑む。
「悪いやつをやっつけてくれてありがとう」
「うん……」
ラジェがうなずきながら手を握り返した。もう、魔力は暴走していない。いつものラジェだ。
助け舟が近くまで来ていることをラジェに伝えようとすれば、鋭いホイッスル音が辺りに響いた。
船の側面からする機械音を確認するために、手すりから身を乗り出すとどこからか船員たちの声が聞こえた。
「魔法口から砲弾が放たれるぞ! 何かにつかまれ!」
あの魔法口なら危ないからと金属魔法の鉄で固めたので使えないはずだ。
二度目の短いホイッスルが鳴った直後、船の側面が大きく爆発し、私は手すりを越えて海に投げ出された。
正気に戻ったリュヤさんが後方に走り出す。
「あ! 待って」
小回りが利く小さいサイズのカニでリュヤさんの道を塞ぐ。
リュヤさんの水魔法の攻撃が放たれるが、カニは無傷だ。同じ水魔法でも、私のほうが魔力で勝っているようだ。
「もう、諦めてください」
リュヤさんと同じセリフを返すと、足元に火の矢が飛んできた。
あ、危ない! あと一歩前に進んでいたら私の足に刺さっていたかもしれない。
「ちっ、外したか。船を壊しやがって。子供でも許さねぇぞ!」
男の怒鳴り声は聞こえるけど、姿は見えない。
「超ド級デカライト」
船全体をライトで照らすと、弓を放った者が見える。あの船長らしき人物だ。超ド級デカライトに一瞬驚いたように見えたが、すぐに新たな矢が放たれた。急いで風魔法で避けたが、矢は私の腕を掠った。
「痛ーい!」
痛い、痛い、痛い!
涙目で右腕を見れば、服の一部が破れ、血が滲んでいた。ほんの少し掠っただけなのに、すごく痛い。せっかくオーレリア王女にもらった服なのに……右腕に触れながらヒールを唱える。
「し、白魔法まで……化け物……」
リュヤさんが私を恐ろしげな目で睨むと、船長が再び弓を引くのが見えた。急いで全身を水魔法の水で纏う。これなら弓が当たっても平気だ。
放たれた矢が水に吸収されると、船長が私を指差す。
「おい、リュヤ! テメェの水魔法であれをなんとかしろ!」
「無理言わないで!」
言い争うはしているけど、二人とも完全に戦闘態勢だ。
でも、私は戦闘要員ではない。つまみ食い要員なのだ。
こういう場面、月光さんなら余裕だろうけど……二人同時に相手するのは私には難しい。バクバクとうるさい心臓を落ち着かせる。
(カニ突進でいけるかな? でもカニって横向きにしか走らないよね? あれ、カニってどうやって真っ直ぐ走らせることができるんだろう)
ダメだ……矢が掠めた痛みのショックのせいで完全に焦っている。ひとまず、落ち着こう。ひっひっふーだ……ってこれも違う!
三人の間で睨み合いの沈黙が流れると、甲板の一部が噴火するように壊れ、ラジェが飛び出してくる。
「ラジェ!」
「ミリーちゃん!」
ラジェが無事でよかった! ラジェの顔を見ると、変な焦りもすぐに消えた。
笑顔で駆け寄ってきたラジェが途中で止まり、たちまち険しい顔に変わる。
「ミリーちゃん、その腕の血、怪我をさせられたの?」
「矢がちょっと擦れて。痛かったけど、ヒールで治したからもう大丈夫だよ」
「……誰にやられたの?」
「誰って……」
こちらに敵意を向け続ける船長に視線を移す。
「あいつがミリーちゃんを傷つけたの?」
「そうだけど、もう治ったか――」
話の途中でラジェの魔力が四方に散乱し始め、その鋭い魔力をひしひしと肌に感じた。
「ラジェ! 待って!」
ラジェに落ち着くように説得しようとしたが、時はすでに遅かった。
ラジェは砂を蹴り、一気に船長との距離を詰めると、砂魔法で作った巨大な拳で船長を殴り飛ばした。
殴られた勢いで後方の帆柱にぶつかった船長は、そのまま気絶したように白目を向いた。
(あんな巨大拳のラジェの砂魔法、今まで見たことない……)
ラジェの行動に呆気に取られていると、リュヤさんが地面に何か玉のようなものを投げた。すると、玉から出た煙で辺りが一瞬何も見えなくなった。
風魔法で急いで煙を消すが、リュヤさんを見失ってしまう。
(月光さん以外にも忍者ムーブする人がいるんだ……)
見失ったといっても辺りは海だ。どこにも逃げ道なんかない。
アジュール方面を確認すれば、一隻のギラギラした船がものすごいスピードでこちらに向かっているのが見えた。ギラギラ船から月光さんの魔力が強くなるのを感じる。やった、助け船だ!
暗闇と距離で見えないと思うけど、助け船に向かって大きく手を振りながらラジェに声をかける。
「ラジェ! 助けが来たよ! ラジェ――?」
反応がないので振り返ると、ラジェは気絶した船長を見下ろしたまま再び砂魔法の拳を生成していた。周りにあった木片がカタカタと揺れながら砂に変わり、ラジェの足元に一筋の裂け目が生まれ徐々に伸びていった。
あ、これって……以前私が経験した魔力の暴走と同じだと思う。何度かラジェの名前を呼ぶが、聞こえていないようだ。
「どうしよう……」
砂と化した木片だったものに、視線を落とす。このままだと船の一部まで砂に変えられてしまいそうな勢いだ。
(声がけがダメなら、ラジェに直接触れれば……そしたら正気に戻ってくれるはず)
ラジェの全身から溢れ出る魔力に対抗するように、私も魔力を放出させながら纏った。
ラジェに近づけば、ぐいっと押し返される感覚がした。ゆっくりと魔力を掻き分けながら、ラジェの手に軽く触れる。
「ラジェ、もう大丈夫だから。そんなに魔力を出し続けると危ないよ?」
「……え、ミリーちゃん?」
ラジェが首を傾げながら目を合わせる。
よかった。気付いてくれた。
「もう大丈夫だから……」
視線を下げたラジェが、白目を剥いたままの船長を困惑した表情で眺める。
「これは、僕がやったの?」
「そうだけど、覚えていない?」
「覚えていない……」
ラジェの手を強く握り微笑む。
「悪いやつをやっつけてくれてありがとう」
「うん……」
ラジェがうなずきながら手を握り返した。もう、魔力は暴走していない。いつものラジェだ。
助け舟が近くまで来ていることをラジェに伝えようとすれば、鋭いホイッスル音が辺りに響いた。
船の側面からする機械音を確認するために、手すりから身を乗り出すとどこからか船員たちの声が聞こえた。
「魔法口から砲弾が放たれるぞ! 何かにつかまれ!」
あの魔法口なら危ないからと金属魔法の鉄で固めたので使えないはずだ。
二度目の短いホイッスルが鳴った直後、船の側面が大きく爆発し、私は手すりを越えて海に投げ出された。
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