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本編
初対面
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変態騎士もすぐに私に気付いたようで、心から驚いたような表情でこちらを凝視している。だが、ウィルさんと同じで私に話し掛ける暇はないようだ。
店員が商品を全て包んでから、頭を下げる。
「お待たせいたしました。こちらがご購入された商品になります」
「あ、ありがとうございます」
一瞬だけだけど、砂糖を購入していたことを忘れていた。 店員から購入した商品を受け取る。
店員が少し困った顔で話を続ける。
「現在、入り口にあのように騎士が警備をしておりますので……申し訳ございませんが、店内に少々留まっていただくことになってしまいます。もしよろしければ、あちらのソファ席でおもてなしをさせていただきます」
確かにエントランスを見ると騎士たちが屯っている。これは、普通に通れなさそうだ。
爺さんが無表情で答える。
「団体が入ってきた後なら、通ることができるだろう。それまで馳走になろう」
「では、こちらに」
店員に案内されたのは、入り口からは遠いソファ席だ。ふかふかのソファに腰を掛け爺さんに言う。
「王太子の団体と鉢合わせるとは思いませんでしたね」
「お主は子供にしては察しがよすぎるぞ」
そんなこと言われてもウィルさんとレオさんが上司と部下だってことも、レオさんが王太子だってことも爺さんも私も知っているのだから……今さらでしょう。
「王太子の件は、ギルド長にも以前お伝えした通りなので」
「ああ、分かっている。だが、敬意が足りん。王太子殿下と呼べ」
「分かりました」
入り口からどよめきの声が聞こえて来たので、どうやらレオさんが入場してきたようだ。
レオさんを確認しようとしたが、人だかりでよく見えなかったので諦める。
店員が、紅茶とお菓子を目の前に置きながら言う。
「ご迷惑をお掛けしますが、こちらでお楽しみください」
「ありがとうございます」
先ほど購入したお菓子とは違う、ミニスコーンにジャムが付いたものだ。美味しそう。
爺さんが紅茶に口を付けながら尋ねる。
「そもそもお主は、王太子殿下となぜそう頻繁に会う機会があるのか不思議だ?」
「頻繁ではないですよ……三、四回くらいですよ」
「普通の平民は、お目にかかる機会もほとんどない……ましては言葉を交わすことなんて生涯ありえない」
そんなこと言われても、レオさんは頻繁に下町を訪れている。その間にレオさんと会話を交わした平民なんてたくさんいる。全員がレオさんが冒険者だと思って会話を交わしているだろうけど……
「それよりも、本屋はここから近いのですか?」
「王太子殿下の話題をそうあしらうのもお主だけだ」
「そんなこと言われても……そんなに話すことないので」
レオさんは私にとってはたまに会うお兄さんって認識で、王太子だと知る前は親の脛を齧るセレブニートだと思っていた。王太子だと知ってからも、そのざっくばらんな性格もあって特に王族だからと緊張はしたことはない。
爺さんが目線を上げ、ため息をつく。
「本屋は、ここからそう遠くはないが……今日、訪問できるかどうか、それが問題であろう。ほれ、お主がいることが見つかったぞ」
「え?」
爺さんの視線の先を追うと、二階に上がる階段の途中からこちらを見下ろすレオさんがいた。なんであんなに目を輝かせてこっちを見ているのだろうか……
レオさんがウィルさんの静止を避け、団体様を引き連れこちらへやってくる。
(今は王太子なのに普通にこっちにきて大丈夫なの?)
爺さんが立ち上がり腰を曲げたので、私も同じように頭を下げた。
レオさんが、いつもとは違う威厳のある声で話し始める。
「エンリケ! お前もアジュールに来ていたのか、奇遇であるな」
「王太子殿下にご挨拶を申し上げます」
「ああ、久し振りであるな。そんなに畏まる必要はない。顔を上げよ」
レオさんにそう言われ、爺さんが顔を上げた。私も顔を上げると、レオさんが私の顔を見て首を傾げた。たぶん、私が驚くことを期待していたのだろうが……残念だけど、レオさんが王太子なのはとっくの昔に知っていた。
レオさんが、笑顔のまま私を見つめながら尋ねる。
「それで、この小さい令嬢は誰であろうか?」
「私のひ孫のミリアナでございます。ミリアナ、挨拶を」
「ミリアナ・スパークと申します。王太子殿下にご挨拶を申し上げます」
今回は商人の挨拶ではなく、見よう見まねのカーテシーで挨拶をする。
挨拶をしたのにレオさんが声を掛けない。膝を曲げたままでつらい……レオさんのイタズラなのかと目線だけ上げると、驚いた表情で立ち尽くしていた。
(どうしたんだろう?)
店員が商品を全て包んでから、頭を下げる。
「お待たせいたしました。こちらがご購入された商品になります」
「あ、ありがとうございます」
一瞬だけだけど、砂糖を購入していたことを忘れていた。 店員から購入した商品を受け取る。
店員が少し困った顔で話を続ける。
「現在、入り口にあのように騎士が警備をしておりますので……申し訳ございませんが、店内に少々留まっていただくことになってしまいます。もしよろしければ、あちらのソファ席でおもてなしをさせていただきます」
確かにエントランスを見ると騎士たちが屯っている。これは、普通に通れなさそうだ。
爺さんが無表情で答える。
「団体が入ってきた後なら、通ることができるだろう。それまで馳走になろう」
「では、こちらに」
店員に案内されたのは、入り口からは遠いソファ席だ。ふかふかのソファに腰を掛け爺さんに言う。
「王太子の団体と鉢合わせるとは思いませんでしたね」
「お主は子供にしては察しがよすぎるぞ」
そんなこと言われてもウィルさんとレオさんが上司と部下だってことも、レオさんが王太子だってことも爺さんも私も知っているのだから……今さらでしょう。
「王太子の件は、ギルド長にも以前お伝えした通りなので」
「ああ、分かっている。だが、敬意が足りん。王太子殿下と呼べ」
「分かりました」
入り口からどよめきの声が聞こえて来たので、どうやらレオさんが入場してきたようだ。
レオさんを確認しようとしたが、人だかりでよく見えなかったので諦める。
店員が、紅茶とお菓子を目の前に置きながら言う。
「ご迷惑をお掛けしますが、こちらでお楽しみください」
「ありがとうございます」
先ほど購入したお菓子とは違う、ミニスコーンにジャムが付いたものだ。美味しそう。
爺さんが紅茶に口を付けながら尋ねる。
「そもそもお主は、王太子殿下となぜそう頻繁に会う機会があるのか不思議だ?」
「頻繁ではないですよ……三、四回くらいですよ」
「普通の平民は、お目にかかる機会もほとんどない……ましては言葉を交わすことなんて生涯ありえない」
そんなこと言われても、レオさんは頻繁に下町を訪れている。その間にレオさんと会話を交わした平民なんてたくさんいる。全員がレオさんが冒険者だと思って会話を交わしているだろうけど……
「それよりも、本屋はここから近いのですか?」
「王太子殿下の話題をそうあしらうのもお主だけだ」
「そんなこと言われても……そんなに話すことないので」
レオさんは私にとってはたまに会うお兄さんって認識で、王太子だと知る前は親の脛を齧るセレブニートだと思っていた。王太子だと知ってからも、そのざっくばらんな性格もあって特に王族だからと緊張はしたことはない。
爺さんが目線を上げ、ため息をつく。
「本屋は、ここからそう遠くはないが……今日、訪問できるかどうか、それが問題であろう。ほれ、お主がいることが見つかったぞ」
「え?」
爺さんの視線の先を追うと、二階に上がる階段の途中からこちらを見下ろすレオさんがいた。なんであんなに目を輝かせてこっちを見ているのだろうか……
レオさんがウィルさんの静止を避け、団体様を引き連れこちらへやってくる。
(今は王太子なのに普通にこっちにきて大丈夫なの?)
爺さんが立ち上がり腰を曲げたので、私も同じように頭を下げた。
レオさんが、いつもとは違う威厳のある声で話し始める。
「エンリケ! お前もアジュールに来ていたのか、奇遇であるな」
「王太子殿下にご挨拶を申し上げます」
「ああ、久し振りであるな。そんなに畏まる必要はない。顔を上げよ」
レオさんにそう言われ、爺さんが顔を上げた。私も顔を上げると、レオさんが私の顔を見て首を傾げた。たぶん、私が驚くことを期待していたのだろうが……残念だけど、レオさんが王太子なのはとっくの昔に知っていた。
レオさんが、笑顔のまま私を見つめながら尋ねる。
「それで、この小さい令嬢は誰であろうか?」
「私のひ孫のミリアナでございます。ミリアナ、挨拶を」
「ミリアナ・スパークと申します。王太子殿下にご挨拶を申し上げます」
今回は商人の挨拶ではなく、見よう見まねのカーテシーで挨拶をする。
挨拶をしたのにレオさんが声を掛けない。膝を曲げたままでつらい……レオさんのイタズラなのかと目線だけ上げると、驚いた表情で立ち尽くしていた。
(どうしたんだろう?)
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