転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

文字の大きさ
126 / 153
本編

菓子マインド

しおりを挟む
 ウィルさんに軽く声を掛けられたレオさんは、すぐに話を続けた。

「……スパークであるか。魔道具男爵の家系なのか?」
「魔道具男爵の孫娘になります」

 爺さんが勝手に答える。確かにジョーは魔道具男爵の息子だが、私は自分が魔道具男爵の孫だとは思ったことはない。魔導士男爵に直接会ったことすらないのだ。それに、レオさんはウィルさんとか影を使って私の周辺を探っていたのは知っている。今さら初めましてあなたのことを知りました的な演技は白々しい。
細かいことをこの場で言ってもどうしようもない。ここは、爺さんの判断に任せることにする。
 レオさんが何かを閃いた顔で口を開く。

「ところでエンリケ、お前は最後に見た時から年を取らいないな」
「商売人でいるには元気が一番ですので」
「その秘訣、ぜひとも聞きたい。私を楽しませると思ってこの後、少し付き合え。ミリアナ嬢も共にだ」
「……はい。もちろんでございます」

 爺さんが作り笑顔で答える。
 あ、爺さんが言っていた『今日、訪問できるかどうか、それが問題であろう』とはこのことだったのか。むむ。今日、本屋に行きたかったのに……レオさんを見れば、満面の笑みなので確信犯なのだろう。
 再び入り口から何やらどよめきが聞こえる。ウィルさんが耳打ちをすると、レオさんはほんの一瞬だけ憂鬱そうな顔をした。
 人だかりが自然に開くと、真っ黒の巻き毛に金色の瞳の十三、四歳ほどの美少女が現れた。その存在感はまるで黒豹のようだ。
 美少女が嬉しそうにレオさんの元に歩き、清らかな声で言う。

「レオナルド様! こちらにいらしたのですね!」
「オーレリア王女……先ほど領主邸に戻られるとの話でしたが、何か問題がありましたか?」
「やはり、わたくしもアジュールの市井をもっと視察すべきだと気づいたのです!」
「そう……でしたか」

 レオさんがやや塩対応だ。王女と呼ばれているが、その顔立ちは王国のものではない。それに、王国語にややアクセントがある。外国の王族なのかもしれない。オーレリアという名前も王国では聞いたことなかった。
 オーレリア王女が私の存在に気付くと、目を見開きながら尋ねた。

「レオナルド様の血筋の令嬢もアジュールにいらっしゃっているなんて知りませんでしたわ」

 この王女様は一体何を言い出すのだろうか……レオさんの取り巻きもオーレリア王女の取り巻きも静まってしまう。
 王国とオーレリア王女の国の関係性がどのようなものかは知らないけれど、紹介されていない私を勝手に王太子の血筋だと決めつけて公の場で晒すのは……私でも間違いだと分かる。
 自分の失言に気付いたオーレリア王女の表情が曇ると、レオさんがフォローをする。

「この令嬢は、エンリケ・ローズレッタのひ孫のミリアナ・スパーク嬢だ」
「ローズレッタ商会の方ですのね。わたくしの早とちりでございました」

 王族なので、謝罪とかはないようだ。謝罪されても、逆に返す言葉に困るのはこちらだ。許すと上からのような発言もできない、かといってあやふやにもできない。
 爺さんが、紳士の挨拶をする。

「エンリケ・ローズレッタでございます。今はローズレッタ商会とは関係のないしがない爺でございます。オーレリア王女殿下の美しき黒髪の風聞は広く伝わっております。ですが、噂はその美しさを前にすれば足元にも及びません」
「そのように……ローズレッタ殿はお上手ですこと」

 口から流暢に発される、爺さんのリップサービスが凄いを通り越して怖い。しがない爺って何? まだまだ君臨している爺だと思うのだけど。爺さんをジト目で見るが、意図的に私から視線を逸らした。
以前、爺さんが貴族の女性と話している時も思ったが……とにかくお世辞が上手い。今は、まるで詐欺師のようによく口が回る。
 オーレリア王女も嫌な気はしていないようで、表情が綻んでいる。
 レオさんが、笑顔で言う。

「オーレリア王女、せっかくだ。アズール商会の商品を吟味されるといい」
「そうですわね。では、ミリアナ・スパーク嬢にぜひお買い物のお相手をしていただきたいですわ」
「へ? 私が……でしょうか?」
「そう、あなたよ」

 オーレリア王女が私の近くまで詰め寄る。その時、フワっといい香りがする。

(あれ、この匂いは……)

 急いでレオさんが私の前に出る。

「オーレリア王女、ミリアナ嬢はまだ幼い子供だ。買い物のお相手ならレベッカ嬢がいるであろう」
 オーレリア王女の取り巻きの若い女性の一人に視線が向かう。あ、この人知っている人だ。祭りの時に会った、ロイさんの知り合いのレベッカさんだ。この地方のデゥルレ男爵の娘だったはず。
 爺さんを見上げると、すでにレベッカさんには気付いていたようだ。
 オーレリア王女が、レオさんの提案に残念そうに表情を翳らせる。

「わたくし、ミリアナ嬢と同じ年の妹が懐かしくなっただけでしたの。そうだわ! ミリアナ嬢は、お菓子は好きかしら?」
「はい、とても大好きです!」
「わたくしの妹もお菓子が好きなのですよ。リュヤ、ミリアナ嬢にあれを渡して差し上げて」
「よろしいのですか?」
「ええ。わたくしの早とちりのせいで困らせたでしょう?」
「かしこまりました」

 リュヤと呼ばれたオーレリア王女の侍女から銀の包み紙を受けとる。ああ! これ、チョコレートだ! 絶対にそうだ。さっきオーレリア王女から香ったのは、やっぱりチョコレートの匂いだったんだ。
 お礼のカーテシーをしながら礼を言う。

「王女殿下のお心遣いに感謝いたします」
「またお会いできれば嬉しいわ」

 手に乗ったチョコレートを見つめながら思う、この手がかりを逃がしてはならないと……

「私、王女殿下とお買い物がしたいです!」

 オーレリア王女が、この場を去ろうとするのに焦り、考えなしに思っていることを口にしてしまう。私のチョコレートへの切符なのだ。この話にはしがみつくのみだ。

しおりを挟む
感想 457

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。