転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

文字の大きさ
127 / 158
本編

菓子マインド

 ウィルさんに軽く声を掛けられたレオさんは、すぐに話を続けた。

「……スパークであるか。魔道具男爵の家系なのか?」
「魔道具男爵の孫娘になります」

 爺さんが勝手に答える。確かにジョーは魔道具男爵の息子だが、私は自分が魔道具男爵の孫だとは思ったことはない。魔導士男爵に直接会ったことすらないのだ。それに、レオさんはウィルさんとか影を使って私の周辺を探っていたのは知っている。今さら初めましてあなたのことを知りました的な演技は白々しい。
細かいことをこの場で言ってもどうしようもない。ここは、爺さんの判断に任せることにする。
 レオさんが何かを閃いた顔で口を開く。

「ところでエンリケ、お前は最後に見た時から年を取らいないな」
「商売人でいるには元気が一番ですので」
「その秘訣、ぜひとも聞きたい。私を楽しませると思ってこの後、少し付き合え。ミリアナ嬢も共にだ」
「……はい。もちろんでございます」

 爺さんが作り笑顔で答える。
 あ、爺さんが言っていた『今日、訪問できるかどうか、それが問題であろう』とはこのことだったのか。むむ。今日、本屋に行きたかったのに……レオさんを見れば、満面の笑みなので確信犯なのだろう。
 再び入り口から何やらどよめきが聞こえる。ウィルさんが耳打ちをすると、レオさんはほんの一瞬だけ憂鬱そうな顔をした。
 人だかりが自然に開くと、真っ黒の巻き毛に金色の瞳の十三、四歳ほどの美少女が現れた。その存在感はまるで黒豹のようだ。
 美少女が嬉しそうにレオさんの元に歩き、清らかな声で言う。

「レオナルド様! こちらにいらしたのですね!」
「オーレリア王女……先ほど領主邸に戻られるとの話でしたが、何か問題がありましたか?」
「やはり、わたくしもアジュールの市井をもっと視察すべきだと気づいたのです!」
「そう……でしたか」

 レオさんがやや塩対応だ。王女と呼ばれているが、その顔立ちは王国のものではない。それに、王国語にややアクセントがある。外国の王族なのかもしれない。オーレリアという名前も王国では聞いたことなかった。
 オーレリア王女が私の存在に気付くと、目を見開きながら尋ねた。

「レオナルド様の血筋の令嬢もアジュールにいらっしゃっているなんて知りませんでしたわ」

 この王女様は一体何を言い出すのだろうか……レオさんの取り巻きもオーレリア王女の取り巻きも静まってしまう。
 王国とオーレリア王女の国の関係性がどのようなものかは知らないけれど、紹介されていない私を勝手に王太子の血筋だと決めつけて公の場で晒すのは……私でも間違いだと分かる。
 自分の失言に気付いたオーレリア王女の表情が曇ると、レオさんがフォローをする。

「この令嬢は、エンリケ・ローズレッタのひ孫のミリアナ・スパーク嬢だ」
「ローズレッタ商会の方ですのね。わたくしの早とちりでございました」

 王族なので、謝罪とかはないようだ。謝罪されても、逆に返す言葉に困るのはこちらだ。許すと上からのような発言もできない、かといってあやふやにもできない。
 爺さんが、紳士の挨拶をする。

「エンリケ・ローズレッタでございます。今はローズレッタ商会とは関係のないしがない爺でございます。オーレリア王女殿下の美しき黒髪の風聞は広く伝わっております。ですが、噂はその美しさを前にすれば足元にも及びません」
「そのように……ローズレッタ殿はお上手ですこと」

 口から流暢に発される、爺さんのリップサービスが凄いを通り越して怖い。しがない爺って何? まだまだ君臨している爺だと思うのだけど。爺さんをジト目で見るが、意図的に私から視線を逸らした。
以前、爺さんが貴族の女性と話している時も思ったが……とにかくお世辞が上手い。今は、まるで詐欺師のようによく口が回る。
 オーレリア王女も嫌な気はしていないようで、表情が綻んでいる。
 レオさんが、笑顔で言う。

「オーレリア王女、せっかくだ。アズール商会の商品を吟味されるといい」
「そうですわね。では、ミリアナ・スパーク嬢にぜひお買い物のお相手をしていただきたいですわ」
「へ? 私が……でしょうか?」
「そう、あなたよ」

 オーレリア王女が私の近くまで詰め寄る。その時、フワっといい香りがする。

(あれ、この匂いは……)

 急いでレオさんが私の前に出る。

「オーレリア王女、ミリアナ嬢はまだ幼い子供だ。買い物のお相手ならレベッカ嬢がいるであろう」
 オーレリア王女の取り巻きの若い女性の一人に視線が向かう。あ、この人知っている人だ。祭りの時に会った、ロイさんの知り合いのレベッカさんだ。この地方のデゥルレ男爵の娘だったはず。
 爺さんを見上げると、すでにレベッカさんには気付いていたようだ。
 オーレリア王女が、レオさんの提案に残念そうに表情を翳らせる。

「わたくし、ミリアナ嬢と同じ年の妹が懐かしくなっただけでしたの。そうだわ! ミリアナ嬢は、お菓子は好きかしら?」
「はい、とても大好きです!」
「わたくしの妹もお菓子が好きなのですよ。リュヤ、ミリアナ嬢にあれを渡して差し上げて」
「よろしいのですか?」
「ええ。わたくしの早とちりのせいで困らせたでしょう?」
「かしこまりました」

 リュヤと呼ばれたオーレリア王女の侍女から銀の包み紙を受けとる。ああ! これ、チョコレートだ! 絶対にそうだ。さっきオーレリア王女から香ったのは、やっぱりチョコレートの匂いだったんだ。
 お礼のカーテシーをしながら礼を言う。

「王女殿下のお心遣いに感謝いたします」
「またお会いできれば嬉しいわ」

 手に乗ったチョコレートを見つめながら思う、この手がかりを逃がしてはならないと……

「私、王女殿下とお買い物がしたいです!」

 オーレリア王女が、この場を去ろうとするのに焦り、考えなしに思っていることを口にしてしまう。私のチョコレートへの切符なのだ。この話にはしがみつくのみだ。

感想 501

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄された冷遇令嬢は、辺境の台所で幸せを煮込む〜無自覚な精霊の愛し子は極上スープで氷の旦那様を溶かし、激甘に溺愛される〜

黒崎隼人
恋愛
家族から冷遇され、唯一の自己表現である料理を心の拠り所として生きてきた侯爵令嬢ヴィオラ。 彼女はある日、王太子である婚約者から無実の罪を着せられ、婚約破棄と同時に極寒の北方辺境へと追放されてしまう。 嫁ぎ先は、妻を亡くして心を閉ざした「氷の辺境伯」レオンハルト。 愛のない政略結婚、厳しい自然環境。 しかしヴィオラは絶望することなく、持ち込んだ小さな包丁を手に辺境の台所に立つ。 彼女が無自覚に作る温かなスープは、精霊たちを惹きつける「大愛し子」としての奇跡の力が宿っていた。 その極上の味わいは、心を閉ざしていた幼い義娘エルナの笑顔を取り戻し、不器用で無愛想なレオンハルトの凍てついた心を静かに溶かしていく。 一方、ヴィオラの真実に気づき激しく後悔する王太子や、彼女の力を狙う王都の権力者たちが動き出す。 しかし、辺境の大地と精霊たち、そして何より彼女を愛する家族が、ヴィオラを手放すはずがなかった。 「あなたが辺境に来てから、私の止まっていた時間は動き出した」 これは、すべてを諦めていた少女が、辺境の台所から温かな居場所と真実の愛を手に入れるまでの、美味しくて心温まる奇跡の物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。