転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

菓子マインド

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 ウィルさんに軽く声を掛けられたレオさんは、すぐに話を続けた。

「……スパークであるか。魔道具男爵の家系なのか?」
「魔道具男爵の孫娘になります」

 爺さんが勝手に答える。確かにジョーは魔道具男爵の息子だが、私は自分が魔道具男爵の孫だとは思ったことはない。魔導士男爵に直接会ったことすらないのだ。それに、レオさんはウィルさんとか影を使って私の周辺を探っていたのは知っている。今さら初めましてあなたのことを知りました的な演技は白々しい。
細かいことをこの場で言ってもどうしようもない。ここは、爺さんの判断に任せることにする。
 レオさんが何かを閃いた顔で口を開く。

「ところでエンリケ、お前は最後に見た時から年を取らいないな」
「商売人でいるには元気が一番ですので」
「その秘訣、ぜひとも聞きたい。私を楽しませると思ってこの後、少し付き合え。ミリアナ嬢も共にだ」
「……はい。もちろんでございます」

 爺さんが作り笑顔で答える。
 あ、爺さんが言っていた『今日、訪問できるかどうか、それが問題であろう』とはこのことだったのか。むむ。今日、本屋に行きたかったのに……レオさんを見れば、満面の笑みなので確信犯なのだろう。
 再び入り口から何やらどよめきが聞こえる。ウィルさんが耳打ちをすると、レオさんはほんの一瞬だけ憂鬱そうな顔をした。
 人だかりが自然に開くと、真っ黒の巻き毛に金色の瞳の十三、四歳ほどの美少女が現れた。その存在感はまるで黒豹のようだ。
 美少女が嬉しそうにレオさんの元に歩き、清らかな声で言う。

「レオナルド様! こちらにいらしたのですね!」
「オーレリア王女……先ほど領主邸に戻られるとの話でしたが、何か問題がありましたか?」
「やはり、わたくしもアジュールの市井をもっと視察すべきだと気づいたのです!」
「そう……でしたか」

 レオさんがやや塩対応だ。王女と呼ばれているが、その顔立ちは王国のものではない。それに、王国語にややアクセントがある。外国の王族なのかもしれない。オーレリアという名前も王国では聞いたことなかった。
 オーレリア王女が私の存在に気付くと、目を見開きながら尋ねた。

「レオナルド様の血筋の令嬢もアジュールにいらっしゃっているなんて知りませんでしたわ」

 この王女様は一体何を言い出すのだろうか……レオさんの取り巻きもオーレリア王女の取り巻きも静まってしまう。
 王国とオーレリア王女の国の関係性がどのようなものかは知らないけれど、紹介されていない私を勝手に王太子の血筋だと決めつけて公の場で晒すのは……私でも間違いだと分かる。
 自分の失言に気付いたオーレリア王女の表情が曇ると、レオさんがフォローをする。

「この令嬢は、エンリケ・ローズレッタのひ孫のミリアナ・スパーク嬢だ」
「ローズレッタ商会の方ですのね。わたくしの早とちりでございました」

 王族なので、謝罪とかはないようだ。謝罪されても、逆に返す言葉に困るのはこちらだ。許すと上からのような発言もできない、かといってあやふやにもできない。
 爺さんが、紳士の挨拶をする。

「エンリケ・ローズレッタでございます。今はローズレッタ商会とは関係のないしがない爺でございます。オーレリア王女殿下の美しき黒髪の風聞は広く伝わっております。ですが、噂はその美しさを前にすれば足元にも及びません」
「そのように……ローズレッタ殿はお上手ですこと」

 口から流暢に発される、爺さんのリップサービスが凄いを通り越して怖い。しがない爺って何? まだまだ君臨している爺だと思うのだけど。爺さんをジト目で見るが、意図的に私から視線を逸らした。
以前、爺さんが貴族の女性と話している時も思ったが……とにかくお世辞が上手い。今は、まるで詐欺師のようによく口が回る。
 オーレリア王女も嫌な気はしていないようで、表情が綻んでいる。
 レオさんが、笑顔で言う。

「オーレリア王女、せっかくだ。アズール商会の商品を吟味されるといい」
「そうですわね。では、ミリアナ・スパーク嬢にぜひお買い物のお相手をしていただきたいですわ」
「へ? 私が……でしょうか?」
「そう、あなたよ」

 オーレリア王女が私の近くまで詰め寄る。その時、フワっといい香りがする。

(あれ、この匂いは……)

 急いでレオさんが私の前に出る。

「オーレリア王女、ミリアナ嬢はまだ幼い子供だ。買い物のお相手ならレベッカ嬢がいるであろう」
 オーレリア王女の取り巻きの若い女性の一人に視線が向かう。あ、この人知っている人だ。祭りの時に会った、ロイさんの知り合いのレベッカさんだ。この地方のデゥルレ男爵の娘だったはず。
 爺さんを見上げると、すでにレベッカさんには気付いていたようだ。
 オーレリア王女が、レオさんの提案に残念そうに表情を翳らせる。

「わたくし、ミリアナ嬢と同じ年の妹が懐かしくなっただけでしたの。そうだわ! ミリアナ嬢は、お菓子は好きかしら?」
「はい、とても大好きです!」
「わたくしの妹もお菓子が好きなのですよ。リュヤ、ミリアナ嬢にあれを渡して差し上げて」
「よろしいのですか?」
「ええ。わたくしの早とちりのせいで困らせたでしょう?」
「かしこまりました」

 リュヤと呼ばれたオーレリア王女の侍女から銀の包み紙を受けとる。ああ! これ、チョコレートだ! 絶対にそうだ。さっきオーレリア王女から香ったのは、やっぱりチョコレートの匂いだったんだ。
 お礼のカーテシーをしながら礼を言う。

「王女殿下のお心遣いに感謝いたします」
「またお会いできれば嬉しいわ」

 手に乗ったチョコレートを見つめながら思う、この手がかりを逃がしてはならないと……

「私、王女殿下とお買い物がしたいです!」

 オーレリア王女が、この場を去ろうとするのに焦り、考えなしに思っていることを口にしてしまう。私のチョコレートへの切符なのだ。この話にはしがみつくのみだ。

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