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第4話 薬師令嬢、看病される
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「ふふふ……完成! これで128本目!」
深夜の研究室で、私は完成した番の薬を掲げた。王宮からの大量発注を受けてからはや二週間。寝る間も惜しんで薬を作り続けている。
「さて、次は魔法強化薬300本と……あと媚薬が50本……ね」
カタカタと調合を続ける。楽しい。薬作りは本当に楽しい。でも、なんだか視界がぼやけてきた。
「あれ……?」
立ち上がろうとして、よろめく。
「ん、疲れてるのかな……でも、まだ仕事が……」
ガシャン!
ビーカーを落としてしまった。
「あ……」
拾おうとして、そのまま倒れ込む。意識が遠のく中、扉が開く音がした。
「ミーニェ、まだ起きて——……ミーニェ!?」
遠くなる意識の中、シュレツの声が聞こえた。
「……ん」
目を開けると、見慣れない天井があった。いや、知らない場所というわけじゃない。自分の寝室だ。最近全然帰ってなかったけど。
「気がついたか」
ベッドの横に、シュレツが座っていた。すごく怖い顔をしている。
「あ、えっと……おはよう?」
「おはようじゃない」
低い声。ああ、これは本気で怒ってる。
「三日も寝ていたんだぞ」
「み、三日!? 納期っ!」
起き上がろうとしたら、押さえつけられた。
「動くな。医者が、あと二日は安静にしろと」
「で、でも、薬の納期が——」
「キャンセルした」
「ええええ!?」
「当たり前だ。君の健康より大切なものなどない」
真剣な表情で言われて、言葉に詰まる。
「ミーニェ、なぜ無理をした」
「だって……楽しくてつい……」
「自分の体を壊してまでか?」
シュレツがため息をついた。
「君らしいといえばそうだが……限度がある」
「ごめんなさい……」
しゅんとしていると、少し雰囲気が優しくなり、頭を撫でられた。
「もういいから、とにかく、今は休め」
「うん……」
「それと」
シュレツがベッドの向こうから何かを持ってきた。
「これを見てくれ」
渡されたのは、たくさんの手紙だった。
「これは?」
「騎士団の奴らからだ」
「え?」
手紙を読んで、驚いた。
『ミーニェ様のおかげで、古傷の痛みが消えました』
『妻の病気が、いただいた薬で良くなりました』
『子供の熱が下がりました。本当にありがとうございます』
似たような内容の手紙が、何十通もある。
「これ……」
「君は、番の薬や国から依頼された薬、他にもなにやら色々怪しい薬を作っていたね。けれど、その合間に、騎士団の彼らに、普通の薬師として……治療薬も作っていたんだな」
「あ、うん。ついでだったから」
「ついで?」
「だって、材料が余ったらもったいないでしょ? それに、みんな怪我とか病気とか、色々大変そうだったから」
当たり前のように言うと、シュレツが複雑な表情をした。
「君は、そうやって皆の分まで薬を作って、それで倒れたのか……」
「え、でも、困ってる人がいたら助けてあげたいし——」
「気持ちはわかる。けれど……」
ベッドにそっと手がのった。顔が近い。
「もっと自分の体を大事にして欲しい」
「でも……」
「でもじゃない」
シュレツが私の手を握った。
「君がいなくなったら、俺はどうすればいい」
「シュレツ……」
「倒れている君を見た時、本当に怖かったんだ」
真剣な瞳に見つめられて、胸が痛くなった。そうだ。私は、もう一人じゃない。こんなに大事にしてくれる人がいる。
「……ごめんなさい」
「分かればいい」
優しく抱きしめられた。
「それに、騎士団のやつらも心配していた。ほら、ベッド横……見舞いの品の山だ」
本当に、花やら果物やら、お菓子やらが山のように積まれている。
「み、みんな……違うの……私はただ、薬を作るのが好きで……」
「みんな心配していた。もう無理はするな」
「うん……気をつける」
「本当か?」
「本当よ! ……たぶん」
「たぶん?」
「だって、研究って楽しいから、つい……」
呆れたようなため息。
「仕方ない。これからは、俺がもっと管理する」
「え?」
「研究は一日8時間まで。休憩は2時間おき。食事は必ず俺と一緒に」
「そ、それは管理しすぎでしょ!」
「これでも甘い方だ」
真顔で言われて、ぐうの音も出ない。でも、心配してくれているのは分かる。
「シュレツ」
「なんだ?」
「ありがとう。心配してくれて」
「当たり前だ」
額にキスをされた。
「君は、大切な人だから」
顔が熱くなる。もう、すぐこうなんだから。
でも、幸せだった。ちゃんと居場所がある。必要としてくれる人たちがいる。何より——愛してくれる人がいる。
「あ、そうだ」
「ん?」
「病み上がり用の栄養剤作ろうかな! みんなの分も!」
「ミーニェ!」
「じょ、冗談よ! ちゃんと休んでから!」
私はシュレツの呆れ顔を見ながらくすくす笑った。
深夜の研究室で、私は完成した番の薬を掲げた。王宮からの大量発注を受けてからはや二週間。寝る間も惜しんで薬を作り続けている。
「さて、次は魔法強化薬300本と……あと媚薬が50本……ね」
カタカタと調合を続ける。楽しい。薬作りは本当に楽しい。でも、なんだか視界がぼやけてきた。
「あれ……?」
立ち上がろうとして、よろめく。
「ん、疲れてるのかな……でも、まだ仕事が……」
ガシャン!
ビーカーを落としてしまった。
「あ……」
拾おうとして、そのまま倒れ込む。意識が遠のく中、扉が開く音がした。
「ミーニェ、まだ起きて——……ミーニェ!?」
遠くなる意識の中、シュレツの声が聞こえた。
「……ん」
目を開けると、見慣れない天井があった。いや、知らない場所というわけじゃない。自分の寝室だ。最近全然帰ってなかったけど。
「気がついたか」
ベッドの横に、シュレツが座っていた。すごく怖い顔をしている。
「あ、えっと……おはよう?」
「おはようじゃない」
低い声。ああ、これは本気で怒ってる。
「三日も寝ていたんだぞ」
「み、三日!? 納期っ!」
起き上がろうとしたら、押さえつけられた。
「動くな。医者が、あと二日は安静にしろと」
「で、でも、薬の納期が——」
「キャンセルした」
「ええええ!?」
「当たり前だ。君の健康より大切なものなどない」
真剣な表情で言われて、言葉に詰まる。
「ミーニェ、なぜ無理をした」
「だって……楽しくてつい……」
「自分の体を壊してまでか?」
シュレツがため息をついた。
「君らしいといえばそうだが……限度がある」
「ごめんなさい……」
しゅんとしていると、少し雰囲気が優しくなり、頭を撫でられた。
「もういいから、とにかく、今は休め」
「うん……」
「それと」
シュレツがベッドの向こうから何かを持ってきた。
「これを見てくれ」
渡されたのは、たくさんの手紙だった。
「これは?」
「騎士団の奴らからだ」
「え?」
手紙を読んで、驚いた。
『ミーニェ様のおかげで、古傷の痛みが消えました』
『妻の病気が、いただいた薬で良くなりました』
『子供の熱が下がりました。本当にありがとうございます』
似たような内容の手紙が、何十通もある。
「これ……」
「君は、番の薬や国から依頼された薬、他にもなにやら色々怪しい薬を作っていたね。けれど、その合間に、騎士団の彼らに、普通の薬師として……治療薬も作っていたんだな」
「あ、うん。ついでだったから」
「ついで?」
「だって、材料が余ったらもったいないでしょ? それに、みんな怪我とか病気とか、色々大変そうだったから」
当たり前のように言うと、シュレツが複雑な表情をした。
「君は、そうやって皆の分まで薬を作って、それで倒れたのか……」
「え、でも、困ってる人がいたら助けてあげたいし——」
「気持ちはわかる。けれど……」
ベッドにそっと手がのった。顔が近い。
「もっと自分の体を大事にして欲しい」
「でも……」
「でもじゃない」
シュレツが私の手を握った。
「君がいなくなったら、俺はどうすればいい」
「シュレツ……」
「倒れている君を見た時、本当に怖かったんだ」
真剣な瞳に見つめられて、胸が痛くなった。そうだ。私は、もう一人じゃない。こんなに大事にしてくれる人がいる。
「……ごめんなさい」
「分かればいい」
優しく抱きしめられた。
「それに、騎士団のやつらも心配していた。ほら、ベッド横……見舞いの品の山だ」
本当に、花やら果物やら、お菓子やらが山のように積まれている。
「み、みんな……違うの……私はただ、薬を作るのが好きで……」
「みんな心配していた。もう無理はするな」
「うん……気をつける」
「本当か?」
「本当よ! ……たぶん」
「たぶん?」
「だって、研究って楽しいから、つい……」
呆れたようなため息。
「仕方ない。これからは、俺がもっと管理する」
「え?」
「研究は一日8時間まで。休憩は2時間おき。食事は必ず俺と一緒に」
「そ、それは管理しすぎでしょ!」
「これでも甘い方だ」
真顔で言われて、ぐうの音も出ない。でも、心配してくれているのは分かる。
「シュレツ」
「なんだ?」
「ありがとう。心配してくれて」
「当たり前だ」
額にキスをされた。
「君は、大切な人だから」
顔が熱くなる。もう、すぐこうなんだから。
でも、幸せだった。ちゃんと居場所がある。必要としてくれる人たちがいる。何より——愛してくれる人がいる。
「あ、そうだ」
「ん?」
「病み上がり用の栄養剤作ろうかな! みんなの分も!」
「ミーニェ!」
「じょ、冗談よ! ちゃんと休んでから!」
私はシュレツの呆れ顔を見ながらくすくす笑った。
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