死の惑星に安らぎを

京衛武百十

文字の大きさ
55 / 120

しおりを挟む
即死だった。優に二十メートルはある高さから飛び降りては、生身の人間などひとたまりもなかった。

緊急事態にタリアP55SIは瞬間的に緊急対応モードに切り替わり、アンナを助けるべく最大稼動したにも拘らず、僅か数ミリの差で届かなかった。

タリアP55SIは一階フロアに難なく着地したものの、アンナは頭から叩きつけられ、無残な姿となったのだ。

「なんで…? どうして…?」

血まみれで横たわるアンナの姿を見下ろしながら、そう呟く。

メイトギアには、人間の心理を察知する機能が与えられている。なのに、この時のアンナの表情からはこの結果が読み取れなかった。

あれほど落ち着いていて、人間としての心も回復の傾向を見せていた少女がどうして突然こんな行動に出たのか、タリアP55SIにはどうしても理解できなかった。

だが、それは、心が戻ってきたが故のものかもしれない。<心>を持たないメイトギアにはどうしても理解できない機微が、そうさせたのかもしれなかった。

アンナは、心が戻ってきたが故に耐えられなかったのではないだろうか。目の前の現実に。

自分以外の全ての人間が怪物と化し、母が父に襲いかかって腕の肉を喰いちぎり、必死の思いで事務所に逃げ込み辛うじて命を繋いだ。それからは何体かのロボットも一緒だったが実際には怪物だらけの世界で父親と二人だけの生活が始まり、その父もある日を境に突然いなくなってしまった。その孤独と恐怖の中で少女は固く心を閉ざし獣のように振る舞うことでようやくバランスを取っていたのだと推測される。

しかしタリアP55SIが来て自分を大切にしてくれて精神的に安定してくるほどに現実が思い出されてしまい、そこには絶望しかないことを思い知らされてしまったのかもしれない。だから少女は、父や母がいるであろう場所に行こうとしたのだと思われた。

人間が言う<天国>、もしくは<あの世>とやらに……

その一瞬、アンナは幸せだったのだろうか。だからこそ、タリアP55SIには彼女の心理が読み取れなかったのか……



それでもタリアP55SIは、自身の日常を繰り返そうとした。アンナがいなくなったことで表情を作る必要がなくなり冷たい目をするようになっていたが、モール内に残っていたCLS患者の処置を淡々とこなして、乱れた店内を整え、掃除をし、商品を展示しなおし、あたかも今でも営業中であるかのように綺麗にしていった。

その途中、薬局の近くで白骨化した男性の遺体を発見し、それを、モールに隣接する公園の芝生に穴を掘って埋葬した。アンナを埋葬したその隣に。薬局に薬を取りに行ったまま帰らなかったアンナの父親だと推測したからである。アンナの墓を挟んで反対側にも一つ、墓が築かれていた。父親の日記にあったサオリと思しき女性の墓だった。

もっとも、その墓に埋まっているのは、サオリと思われる女性が身に付けていたであろう衣服だけなのだが。

リヴィアターネに投棄されてから既に一年近く経ち、タリアP55SIは気付いていた。活動を停止したCLS患者の体は、腐敗とは違う形で崩壊し、やがて骨さえ残さず塵になってしまうということを。だから、アンナの父親の日記の記述に符合する位置に、まるで誰かが着ていた通りのままに放置されたかのように残されたワンピースがサオリのものであると推測し、それを埋葬したのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

処理中です...