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三章
二、首はなぜ飛ぶのか
しおりを挟む離れていた期間はそれほど長くもないが、色々あったからかなんだかすごく久しぶりな気もする。
楊甜は建業の活気ある街並みにまた目を輝かせ、そのまま諸葛恪の屋敷での荷解きの作業に移った。
姉の楊燕と再会したのはその色々な雑務が終わってからであり、体中が疲労で悲鳴を上げている感覚がする。
「ただいまぁ、姉さぁん」
「おかえり、無事で帰ってくれて何よりだわ」
「あれ、姉さん、なんかちょっとまた大きくなった?」
再開した楊燕はまた一段とふっくらとしており、図星かのように楊燕もギギギとぎこちなく視線を逸らした。
というか楊燕だけではない。この屋敷で働く女性の多くが一段とふっくらとしているような、そんな気がする。
「あのねぇ、実はあなた達が宿舎を離れてすぐ、旦那様の御母堂がここによくいらしてね」
「ご主人様の?」
「凄く小さくてお若そうな方だったから、最初はどこかの子供が紛れ込んだのかと思ったわよ。それでね、御母堂がここへ来る度に沢山のお土産を持っていらして」
市場でたくさんの食べ物を買ってお土産に持ってくるものだから、保存できない様な食料は皆で食べるしかなかったらしい。
するとその食べっぷりに喜んでしまった諸葛恪の母はまたまた山盛りのお土産を持ってきて、の繰り返し。
しかも善意で持ってきてくれているものだし、それに相手は主人の母である。誰も断ることが出来なかったという。
「まぁ、でもお陰で家人の方々と変な絆みたいなのが生まれて、仲良く話せる人も増えて来たわ。大変だったけどね」
「ちょっと楽しそうかも。そうかぁ、友達かぁ」
「どうしたの?」
そういえば自分には友達という友達がいないことに気づいた楊甜。集落を呉の兵に襲われて以来、ずっと隠れて生きてきたのだ。
確かに諸葛恪の従者として人と接することも増えたし、同じように働く者も多いが、特に仲良くはない。
というより諸葛恪が頻繁に解雇したりするので人の入れ替わりも激しく、ついていくので本当に皆が精いっぱいだった。
でも。楊甜の脳裏に一人だけ、自分を「友」と呼んでくれた人を思い出す。
思い出すけどなんだかすごく下心を感じて、ちょっとだけ背筋が冷たくなった。
「友達って、何なんだろうね。よくわかんないや…」
「仕事だものね。難しいのは分かるわ、甜はよく頑張ってるわよ」
「うぅ、姉さぁん」
「でもこれだけは覚えておいて。私達は他の人達と違う、落頭民。異なる者同士が混ざり合うのは、とっても難しいことなの」
「ご主人様がすんごく変な人だったから、僕たちはここに居られるってことなんだろうね」
「──おい馬鹿、入るぞ」
「ひぃごめんなさい違うんですそういう意味じゃなくて殺さないでっ!!」
「何やってんだお前」
諸葛恪が楊甜の部屋に突然押し入ると、 そこには腰を抜かしてひっくり返った楊甜と刺繍仕事途中の楊燕が居た。
ひっくりかえった拍子に楊甜の首が取れており、前にもこの間抜けな光景を見たことがあるなと諸葛恪は眉を顰める。
「どどど、どうなされたんですか?また荷物まとめないといけないとか?」
「そんなに頻繁にあちこち行くわけないだろ」
(行ってたんだよなぁ…)
「ちょっとした好奇心で気になってな。なんでお前は落頭民なのに頭を飛ばせないのか。楊燕、お前は飛ばせるんだろ?」
「え、あ、はい」
「少し見せてくれ」
ギョッとした顔を見せる楊燕。それもそのはず、今まで落頭民であることをひた隠しに生きてきたのだ。
自分の異形の姿を、人に易々と見せたくはない。それは「裸を見せろ」と言われる以上に躊躇う話であった。
とはいえ愛弟の主人であり、無二の恩人。それにその愛弟が頭を飛ばせないことは楊燕としても不思議なことだった。
「他ならない旦那様だからお見せするのです。どうか、人前で甜に同じことをお命じするようなことは」
「お前達の身の上のことは分かってる」
楊燕はギュッと目を瞑ると、顔が赤くなるほど何やら力みだす。
すると二枚貝のように、器用に耳がパタパタと開閉し始めたとおもうと、次の瞬間、楊燕の首がふわりと浮いて自在に部屋を飛び回り始めたのだ。
これには感心するように諸葛恪も"ほぅ"と呟き、飛び回る楊燕の首をまじまじと見続ける。
「その状態で喋ることも出来るのか?」
「あ、はい。飛ぶ瞬間は集中してるので難しいですけど」
「その状態で水を飲んだり、ものを食べたりも出来るのか」
「はい、問題ありません」
「ますます不思議だ。ちなみに飛ぶときの感覚というのはどういうものだ?」
「感覚、といってもこればかりは歩いたり走ったりできるように、出来るから出来るという感じのものでして」
「ふむ…」
すると不意に諸葛恪は立ち上がって、楊燕の頭と胴の間の"何もない空間"に素早く手を伸ばした。
楊燕はこれに「ひぃっ」と驚いた声を出し、頭と体、併せて部屋の隅まで後ずさる。
「どうした?」
「どどど、どうしたって、そんなこと急にされたら怖いでしょ!」
「首と胴は離れて、間には何もないのにか?」
「それはそうですけど、あんまり気分が良いものじゃないです!私達は首と胴の繋目を塞がれると死んじゃうんですから!」
「そういうものか」
また一人で思案に耽る諸葛恪。
楊燕は首を元に戻し、楊甜を諸葛恪から守るように胸元に抱き寄せていた。
「うん、なんとなく落頭民がどういうものなのか分かった」
「…それは良かったです」
「あ、それと楊甜。お前に後で正装の着物を渡す。明日までに髪も整えて、沐浴もしておけ」
「分かりました。ちなみに、何をするんです?」
「陛下から参内の勅命が俺に下った。あとどうやらお前をついでに見てみたいらしい」
「ふぇ!?!?」
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