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第32話 学院対抗戦、出られないかもしれない
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紋章の模写から32日が経った今日。俺は聖騎士の秀英紋を丁型使徒の紋章へと彫り変えていた。
ここ約1か月の俺のルーティーンは、「朝破壊天使の紋章のうち1コマを彫り、昼に1人の聖騎士の紋章を改変し、夕方から夜にかけて朝彫った紋章を消す」というものだ。
今は、そのルーティーンを淡々とこなしているに過ぎない。
顧客が聖騎士に限られているのには理由がある。
俺が魔界にいる間にサフシヨ様が関白の強権を発動し、「紋章の彫り直しが許されるのは聖騎士及びフワジーラ学院内の特殊初心者のみ」という法を制定していたのだ。
俺は特にその件について文句は無かった。
というのも、元々前世にいた時でさえ顧客はほぼ極道関係者のみ、と限られていたのだ。
顧客の職種が限定されようと、仕事さえあればそれで十分。それが俺の感覚だ。
そもそも彫り師は肉体労働だ。マーケティング限界に比べ、ビジネスモデル限界がはるかに小さい。
その時点で、潜在顧客の減少に文句を言う筋合いは無いというものだ。
むしろこの法案はメリットも大きい。
顧客が限定された事で、一足先に使徒の紋章を得たサフシヨ様が新たに使徒の紋章を得た者の稽古をつけてくれるようになったのだ。
模擬戦を業務内容から外せた事で、却って刺青の仕事に専念できるようになったと言っても過言では無い。
俺はワーク・ライフ・バランスを重視する男。
職務と恋活(破壊天使の紋章を彫ること)の両立。俺なりに、うまくやってこれたと思う。
ただ……
「やはり、これではダメか」
紋章を彫り終わった聖騎士を帰し、32枚の模写のうち最後の1枚の紋章が彫られた左手を見ながら俺はそう呟いた。
結局、破壊天使の紋章のコマ撮りを32枚彫ったところで自身の魔力に何の変化も無かった。
魔神としての力は健在で弱体化こそしていないものの、それだけだ。
……次のアイデアを練らなければな。
そう気持ちを切り替えようとした矢先。
「淳、ちょっと時間いい?」
サフシヨ様が「彫り右衛門」へと駆けつけてきた。
☆ ☆ ☆
「学院対抗戦?」
……聞いてねーぞそんなもん。
カリキュラム説明は、一応ちゃんと話聞いてたはずなんだが。
「そうよ。魔術や剣術、その他の武術などで名門とされている4つの学院で行われる大イベントで、各校4人の選手を出場させなければならないの。それに淳にも出て欲しいのよ」
「……俺が出ると他学院が全員不戦敗とかになりかねない気がするが?」
「それならそれでも構わないの。淳なら性格的に『聖フワジーラ学院は特殊初心者専門の学院だし、戦績残さなくても優秀な学生を集められなくなる心配は無い』とか思ってそうだけど……むしろ逆なのよ。歴代1位の学院でなければ、特殊初心者の教育を一手に引き受ける学院ではいられなくなるの」
「そういうことか」
俺がそう返事をすると、サフシヨ様はここからが本題と言わんばかりに一層真剣な顔つきになった。
「聖フワジーラ学院は、かつてない危機的状況にあるの。……ライバルのタイラーノ学院が、かなり強引な手段で4人の使徒紋持ちを学院に編入させたのよ」
そう言えば、もうどの顧客からしても施術から1か月は経ったはずなのに、未だに最初の分割払いに来てない奴らがいるな。それもちょうど4人だったはずだ。
……払い忘れられているものとと思っていたが、実際はそのタイラーノ学院とやらの傀儡にでもされてしまっているのか?
それなら確かにマズいな。だが……
「……それを知ってたなら、何故学院の先輩の紋章改変を聖騎士より優先させなかったんだ?」
「……私、何だかんだで学院関係者より大臣としての役割の方が多いからね……そこは仕方なかったとしか言いようがないわ」
……なるほど、そう来たか。
サフシヨ様も本気で困っているようだし、そういう事情なら出場してやらんでもないな。
「わ──」
……サフシヨ様に「分かった。出場する」と言いかけたその瞬間。
探知魔法にとんでもないものが映り、俺は思わず言葉を止めてしまった。
探知魔法を使ったのは俺ではなく、魔王ヤウォニッカだ。
加護を与えた影響からか、彼女が探知を行った結果は俺に届くのだ。
そして更に、秀英紋の影響からか、彼女が探知で得た情報は俺の脳内で危険度感知のデータに変換される。
そこから分かった、とんでもないもの。
それは、魔王より遥かに強い魔族の存在だ。
魔神の差し金か。それとも、まるで仙人のように強さと知名度の低さを併せ持ち、実力を隠していた者か。
いずれにせよ、魔界の様子を見に行かなければならなさそうだ。
「……対抗戦、何日後からだ?」
「5日後よ」
「登録選手の変更はいつまで可能だ?」
「……前例は無いけど……当日も可能なはずよ」
「そうか……。ならば、一応俺を選手に登録しておいてくれ。あと、できれば明日、聖フワジーラ学院の上級生を4人ここに連れてきてくれ。その予定も変更しなきゃいけない場合はこちらから念話を送る」
「分かったわ。でもなんか慌ただしそうね。何かあったの?」
「魔王が──あー、あの魔王妃とともに来た奴じゃなくて、そいつを倒した後に俺が選出した新魔王が──緊急事態なんだ。魔界を放っておくわけには行かない。転移魔法を使うつもりだから移動には時間はかからないが、問題解決に時間がかかれば、あるいは……学院対抗戦、出られないかもしれない」
ここ約1か月の俺のルーティーンは、「朝破壊天使の紋章のうち1コマを彫り、昼に1人の聖騎士の紋章を改変し、夕方から夜にかけて朝彫った紋章を消す」というものだ。
今は、そのルーティーンを淡々とこなしているに過ぎない。
顧客が聖騎士に限られているのには理由がある。
俺が魔界にいる間にサフシヨ様が関白の強権を発動し、「紋章の彫り直しが許されるのは聖騎士及びフワジーラ学院内の特殊初心者のみ」という法を制定していたのだ。
俺は特にその件について文句は無かった。
というのも、元々前世にいた時でさえ顧客はほぼ極道関係者のみ、と限られていたのだ。
顧客の職種が限定されようと、仕事さえあればそれで十分。それが俺の感覚だ。
そもそも彫り師は肉体労働だ。マーケティング限界に比べ、ビジネスモデル限界がはるかに小さい。
その時点で、潜在顧客の減少に文句を言う筋合いは無いというものだ。
むしろこの法案はメリットも大きい。
顧客が限定された事で、一足先に使徒の紋章を得たサフシヨ様が新たに使徒の紋章を得た者の稽古をつけてくれるようになったのだ。
模擬戦を業務内容から外せた事で、却って刺青の仕事に専念できるようになったと言っても過言では無い。
俺はワーク・ライフ・バランスを重視する男。
職務と恋活(破壊天使の紋章を彫ること)の両立。俺なりに、うまくやってこれたと思う。
ただ……
「やはり、これではダメか」
紋章を彫り終わった聖騎士を帰し、32枚の模写のうち最後の1枚の紋章が彫られた左手を見ながら俺はそう呟いた。
結局、破壊天使の紋章のコマ撮りを32枚彫ったところで自身の魔力に何の変化も無かった。
魔神としての力は健在で弱体化こそしていないものの、それだけだ。
……次のアイデアを練らなければな。
そう気持ちを切り替えようとした矢先。
「淳、ちょっと時間いい?」
サフシヨ様が「彫り右衛門」へと駆けつけてきた。
☆ ☆ ☆
「学院対抗戦?」
……聞いてねーぞそんなもん。
カリキュラム説明は、一応ちゃんと話聞いてたはずなんだが。
「そうよ。魔術や剣術、その他の武術などで名門とされている4つの学院で行われる大イベントで、各校4人の選手を出場させなければならないの。それに淳にも出て欲しいのよ」
「……俺が出ると他学院が全員不戦敗とかになりかねない気がするが?」
「それならそれでも構わないの。淳なら性格的に『聖フワジーラ学院は特殊初心者専門の学院だし、戦績残さなくても優秀な学生を集められなくなる心配は無い』とか思ってそうだけど……むしろ逆なのよ。歴代1位の学院でなければ、特殊初心者の教育を一手に引き受ける学院ではいられなくなるの」
「そういうことか」
俺がそう返事をすると、サフシヨ様はここからが本題と言わんばかりに一層真剣な顔つきになった。
「聖フワジーラ学院は、かつてない危機的状況にあるの。……ライバルのタイラーノ学院が、かなり強引な手段で4人の使徒紋持ちを学院に編入させたのよ」
そう言えば、もうどの顧客からしても施術から1か月は経ったはずなのに、未だに最初の分割払いに来てない奴らがいるな。それもちょうど4人だったはずだ。
……払い忘れられているものとと思っていたが、実際はそのタイラーノ学院とやらの傀儡にでもされてしまっているのか?
それなら確かにマズいな。だが……
「……それを知ってたなら、何故学院の先輩の紋章改変を聖騎士より優先させなかったんだ?」
「……私、何だかんだで学院関係者より大臣としての役割の方が多いからね……そこは仕方なかったとしか言いようがないわ」
……なるほど、そう来たか。
サフシヨ様も本気で困っているようだし、そういう事情なら出場してやらんでもないな。
「わ──」
……サフシヨ様に「分かった。出場する」と言いかけたその瞬間。
探知魔法にとんでもないものが映り、俺は思わず言葉を止めてしまった。
探知魔法を使ったのは俺ではなく、魔王ヤウォニッカだ。
加護を与えた影響からか、彼女が探知を行った結果は俺に届くのだ。
そして更に、秀英紋の影響からか、彼女が探知で得た情報は俺の脳内で危険度感知のデータに変換される。
そこから分かった、とんでもないもの。
それは、魔王より遥かに強い魔族の存在だ。
魔神の差し金か。それとも、まるで仙人のように強さと知名度の低さを併せ持ち、実力を隠していた者か。
いずれにせよ、魔界の様子を見に行かなければならなさそうだ。
「……対抗戦、何日後からだ?」
「5日後よ」
「登録選手の変更はいつまで可能だ?」
「……前例は無いけど……当日も可能なはずよ」
「そうか……。ならば、一応俺を選手に登録しておいてくれ。あと、できれば明日、聖フワジーラ学院の上級生を4人ここに連れてきてくれ。その予定も変更しなきゃいけない場合はこちらから念話を送る」
「分かったわ。でもなんか慌ただしそうね。何かあったの?」
「魔王が──あー、あの魔王妃とともに来た奴じゃなくて、そいつを倒した後に俺が選出した新魔王が──緊急事態なんだ。魔界を放っておくわけには行かない。転移魔法を使うつもりだから移動には時間はかからないが、問題解決に時間がかかれば、あるいは……学院対抗戦、出られないかもしれない」
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