転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など書き換えればいいじゃない〜

Josse.T

文字の大きさ
34 / 49

第31話 魔神アール=エルシィの葛藤と決意

しおりを挟む
魔神・アール=エルシィは悩んだ。
魔神を悩ませたのは、千里眼で見た淳の動向だ。

魔神の特殊魔法である千里眼はただ遠くの物が鮮明に見えるだけでなく、自分が管理している惑星の全生物の収納さえ覗き見できる。収納のプライバシーなどあったものではない。

尤も、魔神が収納の中を覗くことは滅多にない。収納の中は時間が停止している上、他人の収納からの持ち出しは不可能な仕様なので基本的に何を入れられようと問題ないからだ。
トランクルームや銀行の貸金庫と違い、爆発物も貴重品も重要書類もオールーオッケーなのだ。

そんな魔神が淳の収納を見た理由。それは、魔神が淳を監視している途中、淳が収納の中へと入っていったからに他ならない。
その結果、魔神は淳が破壊天使の紋章をコマ撮りにして丁寧に模写していたのを見てしまったのだ。

「あやつはリンネル様への想いを諦めておらん。困ったものだ……」

破壊天使リンネルから命じられた魔神の本来の役目の1つに、「不穏分子の排除」というものがある。
破壊天使と同等の力を手に入れる研究を行う者がこの「不穏分子」に該当するのは明らかだ。魔神には、今すぐにでも淳を殺害する権利──いや、義務があるのだ。

だが先日の決闘からも明らかなように、魔神は淳に勝つことができない。

このままでは、破壊天使リンネルが銀河の巡回でやってきた時にどんな罰を食らうか分からない。魔神には、ただただそれが不安で仕方なかった。

「人類の寿命は短い。この先80年ほどリンネル様が巡回にいらっしゃらなければ、淳はもともと存在しなかったことにもできよう。だが前回のリンネル様のご来訪は400年以上前。そろそろいらっしゃってもおかしくはなかろう……」

こんなことなら、青酸神シーエ=ヌに魔神の位を譲り渡しておけばよかったかもしれない。そう考えてしまうほど、魔神の心は弱っていた。

魔神は、今後の行動の選択肢は3つだと考えた。

1つ目は、他の魔族、例えば現魔王に準決勝で敗れた魔族に特殊加護を与えて魔王を代替わりクーデターさせ、そのまま魔族を引き連れて淳に妨害工作をかけさせる強硬コース。

2つ目は現魔王に淳を口説かせるお色気コース。現魔王は、少なからず淳に好意を持っている。そこで2人に幸せになってもらい、淳にはリンネル様への想いをなくしてもらうのだ。

そして3つ目は座して淳の研究の成功を見守り、上手く行ったら淳にリンネル様から匿ってもらう傍観コースだ。

ここから魔神は選択肢を絞る。
強硬コースは仕掛けやすい上に、魔神本人に及ぶリスクも低い。だが、その全てが徒労に終わる確率も極めて高いだろう。

上手く行った時のリターンという意味では、傍観コースがダントツだ。破壊天使級の実力者の懇意にしてもらえるのだから。
だがその代わり、上手くいかなかった場合の被害も群を抜いて高い。仮にも淳の行動がリンネル様の逆鱗に触れ、決闘でも起ころうもんなら全宇宙の大部分の銀河はあえなく壊滅するだろう。
何より、自分の命運がかかった場面で完全に他力本願というのは魔神にとってありえない選択だった。

……消去法で一番望みが厚いのはお色気コースか。
全く以って魔神に似つかわしくない判断なのがどうも腑に落ちないが、なんせ正攻法ではどうにもならない事態だ。
魔神だって魔神キューピットにならざるを得ない。

こうして、魔神は方針を固め終わった。
そして魔神は転移魔法を使い、魔王・ヤウォニッカに会いに行った。

☆  ☆  ☆

「……先代の魔神さんですか、どうなさいましたか?」

「単刀直入に言おう。我は、お主と淳が上手く結ばれるよう仲人役を果たそうと思って来たのだ」

先代ではない、と魔王の言葉を否定する余裕すら失っていた魔神は、いきなり本題に入った。

「ああ、淳様ですか……。あれからは、1度神託を受け取ったっきりですね……」

「どんな内容だ?」

「『とある実験を行ったのだが、加護に変化はあったか?』と……」

魔神は、神託の話には深入りしなければ良かったと思った。
どう考えても、淳の質問は破壊天使の力を得るための実験関連のことだからだ。

「そうか、それはまあいい。それより重要な提案があるのだ。ヤウォニッカよ、数日間、淳と行動を共にできる機会をお膳立てしようと考えているのだが、如何かな?」

「はあ……」

ここで、魔神には誤算が1つあった。
それは、ヤウォニッカの淳への想いの種類は「彼氏にしたい」と言った類ではなく、自担のアイドルに対するそれに近しいものであったということだ。

「お断りします」

ヤウォニッカの返答に、魔神の頭は一瞬真っ白になった。

「な……なぜだ?」

「私、あのお方との距離はこれ以上近づけてはいけないような気がするのです。その、どう表現すればいいのでしょうね……」

ここでヤウォニッカは一呼吸置き、こう続けた。

「私は淳が好きです。いえ、正確には「」が。私は、あの方のカッコいい部分のみを知っていたい。淳という憧れの存在の、理想的な一面だけを見ていたいのです」

これには魔神も、返す言葉もなかった。
その後も魔神は有効な説得の言葉を思いつくことなく、魔王の拠点を去ることにしてしまった。

☆  ☆  ☆

それから数日が経った。

魔神は更に葛藤し続けていた。
魔神としては、できればヤウォニッカを説得しお色気コースで話を進めていきたかった。だが、説得の手立てがまるで見えてこなかった。
ヤウォニッカの利用は諦め、強硬コースに路線変更するか何度も迷った。

そんな時だった。
魔神の脳内に、1つの妙案が舞い降りた。

言うなればそれは、強硬コースとお色気コースの合体案。
特殊加護を与えた魔族を使ってヤウォニッカを襲わせ、それを淳に阻止させるのだ。
淳とヤウォニッカを共闘させ、仲を深めさせるのが目的だ。

魔神がこの案に至った瞬間、魔王選抜の準決勝で敗れた某魔族の捨て駒化は決定された。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...