最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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10章

269話 殴り合うほど仲が良い

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「そういえば新規がどうとか言っていたが新しいのを取るのか?」
「あー、そんな事も言ってたわねぇ」

 酒造ギルドから戻る間、そんな話を続ける。
 ジャンキー組も一緒ではあるのだが、さっきの攻撃はどう、あのタイミングは配信映えしない……なんてことを言いながら少し前で騒いでいる。
 後ろから観察してみると、ポンコツが弄られている構図ではあるのだが、2人が弄りつつも手綱を引かれている感じがある。配信慣れもあるからコントロールは上手って事かね。

「クラン加入したいって子がいればやぶさかでもないんだけど、うちのクランって基本的に私が欲しいって思った奴しか入れてないからさ」
「自分から来たのはももえとバイオレットだったな」
「それにあんたも酒造出来るのが無かったらとっくに抜けてるでしょ。ジャンキーの奴だっていつでも抜けていい状況にはなってるし」

 そして今気が付いたけど、あいついつの間にキャラモデル変えたんだ。元々そんなに派手な色じゃなかった髪だったと思ったんだが、赤色にしてついでにうさ耳にしてるし。赤い兎って、兎は白い方が好きなんだけどなあ。足技使うしぴょんぴょん跳ねまわって戦うってので本当にイメチェンしたのか。

「自己評価が低いんだな、アカメは」
「自分でも思う位にはめんどくさいからなあ……そもそもネガティブでコミュ障、知った仲だからこうしてるけど、知らん奴やどうでもいい奴には興味もわかないし」
「それでも、さっきの初心者には優しかったみたいだが?」
「あー、それはなあ……」

 気まぐれだよ気まぐれ、と言い切れないが、単純に初心者には優しくするもんだと思っている。いきなり突き放して頑張れって言われてやれる奴もいるけど、何事も初めてやるならある程度教えてやった方が長続きするし、新規を大事にしないゲームって大体衰退するもんだ。

「……やっぱ言わない」
「なんだ、今更隠し事か?ま、大方照れくさいんだろう」

 無言で髭親父の尻を蹴りつけるが、妙に楽しそうにしている。

「それで、新規でも囲ってセミナーをするのか?」
「あいつ等の制御すらできない私が出来ると思うなら、やってもいいわよ」

 ぴっと出した指の先にいるジャンキー組、ぎゃーぎゃーと騒いでいる子供の様にポンコツピンクが2人に弄られている。
 あっちこっち連れまわそうとしているのが結構面白い光景だ。

「いじめじゃないのか、あれは」
「ああやって弄られているので随分再生数が伸びてるからねえ……」

 ログアウトした時にちょいちょいとアーカイブを覗いてみるが、結構面白く編集したのもあれば、垂れ流しで騒いでるだけの奴もあるが、どっちも中々の再生数を稼いでいるので十分弄られている元は取れている。
 結構あれだけで食えるみたいだし、良い職業だよなあ。私もあと数日で憂鬱な仕事を再開しなきゃならんわけだしあれくらいの弄られてるのは許容範囲だろう。
 ああ、そういえば私のライフル使ったのか、あいつ?

「ポンコツ、私のライフルは?」
「まだライフル使って配信してないからー」
「アカメちゃんのライフル借りても使えるのぉ?」
「おねーさんの銃っておっきーのばっかなのに、使えるわけ?」

 ポンコツピンクの頭をぺちぺちと2人で叩きながらからかい続けている。ああいうのこそ配信してみると面白いと思うんだが、それはそれで違うって事かね。

「うちのクランにもある程度派閥が出来たな」
「んー……生産組は猫耳、トカゲ、髭、金髪エルフ、戦闘組はポンコツ、ジャンキー、紫髪か」
「アカメは?」
「私は勿論『ボス』だろ」
「枠外か」

 らしいな、と言われながら全員揃ってクランハウスのリビングに戻る。
 珍しくと言うか、いつも作業場に籠っている金髪エルフと猫耳、トカゲがサイオンを囲んであれこれ言っている。

「だからこの素材ってのはこっちに回せって言っただろ」
「いいや、ボスのコートは最優先なんで」
「ああ?こちとらクラン資金の肝だぞ?」

 表情は変わりないが、なんとーなく困り顔でサイオンが共有ボックスのアイテム配分をどうしようかと考えている所に遭遇するわけだが、やっぱうちのクランに新規を入れるって難しいと言うか、癖が酷い。
 見知った仲だからこその言い合いではあるのだが、普通に部外者がみたら本気で喧嘩しているだろうし、一触即発くらいの剣幕ではある。
 
「はいはい……落ち着けお前ら」

 ああ?っと喧嘩腰でこっちを見てくるし、ぜんぜん引く気も無いのでとりあえず手をぱんぱんと叩いて静かにさせ。

「今から30秒で欲しいものをボックスから出せ、恨みっこ無しだから、よーいドン」

 手をパチンと大きく叩くと、言い合いしていたのが押し合いへし合いしながら共通ボックスの中を漁りつつ殴り合いを始める。
 その横で宙ぶらりんになったサイオンに30秒後に共有ボックスをロックしてしばらくしたら解除しろと、指示を出してやると分かりましたとお辞儀1つ。わしゃわしゃと撫でてからいつもの愛用の椅子に座ってふいーっと落ち着く。

「良いのかあれ」
「思う存分やらせておけばいいのよ、ああいう職人連中ってのはちょっと競争させてる方が良いもん作ってくれるし」

 で、戦闘組3人はその素材の取り合いをしているのを見てかなり引いてみている。お前ら戦闘してる時には同じような事をしているからな。

「生産職こわっ」
「素材1つに殴り合いしてるねぇ……」

 紫髪は指を向けてひゃっひゃと笑っている。それはそれで引くわ。
 そして暫く素材争奪戦を観戦し、30秒が立つときっちりとボックスからの出しをロック。本当に、私の秘書ってのは優秀だなあ。

「ボス!後でコート取りに来いよ!」
「お前、その素材使おうと思ってたんだぞ」
「早い者勝ちでーす!」

 ぎゃんぎゃんと何度も言いながらそれぞれの作業場に素直に向かっていく。
 すげえ切り替え早いなあいつら。

「ほら、中々面白いものがみれたろ?」
「いい性格してるのう……こんなんじゃ新規を向かい入れても長続きせんぞ、確実にな」
「たまたま組んだ奴にちょっと指示や知ってる事を教えるくらいがちょうどいいのよ」

 3人が引っ張り出した素材のリストをサイオンから、メールで受け取って軽く目を通したら削除。共有ボックスの中って大した素材入ってないからそんなに争奪戦になるかって話なんだよな。思いつくものとして試作するのに大量消費するから、そこで争奪したって事かね。

「おねーさん、これから何か用事ある?」
「んー、アイテムと装備整えたらログアウトでもしようかなと思ってたけど」
「一体くらいボスいかない?そろそろ沸き時間なんだよねー」
「……あんまし強くないわよ、私」
「いいっていいって、30分後でいい?」
「分かった、準備したら連絡する」

 とりあえず頼んでおいたコートとガンシールドを受け取ってから、どう立ち回るか考えるか。
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