モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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野外訓練のお知らせ

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午後の授業が終わりかけた頃、教室の空気が一段落したその瞬間だった。

「――来週、五日間は野外訓練です」

教壇に立つ先生の声に、ざわりと空気が揺れる。

「実戦と変わらない状況下で訓練に及ぶため、各自、準備は念入りに」

一瞬の静寂。
次の瞬間、あちこちから小さな声が漏れた。

「え、五日間……?」
「野外って……泊まり込み?」
「聞いてない……」

先生は慣れた様子で視線を流し、淡々と続ける。

「騎士科と治癒魔術科の合同です。魔物が生息する区域に入ります。油断はしないように」

その言葉に、今度ははっきりとした動揺が広がった。

「マジックバッグの使用は可能ですか?」

後方の席から上がった質問に、先生は一拍置いてから答える。

「極限状態で鍛えるにあたって、使用は可能だと思いますか?」

「……」

沈黙。
それが答えだった。

「魔物相手ですか?」

「そうです。下手をしたら、死ぬかもしれません」

あまりにさらりと告げられたその一言に、背筋がぞわりとした。
冗談ではない。
ここは“学園”だが、“現場”でもある。

「だからこそ、念入りに準備しなさい」

そう言って、先生は黒板の横を指差した。
いつの間にか、詳細が書かれた張り紙が貼られている。

授業が終わると同時に、生徒たちは一斉にそこへ集まった。

私もノートを抱えて前に出る。
一行一行、見逃さないように書き写していく。

期間。
場所。
編成。
注意事項。

(……スマホがあれば写真一枚で終わるのに)

そんなことを考えた瞬間――

「……え?」

目が、ある一文で止まった。

『リストウェイト・アンクルウェイト装備厳守』

……は?

もう一度、見直す。
間違いない。

「重り、付き……?」

思わず声が漏れた。

腕と足に重りをつけた状態で、五日間。
魔物相手。
野外。

(先生……それは酷くない……?)

治癒魔術科は後方支援だ。
前に出て剣を振るわけじゃない。
そう思っていた自分が、甘かった。

これは“戦場”だ。
治す側も、立って動けなければ意味がない。

ノートを閉じながら、喉がごくりと鳴る。

視線を上げると、同じ治癒魔術科の生徒たちも、似たような顔をしていた。
青ざめている者。
覚悟を決めたように口を引き結んでいる者。

その少し向こうで、騎士科の集団がざわついている。
中には、楽しそうに笑っている者もいた。

(……なんで楽しそうなの)

理解不能だ。

ふと、騎士科の中に見覚えのある姿を見つける。
ヴィルだ。
腕を組み、張り紙を睨むように見ている。

その横には――

(……エルンスト)

彼は静かに内容を確認し、何かを考えるように顎に手を当てていた。
表情は変わらない。
けれど、その立ち姿だけで、準備を“計算”しているのがわかる。

胸の奥が、きゅっとした。

(……私は)

治癒魔術科の一学生。
モブ。
戦場の中心には立たない存在。

それでも。

この五日間は、逃げられない。

張り紙の最後の一行を、もう一度見つめる。

『騎士科・治癒魔術科 合同野外訓練まで、あと三日』

三日。

短すぎる。

体力。
魔力。
気合い。

全部、足りない気しかしない。

(……死なないように、頑張ろう)

ノートを抱きしめ、深く息を吸った。

こうして、学園生活の中で、最も過酷な訓練が
――静かに、確実に、近づいてきていた。


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