モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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あっという間の楽しい時間

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戦闘終了の合図が出た瞬間だった。

「ふっ……燃え尽きたぜ……」

治癒魔術科B班の仲間が、地面に転がりながら呟く。
それはもう、漫画みたいな倒れ方だった。

「決め台詞みたいに言ってるけどさ」
「内容が全然カッコよくないんだけど……」

私も膝に手をついて、ぜえぜえと息を整える。
肺がまだ、さっきの爆音を引きずっている気がする。
耳鳴りは完全には止まっていないし、足首の重りは相変わらず自己主張が激しい。

「……確かにこれは……」

視線を上げて、周囲を見渡した。

――地形、変わってない?

さっきまで確かに“森”だったはずの場所は、今や見事なまでの別物だ。
木は倒れ、地面は抉れ、あちこちが焦げている。
紅葉どころか、原型を留めていない。

(紅葉狩りとは……)

首を傾げる余地すらない。
これはもう、災害現場だ。

そんな中。

「いやー! 気持ちよかったですねー!!」

妙に晴れやかな声が響いた。

魔術科の先生だ。
満面の笑みで、生徒たちの肩をぽんぽん叩いている。

「出力も連携も素晴らしい! よく出来ました!!」

魔術科の生徒たちは、疲労困憊のはずなのに、どこか誇らしげだ。
わかる。わかるけど。

私は、そっと隣を見る。

治癒魔術科の先生が、無言で魔術科の先生を睨んでいた。

……目が、完全に据わっている。

(あっ……これ……)

問題児じゃなくて、問題先生だ。

先生同士も大変なんだなぁ、と妙なところで現実を感じる。

「ねえ……」
「なに?」
「私たち、魔術科に殺されかけてない?」
「気のせいじゃないと思う」

B班内でひそひそと確認し合う。
誰も否定しなかった。

楽しみにしていたものもあった。

そう。
ヒロインとベルンハルトの魔術展開。

あの完璧な連携。
あの美しい詠唱。
あの、乙女ゲーム的ご褒美シーン。

(……はずだったんだけど)

実際に見えたものは、爆風と霧と閃光だった。
視界ゼロ。
ロマン皆無。

「……何も見えなかった……」
「うん……何も……」

期待していた分、虚無感がすごい。

紅葉狩りの“紅葉”に至っては、完全に消し炭だ。
狩る前に、消し去ってしまった。

だが。

結果だけを見れば――

魔物は、あっという間に殲滅されていた。

残骸すら、あまり残っていない。
文字通り、消し飛ばしたのだ。

(……改めて、凄い)

そう思わずにはいられない。

魔術科の火力。
制御。
連携。

全部が、暴力的なまでに完成されている。

同時に。

(これが……人相手に放たれたら……)

背筋が、ぞくりと冷えた。

治癒魔術科の役目は、命を繋ぐことだ。
壊れたものを戻すこと。
ギリギリを、こちら側に引き戻すこと。

でも。

この規模の攻撃を前にしたら。
治癒が追いつく前に、終わる。

(……最大の敵、だな)

魔術科は、頼もしい味方であり。
同時に、最も恐ろしい存在でもある。

そんなことを考えていると、影が差した。

「怪我は?」

聞き慣れた声。
顔を上げると、エルンストが立っていた。

いつものように冷静で、でも視線は真剣だ。
私の状態を、一瞬で確認している。

「大丈夫。耳鳴りが少しあるくらい」
「無理はするな」

それだけ。
それだけなのに、胸の奥が少し緩む。

周囲では、騎士科が倒れた仲間を起こし、魔術科が達成感に満ちた顔で談笑し、治癒魔術科が地面に転がっている。

カオスだ。

でも。

(……楽しかったな)

心の奥で、そう思ってしまう自分がいる。

地獄みたいだった。
鬼畜だった。
理不尽だった。

それでも。

命があって。
仲間がいて。
一緒に乗り切ったという実感が、確かに残っている。

「あっという間だったね」

ぽつりと呟くと、隣の誰かが笑った。

「それ、完全に感覚麻痺してるぞ」

かもしれない。

でも、この時間が。
この訓練が。

きっと、あとから振り返った時――
一番、記憶に残る“楽しい時間”になるのだと思った。



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