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自室に戻り、ほっと一息を吐いていると、侍女のサラがお茶を入れてくれる。
「お嬢様、夕食までの時間はゆっくり休まれますか?」
「ありがとう、そうするわ。授業で先生が気になることを言っていたし、少し予習をしておこうと思っているわ」
サラが入れてくれるお茶を飲むこの時間はこの邸の中で唯一の癒しの時間と言ってもいい。
私はお茶に口を付けようとした時、『バンッ』と効果音が聞こえてきそうなほど勢いよく扉が開いた。
「お姉様! 明日、街へ行きましょう!」
ミリアは満面の笑みを浮かべながらずかずかと部屋に入ってくる。
「ミリア、毎回話をしているけれどいつになったら覚えるの? いつまでも平民の感覚ではいられないのよ? ノックくらいしなさい」
「酷いわ! 私を蔑んでいるのねっ!」
「……そうではないわ。ノックくらいしなさい。これは常識よ? 貴女はもう貴族なのでしょう?」
「いいじゃない。それくらい。誰も気になんてしないわ」
ミリアは自分が物語のヒロインを体現しようと頑張っているのかもしれない。
だけど私には彼女の頭の中は万年花が咲き乱れているのではないかとしか思えない。
「明日は街へ行く予定はないし、行きたいならミリア一人で護衛を付けていけばいいわ」
「私はお姉様と行きたいんですぅ」
「ミリア、貴方は遊んでいる場合ではないわ。今回の試験では下から五番目。伯爵令嬢になって何年も経つのにいつまでもその成績では恥ずかしいわ」
「お姉様はいつも勉強、勉強って言ってばっかり!」
私は諭すように話をするが、ミリアは腕を組み、ぷくりと頬を膨らます。自分の可愛さを分かった上でその仕草をしているのだろう。
いつも疑問に思うけれど、ミリアが学院で侍らせている令息達は彼女のあざとさに気づいていないのだろうか。
私がミリアに『部屋に戻って勉強しろ』と口にする前にサラが先に口を開いた。
「ミリア様。ソフィア様は夕食までお勉強をされますので、お部屋にお戻り下さい」
「お姉様は勉強ばっかりでつまらないわ! 行きましょう? 街に!」
「ミリア様、どうぞお部屋にお戻り下さい」
ミリアの正面立ち、扉へジリジリと押し出すようにミリアを退室させる。
「サラ、ありがとう」
「いえ、ソフィア様の心労に比べれば気にもなりません」
私が勉強し始めると一礼をしてサラは部屋を出た。サラは私が小さな時に母が付けてくれた侍女で、私の事はなんでも答えられるほど仲が良い。
母が亡くなってからはサラが私の心の支えとなってくれている。
私は卒業と同時に婚約者と結婚し、伯爵を継ぐ予定にはなっているのだが、最近はそれも怪しいと感じている。
理由はもちろんミリアだ。
私の婚約者であるノア・シアン侯爵子息もミリアに絡め取られたうちの一人だ。義妹と自分の婚約者の仲を考えると将来が不安でしかない。
ミリアは常に花畑の中を歩いている見目と中身で学院の令息たちを侍らせ、様々な物を貢がれている。
それを知った令息の婚約者たちやクラスの令嬢たちから総スカンを食らっている状態だ。
令息達からすれば外見は砂糖菓子のような甘く可愛いミリアは愛人としては最適なのかもしれない。
現実的に考えると学も魔力も無いので正妻として迎えるにはかなり厳しい。
ミリアが学院に入ってからはミリアのことで様々な苦情が私に来ており、私が対応せざるを得ない事態となっている。
……ミリアには本当に困ったものだ。
ただミリアが問題を起すだけなら将来私が伯爵家を継いだ時にミリアを追い出せば良いのだけれど、義母は勿論、父も可愛いミリアを手放すとは思えない。
父たちがどれだけ手元に置いていたいと思っていても、各家から抗議が来るようになればミリアに婿を取らせて領地に押し込めることがあるかもしれないが。
色々悩みの種を抱えているが、今一番悩みはノア様とミリアの関係だ。
ミリアは『世界は自分中心に回っている』とでも考えているのか、毎回必ずと言っていいほど私とノア様のお茶会にミリアは突撃してくるの。
初めはノア様も注意していたが、この万年花畑の妹に段々と汚染されてしまったようだ。
今では彼はお茶会の度にミリアへの贈り物を持ってくる。
私の目の前でミリアに贈り物を渡し、さっさと二人の世界に入ってしまう。まるで自分たちは物語の主人公であるかのように振舞っている。
私はきっと空気や風景の一部とでも思っているのだろう。
私だって最初こそそんな二人に嫉妬をしたし、注意もしたけれど、ミリアにとっては私は『意地悪なお姉様。私は負けないわっ』くらいにしか思っていないようで、相手をするのが間違いだと早々に気づいた。
彼女は悲劇のヒロインになり、悪役の私を追い出してノア様と共に伯爵家を継ごうとでも思ってそうだ。
養女で魔力の無いミリアが後を継げる訳がないのだが、あの子は本気で考えていてもおかしくないのよね。
もし、仮に、天と地がひっくり返りミリアがノア様と結婚し、伯爵家を継いだとしても上手くいかないだろう。
我が家は貧乏では無いけれど、特段裕福でも無い。それに加え、領地もこれと言って名産品があるわけでもない。
ノア様が頑張って領地改革をし、収入を増やしたところで金遣いの荒い義母のハンナが借金に変えていくだろう。
ミリアの頭では事業の失敗は目に見えている。
となると、私は最悪、伯爵家を維持するために何処かの大富豪にお金と交換される可能性がある。
だからといって、このまま私はノア様と結婚して、ミリアとノア様の関係を許すのも嫌よ。ミリアを他へ嫁がせても毎日のようにノア様に会いにくるでしょう。
そんな二人を見続けるのも辛いわ。
「お嬢様、夕食までの時間はゆっくり休まれますか?」
「ありがとう、そうするわ。授業で先生が気になることを言っていたし、少し予習をしておこうと思っているわ」
サラが入れてくれるお茶を飲むこの時間はこの邸の中で唯一の癒しの時間と言ってもいい。
私はお茶に口を付けようとした時、『バンッ』と効果音が聞こえてきそうなほど勢いよく扉が開いた。
「お姉様! 明日、街へ行きましょう!」
ミリアは満面の笑みを浮かべながらずかずかと部屋に入ってくる。
「ミリア、毎回話をしているけれどいつになったら覚えるの? いつまでも平民の感覚ではいられないのよ? ノックくらいしなさい」
「酷いわ! 私を蔑んでいるのねっ!」
「……そうではないわ。ノックくらいしなさい。これは常識よ? 貴女はもう貴族なのでしょう?」
「いいじゃない。それくらい。誰も気になんてしないわ」
ミリアは自分が物語のヒロインを体現しようと頑張っているのかもしれない。
だけど私には彼女の頭の中は万年花が咲き乱れているのではないかとしか思えない。
「明日は街へ行く予定はないし、行きたいならミリア一人で護衛を付けていけばいいわ」
「私はお姉様と行きたいんですぅ」
「ミリア、貴方は遊んでいる場合ではないわ。今回の試験では下から五番目。伯爵令嬢になって何年も経つのにいつまでもその成績では恥ずかしいわ」
「お姉様はいつも勉強、勉強って言ってばっかり!」
私は諭すように話をするが、ミリアは腕を組み、ぷくりと頬を膨らます。自分の可愛さを分かった上でその仕草をしているのだろう。
いつも疑問に思うけれど、ミリアが学院で侍らせている令息達は彼女のあざとさに気づいていないのだろうか。
私がミリアに『部屋に戻って勉強しろ』と口にする前にサラが先に口を開いた。
「ミリア様。ソフィア様は夕食までお勉強をされますので、お部屋にお戻り下さい」
「お姉様は勉強ばっかりでつまらないわ! 行きましょう? 街に!」
「ミリア様、どうぞお部屋にお戻り下さい」
ミリアの正面立ち、扉へジリジリと押し出すようにミリアを退室させる。
「サラ、ありがとう」
「いえ、ソフィア様の心労に比べれば気にもなりません」
私が勉強し始めると一礼をしてサラは部屋を出た。サラは私が小さな時に母が付けてくれた侍女で、私の事はなんでも答えられるほど仲が良い。
母が亡くなってからはサラが私の心の支えとなってくれている。
私は卒業と同時に婚約者と結婚し、伯爵を継ぐ予定にはなっているのだが、最近はそれも怪しいと感じている。
理由はもちろんミリアだ。
私の婚約者であるノア・シアン侯爵子息もミリアに絡め取られたうちの一人だ。義妹と自分の婚約者の仲を考えると将来が不安でしかない。
ミリアは常に花畑の中を歩いている見目と中身で学院の令息たちを侍らせ、様々な物を貢がれている。
それを知った令息の婚約者たちやクラスの令嬢たちから総スカンを食らっている状態だ。
令息達からすれば外見は砂糖菓子のような甘く可愛いミリアは愛人としては最適なのかもしれない。
現実的に考えると学も魔力も無いので正妻として迎えるにはかなり厳しい。
ミリアが学院に入ってからはミリアのことで様々な苦情が私に来ており、私が対応せざるを得ない事態となっている。
……ミリアには本当に困ったものだ。
ただミリアが問題を起すだけなら将来私が伯爵家を継いだ時にミリアを追い出せば良いのだけれど、義母は勿論、父も可愛いミリアを手放すとは思えない。
父たちがどれだけ手元に置いていたいと思っていても、各家から抗議が来るようになればミリアに婿を取らせて領地に押し込めることがあるかもしれないが。
色々悩みの種を抱えているが、今一番悩みはノア様とミリアの関係だ。
ミリアは『世界は自分中心に回っている』とでも考えているのか、毎回必ずと言っていいほど私とノア様のお茶会にミリアは突撃してくるの。
初めはノア様も注意していたが、この万年花畑の妹に段々と汚染されてしまったようだ。
今では彼はお茶会の度にミリアへの贈り物を持ってくる。
私の目の前でミリアに贈り物を渡し、さっさと二人の世界に入ってしまう。まるで自分たちは物語の主人公であるかのように振舞っている。
私はきっと空気や風景の一部とでも思っているのだろう。
私だって最初こそそんな二人に嫉妬をしたし、注意もしたけれど、ミリアにとっては私は『意地悪なお姉様。私は負けないわっ』くらいにしか思っていないようで、相手をするのが間違いだと早々に気づいた。
彼女は悲劇のヒロインになり、悪役の私を追い出してノア様と共に伯爵家を継ごうとでも思ってそうだ。
養女で魔力の無いミリアが後を継げる訳がないのだが、あの子は本気で考えていてもおかしくないのよね。
もし、仮に、天と地がひっくり返りミリアがノア様と結婚し、伯爵家を継いだとしても上手くいかないだろう。
我が家は貧乏では無いけれど、特段裕福でも無い。それに加え、領地もこれと言って名産品があるわけでもない。
ノア様が頑張って領地改革をし、収入を増やしたところで金遣いの荒い義母のハンナが借金に変えていくだろう。
ミリアの頭では事業の失敗は目に見えている。
となると、私は最悪、伯爵家を維持するために何処かの大富豪にお金と交換される可能性がある。
だからといって、このまま私はノア様と結婚して、ミリアとノア様の関係を許すのも嫌よ。ミリアを他へ嫁がせても毎日のようにノア様に会いにくるでしょう。
そんな二人を見続けるのも辛いわ。
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