私は本当に望まれているのですか?

まるねこ

文字の大きさ
4 / 35

4父への報告

しおりを挟む
 邸にいる侍女や従者たちはみな軍服を着て出迎えてくれている。これはいつでも戦闘に出られるようにしているためだ。

「「「おかえりなさいませ、ジネット様」」」
「ただいま」

 玄関に入ると、ドレス姿であることをものともせず大股で歩き出すが、誰も咎めることはない。

「ジネットお嬢様、すぐにお発ちになりますか?」
「そうね。着替えたらすぐに発つわ。ケイティ、準備はできている?」
「もちろんです、お嬢様。まさか、ドレス姿のお嬢様が一目ぼれされる日がくるなんて思ってもいませんでした」

「……それを言わないで」
「顔が赤くなっていて可愛いですよ、お嬢様」

 侍女のケイティはからかうように笑いながらも部屋に入り、すぐに私のドレスを脱がせていく。

 ケイティも侍女服を脱ぎ捨て、その下に着ていた軍服を整えている。他の侍女たちはケイティと私の服を片づけていく。

 二人とも帯剣して、そのまま中庭へ歩き出した。私の専属の侍女であるケイティは平民だが、そこら辺の騎士よりも腕が立つ。

 侍女としても優秀でいつも助かっているわ。

「お嬢様、領地で大斧を振るっているという情報はどこから漏れたのか調べますか?」
「いいわ。どうせお父様が王都で話したのでしょう。お父様は公爵様と仲が良いからね」

 中庭に出ると数人の従者と小型のドラゴンが二頭見えた。

「騎乗準備はいつでもできております」
「ありがとう。では領地に戻るわ。皆も休めるときはゆっくり休んでちょうだい」
「ありがとうございます」

 従者たちは一斉に距離を取り、礼をしている。

 姿勢を低くし、待機しているドラゴンを撫でてそのまま鞍に乗る。するとドラゴンはゆっくりと浮上していく。

 ケイティの乗るドラゴンも私の後を追うように空に舞い上がった。

 この飛び立つ感覚がドラゴンの騎乗で一番好きなのよね。
 レオ様はドラゴンに乗れるようになるかしら。

 私は領地に戻ってからのことも考えなければいけないけれど、先ほどの出来事を思い出すたびに、嬉しさと恥ずかしさが湧き上がり、感情を抑えるのに必死になる。

 気になることもあるけれど、レオ様は一目ぼれだと言ったわ。

 突然のプロポーズに驚いたけれど、嬉しかった。

 みんなが見ている前で。
 そういうことは本の中でしか起こらないものだと思っていたから。
 もしかして他の令嬢はよくあることなの?
 もし、彼が私と婚姻することが決まったら……。

 どうしよう!?
 旦那様って呼べばいいのかしら?

 夫婦で協力しあって魔獣を倒すのよね。
 嬉しい。
 もしかして夢が叶うのかもしれない。
 でも、強い私を見て嫌いになるかもしれない。

 だって、今まで学生の頃に何人かの子息が私に声をかけてきたけれど、誰もが領地での私の姿を見て消えていった。

 ……もし、今回も同様に私の姿に幻滅したらどうしよう。

 せっかく私を好きになってくれたんだもの。

 きっと大丈夫。
 彼を信じるしかない。

 私は一人コロコロと表情を変えながら領地へ戻っていった。

「「「ジネットお嬢様! おかえりなさい」」」

 領民は私の姿を捉えると手を振り、声をかけてくれる。

 いつものように私は中庭に降り立ち、邸へと戻っていく。ベルジエ領は東の辺境地で森に囲まれている。

 邸は王都の建物とは異なり、石造りの堅牢な建物で高い塀が巡らされ、魔獣の侵入をこれまで一度たりとも許したことはない。

「ジネットお嬢様、おかえりなさいませ。久々の王都はいかがでしたか?」
「ただいま。王都はあまり変わっていなかったわ。お父様は執務室にいるかしら?」
「ジョセフ様は現在執務中でございます」
「わかったわ」

 白髪に髭を蓄えた老紳士のような風貌をした執事のポートはにこやかに私の後をついて歩く。

 ノックをし、父の執務室へと入る。

「お父様、ジネット、ただいま戻りました」
「ジネットお帰り。久しぶりの王都はどうだったか?」

 赤髪で細身の父は書類を持つ手を止めて笑顔で聞いてきた。

 普段は戦鬼かと思わせる風貌で魔獣を討伐しているが、こうして改めてみると、父も中々に美丈夫なのね。

 レオ様の件があって初めて父の美醜に目が留まった。

「特に変わった様子はありませんでした。マリーズ様の婚約者候補の方も良さそうでしたし……」

 その後の話をしようとして一瞬躊躇った。父になんて言えばいいのだろう。

「ジネットどうした? 何か困ったことでもあったのか?」
「……いえ、少し問題が起こったといえば、起こりました」

 私がそう言うと、父の顔はいっぺんして魔獣を屠る時の恐ろしい顔になった。

「何が起こった?」
「いえ、あの、その……」
「どうした? ジネットが言い淀むほど大事件だったのか?」

 私は自分の親に告白されたと報告するのがとても気恥ずかしさを感じてなかなか言葉が出てこない。

「失礼いたします! 口を挟んでしまい、申し訳ありません!」

 ケイティは一歩前に進み礼をして父の指示を待った。

「ケイティ、どうしたんだ? ジネットに何があった」
「ジネットお嬢様が言い淀まれる理由は、マリーズ様のお茶会に参加された時の話だと思います。レオ・バルベ伯爵子息様が突然お茶会の場でジネットお嬢様にプロポーズしてきたのです」

「プ、プロポーズ、だ、と!?」

 父は怒るどころか眉を緩め嬉しそうに微笑む。

 ケイティは説明するとすぐに後ろへ下がった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。

しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。 同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。 その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。 アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。 ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。 フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。 フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。

従姉の子を義母から守るために婚約しました。

しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。 しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。 再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。 シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。 ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。 当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって… 歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。

存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

処理中です...