男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

文字の大きさ
26 / 35

26 謁見

しおりを挟む
 何年振りなのだろう。

 シャリアが亡くなったのが二十年前だったはず。だとしたらここへ来るのも二十年ぶりだ。

 王宮の入り口で門番にイェシュティア国からの許可証を提示して中に入った。少しずつ佇まいは変わっているけれど、懐かしい。

 私たちは従者の案内で謁見室に案内された。

 今回陛下に謁見が叶ったのはブラジェク伯爵家だったからだろう。他国の小さな商会が陛下に挨拶をすることなど滅多に叶わない。

 陛下への謁見申請の理由はブラジェク伯爵家からの親書と商会を立ち上げたことの挨拶になっている。

 謁見室は赤い絨毯が敷き詰められ、壁には細かな金字の装飾が施されていてとても立派な部屋だ。

 ……あの時とあまり変わっていないのね。

 私はぎゅっと手に力が入った。

「エリオット陛下がお見えになられました」

 私たちに緊張が走る。彼は向かいの扉から従者や護衛と共にやってきた。

 私たちは礼を取った。

「イェシュティア国のブラジェク伯爵子息と婚約者のノール男爵令嬢様です。今回、新たに商会を立ち上げ、この国の品を取扱いたいとのことです」
「……うむ。ブラジェク伯爵、か。ゆっくり国を見て行ってくれ」

「はい。父からこの国は素晴らしい物が多いと聞きました。一つでも多くイェシュティア国でも流行る商品を見つけたいと思っています」
「……ああ」

 ロイ様がそう話をしているが、エリオット様は表情を崩すことはないようだ。

 謁見が終わろうとした時、『今だ!』と思い、私は声を掛けた。

「エリオット陛下、少しよろしいでしょうか?」
「君はノール男爵令嬢だったかな」
「はい」
「どうしたのだ。何か私に用かな?」
「エリオット陛下、借りを返してもらいに来ましたわ」
「はて、君とは初対面のはずだが」

 エリオット陛下は不審そうな目で私を見ている。
 まあ、それは仕方がないことだろう。

「エリオット陛下、『二一一一二二』という数字は覚えておられますか?」
「二一一一二二?」

 すると、陛下は考えるような素振りをした後、目を見開いて私を見た。
 ロイ様は理解できず口を閉じたまま私を見ている。

「まさか……」
「エリオット様と学位を競い合っていた数字ですわ。今回、私たちがここへ来た理由はあの書類を取りに来ましたの」
「……シャリア、君なのか?」
「ええ、過去を思い出したのはつい最近でしたが」

 エリオット陛下は信じられないという顔をしながらも少し気になっているようだ。

「領地に植えたジャロの実はそろそろ収穫最盛期ですね。今回、私たちが交易品の一つとしてジャロの実を持って帰ろうと思っています」
「ジャロの実か。だがカークス伯爵が生産量を調整しているからイェシュティア国に回すほどの実は採れていないはずだ」

「あら、ギリンお兄様が調整しているんですね。相変わらず欲がないわ」

 陛下は少しずつだが警戒を解いているようだ。

「エリオット陛下、質問には何でも答えますわ」
「……君がシャリアだと言うのなら。なぜ私を庇ったんだ?」

「今も昔も私はエリオット様がこの国の王に相応しいと思っていたからです。あの時は自然と体が動いていたんですよね。今、考えれば宰相を引っ張って盾にしておけば良かったわ!」

 エリオット陛下にフッと笑顔が零れた。

「他の質問もいいか?」
「ええ、構いません。エリオット様の婚約者候補から私の名が消された話でもしますか?」
「はっ?」

「あら、ご存じではなかったのですね。十一歳の時、私たち三名、キャロライン・ウィル公爵令嬢と私、とアマデリア・フィラン公爵令嬢の三人の名前が挙がっていました。

 キャロライン様はエリオット様のことが大好きだったけれど、家の事情で婚約者候補を断念せざるを得なかった。残された私とアマデリア様だった。

 ある日、アマデリア様から連絡があってエリオット様とどうしても結婚したいと相談を受けたんです。私は家の事情もあるからその場で返事はしなかったんですけどね。

 その後、公爵から直接呼び出されて『良い婚約者を付けるから候補を降りて欲しい』と言われたんです。もちろんその場には父も居たし、アマデリア様もいたわ。

 父はそれで了承して私は婚約者候補を辞退することになったの。まあ、その婚約者は国の策略で子爵令嬢と婚約し、私はギルディッド陛下の側妃にされたんですけどね!」

「……まさか、そんなことが?」
「ええ。あとでアマデリア様に聞いてみてください。他にも私とエリオット様だけが知っている話しは……」

 私は学生になった頃の話や図書館で鉢合わせした時の話。

 テラスでよく食事をしていたのだが、その時の会話の内容などを話してみせた。

 エリオット陛下は昔を懐かしむかのように優しい表情に変わっていく。

 国王というのは孤独なものなのだろう。こうして級友と昔話をすることも少ない。

 彼は私がシャリアだということを認めざるを得なかったようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

派手にしない工房は、今日もちゃんと続いている

ふわふわ
恋愛
名門でも、流行でもない。 選ばなかったからこそ、残った場所がある。 街の片隅で、小さな工房を営む職人シオンと、帳簿と現実を見つめ続けるリリカ。 派手な宣伝も、無理な拡大もせず、ただ「ちゃんと作る」ことを選び続けてきた二人の工房は、いつの間にか人々の日常の一部になっていた。 しかし、再開発と条件変更という現実が、その場所を静かに揺さぶる。 移るか、変えるか、終わらせるか―― 迫られる選択の中で、二人が選んだのは「何も変えない」という、最も難しい決断だった。 特別にならなくていい。 成功と呼ばれなくてもいい。 ただ、今日も続いていることに意味がある。 これは、成り上がらない。 ざまぁもしない。 けれど確かに「生き方」を選びきった人たちの物語。 終わらせなかったからこそ辿り着いた、 静かで、確かな完結。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

政略結婚の作法

夜宮
恋愛
悪女になる。 そして、全てをこの手に。 政略結婚のために身分違いの恋人のいる王太子の婚約者となった公爵令嬢は、妹の囁きを胸に悪女となることを決意した。 悪女と身分違いの恋人、悪女になるはずだった妹の物語。

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

処理中です...