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25 船旅
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私たちの出国に合わせ、ブラジェク伯爵は舞踏会やお茶会に商品を勧めるために各所に夫婦で参加することになった。
公の場でブラジェク伯爵は華やかな場で商会の宣伝をし、貴族たちに印象付ける。
その裏では次期ブラジェク伯爵であるロイ様は代理として私とメルロワード国に書類を取りに向かう。
私と出会って一年が経った今、ロイ様は見違えるほど素晴らしい男性になっていた。学院での成績も常に上位と肩を並べ、周りからは一目置かれる存在となっている。
領地内には交易していた頃のノウハウが残っていたのでそれがまた良かった。
ロイ様は父親から聞いた事実に身を引き締め、伯爵や領地に残っていた者たちから教えを請い、彼もまた伯爵に相応しい実力を身に着けていった。
商会を立ち上げた当初はやはりエフィン公爵の邪魔もあったが、『借金返済のために動いているのを邪魔するな』と国から窘められ、横やりもなくなった。
夫人の活躍や伯爵の選んだ商品が貴族だけでなく平民からも人気が出始め、商売は軌道に乗り、最近は黒字を出すようになってきている。
「ロイ様、学院の長期休み中とはいえ、お連れして大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。フラン嬢と一緒に旅が出来ると思えば嬉しくてしかたがない」
「私もロイ様と一緒にメルロワード国に行けるなんて楽しみです。商品探しの旅とはいえ、新婚旅行のような感じですね」
「ああ、嬉しいな。そういえばメルロワード国は言葉が違うが、フラン嬢は話せるの?」
「ええ、多分問題はないと思います。ロイ様は話せますか?」
「ああ、小さい頃から父に教えてもらっていたから日常会話程度なら大丈夫だ」
そう言って従者と共に荷物を船に詰め込んでいく。
私たちが乗る船は半月一度メルロワード国へ出る旅客船だ。従者と護衛も最低限の人数になっている。
前ブラジェク伯爵のおかげで港が整備され大きな船も出入りできるようになって人々の往来もこうして多くなっている。
四日ほどで隣国に到着する予定だ。
今、メルロワード国の情勢は安定していると父は言っていた。
船は無事出港し、私たちは甲板に出て海風を感じていた。大きな旅客船なので私たち以外にも様々な人たちが船旅を楽しんでいるようだ。
「フラン嬢、風が気持ちいね。僕は旅行したことがないからすごく楽しみなんだ」
「私もほとんど王都から出たことがないのでわくわくしているわ。メルロワード国に着いたら美味しいものを食べたいわ」
「フラン嬢、ずっと聞きたかったんだけど、どうして今更メルロワード国に行こうと思ったの?」
ふわりと風が髪を撫でていく。
彼には本当のことを告げるべきか。
でも、心配をかけたくない。
彼の真剣な眼差しが私の心をぎゅっと掴んでいる。
「ここでは人がいますし、部屋に戻りましょうか」
「ああ、そうだね……」
彼のエスコートで私の部屋へとやってきた。
私たちはソファに座り、ワインを開けた。
「このワインはメルロワード国のサエイド領で採れるブドウで造られているわ。この重厚な香りと複雑な甘みがしっかりと感じられるのが特徴よね」
「美味しいな。フラン嬢はとても物知りでいつも尊敬するよ」
「褒めてもらって嬉しい。私は舌だけには自信があるの」
ロイ様と二人、チーズを口にしながらワインを楽しむ。何者にも邪魔されずに二人で過ごせるのはやはり嬉しい。
エフィン公爵令嬢はというと、あれからよく伯爵家に突撃しては門番に追い返されていた。
何度注意しても効果はないみたい。
最近はロイ様も門番から彼女の名前を聞く度に呆れていて、無視するように指示している。
「ところで、先ほどの話なんだけど……」
「ロイ様にそれ以上の詳しい話をしておられないのですね」
「ああ。我が家の借金がエフィン公爵のものだとは知っているが……」
「私はロイ様とブラジェク伯爵を潰さないのはメルロワード国との約束だからです。当時のエリオット陛下はエフィン公爵が書類を偽造していることは知っていた。
けれど、国内情勢はまだまだ安定していない状況でイェシュティア国の国王に伝える術はなかったの。せめて伯爵家が潰れないようにとエフィン公爵と契約を交わしたはず。
詳しくはエリオット陛下にお会いしないとね。先代様が殺された話もメルロワード国で調べればわかるはずよ」
私の言葉にロイ様のワインを持つ手が震えている。
「メルロワード国にもエフィン公爵家と繋がっている人もいるからロイ様も十分に気を付けて欲しいわ」
「そうだね。メルロワード国では誰が敵なのかも分からない。今まで以上に気を付けないとね」
これ以上彼の負担を増やすべきではないと考えた私は話題を変えることにした。
「ロイ様、メルロワード国の南側は温暖な気候で甘い果実が数多く特産品となっているわ。一つでも多く良い商品をイェシュティアに持ち帰ることができれば良いわね」
「ああ、そうだね。マルローという果実は特に有名だそうだ」
「楽しみね」
こうして船旅を楽しんだ私たちは下船した後、馬車で丸二日かけて王都へたどり着き、ようやく王宮に到着した。
公の場でブラジェク伯爵は華やかな場で商会の宣伝をし、貴族たちに印象付ける。
その裏では次期ブラジェク伯爵であるロイ様は代理として私とメルロワード国に書類を取りに向かう。
私と出会って一年が経った今、ロイ様は見違えるほど素晴らしい男性になっていた。学院での成績も常に上位と肩を並べ、周りからは一目置かれる存在となっている。
領地内には交易していた頃のノウハウが残っていたのでそれがまた良かった。
ロイ様は父親から聞いた事実に身を引き締め、伯爵や領地に残っていた者たちから教えを請い、彼もまた伯爵に相応しい実力を身に着けていった。
商会を立ち上げた当初はやはりエフィン公爵の邪魔もあったが、『借金返済のために動いているのを邪魔するな』と国から窘められ、横やりもなくなった。
夫人の活躍や伯爵の選んだ商品が貴族だけでなく平民からも人気が出始め、商売は軌道に乗り、最近は黒字を出すようになってきている。
「ロイ様、学院の長期休み中とはいえ、お連れして大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。フラン嬢と一緒に旅が出来ると思えば嬉しくてしかたがない」
「私もロイ様と一緒にメルロワード国に行けるなんて楽しみです。商品探しの旅とはいえ、新婚旅行のような感じですね」
「ああ、嬉しいな。そういえばメルロワード国は言葉が違うが、フラン嬢は話せるの?」
「ええ、多分問題はないと思います。ロイ様は話せますか?」
「ああ、小さい頃から父に教えてもらっていたから日常会話程度なら大丈夫だ」
そう言って従者と共に荷物を船に詰め込んでいく。
私たちが乗る船は半月一度メルロワード国へ出る旅客船だ。従者と護衛も最低限の人数になっている。
前ブラジェク伯爵のおかげで港が整備され大きな船も出入りできるようになって人々の往来もこうして多くなっている。
四日ほどで隣国に到着する予定だ。
今、メルロワード国の情勢は安定していると父は言っていた。
船は無事出港し、私たちは甲板に出て海風を感じていた。大きな旅客船なので私たち以外にも様々な人たちが船旅を楽しんでいるようだ。
「フラン嬢、風が気持ちいね。僕は旅行したことがないからすごく楽しみなんだ」
「私もほとんど王都から出たことがないのでわくわくしているわ。メルロワード国に着いたら美味しいものを食べたいわ」
「フラン嬢、ずっと聞きたかったんだけど、どうして今更メルロワード国に行こうと思ったの?」
ふわりと風が髪を撫でていく。
彼には本当のことを告げるべきか。
でも、心配をかけたくない。
彼の真剣な眼差しが私の心をぎゅっと掴んでいる。
「ここでは人がいますし、部屋に戻りましょうか」
「ああ、そうだね……」
彼のエスコートで私の部屋へとやってきた。
私たちはソファに座り、ワインを開けた。
「このワインはメルロワード国のサエイド領で採れるブドウで造られているわ。この重厚な香りと複雑な甘みがしっかりと感じられるのが特徴よね」
「美味しいな。フラン嬢はとても物知りでいつも尊敬するよ」
「褒めてもらって嬉しい。私は舌だけには自信があるの」
ロイ様と二人、チーズを口にしながらワインを楽しむ。何者にも邪魔されずに二人で過ごせるのはやはり嬉しい。
エフィン公爵令嬢はというと、あれからよく伯爵家に突撃しては門番に追い返されていた。
何度注意しても効果はないみたい。
最近はロイ様も門番から彼女の名前を聞く度に呆れていて、無視するように指示している。
「ところで、先ほどの話なんだけど……」
「ロイ様にそれ以上の詳しい話をしておられないのですね」
「ああ。我が家の借金がエフィン公爵のものだとは知っているが……」
「私はロイ様とブラジェク伯爵を潰さないのはメルロワード国との約束だからです。当時のエリオット陛下はエフィン公爵が書類を偽造していることは知っていた。
けれど、国内情勢はまだまだ安定していない状況でイェシュティア国の国王に伝える術はなかったの。せめて伯爵家が潰れないようにとエフィン公爵と契約を交わしたはず。
詳しくはエリオット陛下にお会いしないとね。先代様が殺された話もメルロワード国で調べればわかるはずよ」
私の言葉にロイ様のワインを持つ手が震えている。
「メルロワード国にもエフィン公爵家と繋がっている人もいるからロイ様も十分に気を付けて欲しいわ」
「そうだね。メルロワード国では誰が敵なのかも分からない。今まで以上に気を付けないとね」
これ以上彼の負担を増やすべきではないと考えた私は話題を変えることにした。
「ロイ様、メルロワード国の南側は温暖な気候で甘い果実が数多く特産品となっているわ。一つでも多く良い商品をイェシュティアに持ち帰ることができれば良いわね」
「ああ、そうだね。マルローという果実は特に有名だそうだ」
「楽しみね」
こうして船旅を楽しんだ私たちは下船した後、馬車で丸二日かけて王都へたどり着き、ようやく王宮に到着した。
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