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第十一話 忘れられない恋~元聖王ホアン~
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その日、忘れられない恋になる、とホアンは感じた。
獣王国の王太子である異母弟ヘレミアスと女王国の王女であるカロリーナの結婚式でのことだ。
ホアンは聖王として、その婚姻を認めるためにそこにいた。
父王が番と出会って母を捨てたので、ホアンも王子であることを捨てた。
それでもこの獣王国で一番魔力が強いのはホアンのままだ。
神話時代の龍人族しか持っていなかった、長男と同じ白銀の髪と瞳の父王も、番同士の結婚で生まれた異母弟ヘレミアスも持っていない魔力制御の角を持っているのはホアンだけだ。
だからわかってしまった。
だから気づいてしまった。
番避けの宝石など、なんの妨げにもならなかった。
(私の番……)
そう、カロリーナ王女はホアンの番だった。
運命によって結ばれた、たったひとりの相手だった。
身の内に荒れ狂う熱情をホアンは必死で抑えた。これはだれも幸せにならない恋だと思ったからだ。だってヒト族の王女は少しも気付いていない。
(私の魔力なら彼女を攫える。流れる血液中の魔力で自分の身体を強化して、他者にはその魔力をぶつけることで動きを鈍化させることが出来るのだから。でも……)
祭壇に立つホアンの前で、ヴェールを上げた新郎に口付けを落とされた花嫁は幸せそうだった。
祝福を口にしながら、ホアンの胸が痛む。
痛んで痛んでキリキリと引き千切られるような苦しみを味わって、それでもその心の奥底には温かいものが残っていた。
(ああ、そうか……)
異母弟ヘレミアスの婚約者と親しくすることなどなかった。
そうでなくても獣王国の中には、異母弟よりもホアンのほうが次代の王に相応しいと考えている獣人がいるのだ。
カロリーナ王女の祖国へ移住した祖父の派閥だった人々や番に支配される人生に否を唱える獣人族である。彼らを刺激するつもりはなかった。
そもそも、こんなに近くにいること自体初めてのことであった。
それでもホアンは知っていた。
カロリーナ王女が異母弟ヘレミアスを愛していることを。人並み以上の能力を持っているにもかかわらず、優秀過ぎる母と妹に委縮していた彼女が、異母弟との婚約を機に花開いたことを。愛する相手のために努力して微笑んでいたことを。
神殿は俗世と離れているけれど、俗世と無縁なわけではないのだ。
しかし、なにも知らなかったとしてもホアンがこの場でカロリーナ王女を攫うような暴挙に出ることはなかっただろう。
式が始まってからずっと、白銀の瞳に映る王女はとても幸せそうだったのだ。側妃ペサディリャの存在を気にしながらも、口付けのときまでヴェールで顔が隠れていても、花嫁の足取りは軽く、新郎の隣にいるだけで嬉しいという空気を放っていた。
獣王国の王太子である異母弟ヘレミアスと女王国の王女であるカロリーナの結婚式でのことだ。
ホアンは聖王として、その婚姻を認めるためにそこにいた。
父王が番と出会って母を捨てたので、ホアンも王子であることを捨てた。
それでもこの獣王国で一番魔力が強いのはホアンのままだ。
神話時代の龍人族しか持っていなかった、長男と同じ白銀の髪と瞳の父王も、番同士の結婚で生まれた異母弟ヘレミアスも持っていない魔力制御の角を持っているのはホアンだけだ。
だからわかってしまった。
だから気づいてしまった。
番避けの宝石など、なんの妨げにもならなかった。
(私の番……)
そう、カロリーナ王女はホアンの番だった。
運命によって結ばれた、たったひとりの相手だった。
身の内に荒れ狂う熱情をホアンは必死で抑えた。これはだれも幸せにならない恋だと思ったからだ。だってヒト族の王女は少しも気付いていない。
(私の魔力なら彼女を攫える。流れる血液中の魔力で自分の身体を強化して、他者にはその魔力をぶつけることで動きを鈍化させることが出来るのだから。でも……)
祭壇に立つホアンの前で、ヴェールを上げた新郎に口付けを落とされた花嫁は幸せそうだった。
祝福を口にしながら、ホアンの胸が痛む。
痛んで痛んでキリキリと引き千切られるような苦しみを味わって、それでもその心の奥底には温かいものが残っていた。
(ああ、そうか……)
異母弟ヘレミアスの婚約者と親しくすることなどなかった。
そうでなくても獣王国の中には、異母弟よりもホアンのほうが次代の王に相応しいと考えている獣人がいるのだ。
カロリーナ王女の祖国へ移住した祖父の派閥だった人々や番に支配される人生に否を唱える獣人族である。彼らを刺激するつもりはなかった。
そもそも、こんなに近くにいること自体初めてのことであった。
それでもホアンは知っていた。
カロリーナ王女が異母弟ヘレミアスを愛していることを。人並み以上の能力を持っているにもかかわらず、優秀過ぎる母と妹に委縮していた彼女が、異母弟との婚約を機に花開いたことを。愛する相手のために努力して微笑んでいたことを。
神殿は俗世と離れているけれど、俗世と無縁なわけではないのだ。
しかし、なにも知らなかったとしてもホアンがこの場でカロリーナ王女を攫うような暴挙に出ることはなかっただろう。
式が始まってからずっと、白銀の瞳に映る王女はとても幸せそうだったのだ。側妃ペサディリャの存在を気にしながらも、口付けのときまでヴェールで顔が隠れていても、花嫁の足取りは軽く、新郎の隣にいるだけで嬉しいという空気を放っていた。
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