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第一話 ベッリーニ侯爵子息オルランド
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オルランドがアレッシアと出会ったのは、とある伯爵家の夜会でのことだった。
当時のオルランドは王国騎士団の平団員だった。
夜会と聞けば顔を出すネーリ男爵夫人に違法の麻薬密売の疑いがかかっていて、彼女の動向を監視するために騎士団員としてではなく、実家のベッリーニ侯爵家の次男として出席していたのだ。
ネーリ男爵夫人は、いつものように若い青年貴族や貴族子息達に取り囲まれていた。
彼女は昔からそうだ。
オルランドは彼女と同世代ではないが、彼女と同世代の隊長から聞いている。この王国の貴族子女が通う学園でも彼女は男達に取り囲まれていたと。
結局そのせいで本来の婚約者には捨てられて、行商人から成り上がったネーリ男爵のもとへ嫁いだ彼女は、今も若くて見目の良い男達に取り囲まれて満足そうである。
しかしね、と言った隊長の声をオルランドは思い出す。
若くて可愛らしい貴族令嬢だったころならともかく、今の彼女には男達を惹きつけるほどの魅力はない。元は良かったので誠実に生きていれば今も美貌が残っていたかもしれないけれど、若いときの荒淫の結果は厚化粧でも隠せていなかった。
ネーリ男爵家はジョルダーノ辺境伯家の寄子貴族だ。
ジョルダーノ辺境伯家はこの王国でもかなりの権勢を誇っている。それゆえ寄子貴族はたくさんいる。親族でもないネーリ男爵家を特別扱いしたりはしていない。
成り上がりといっても末端貴族に相応しい程度の活躍しか見せていないネーリ男爵家は、わざわざ若い青年貴族や貴族子息が夫人に擦り寄って縁を結びたいと思うほどの権威も財力も持ち合わせていなかった。
それでも男達がネーリ男爵夫人を取り囲んでいるのだから、そこにはなにかがある。
若いころなら体目当てだったかもしれないが、今は間違いなくほかの目当てがあるはずだ。
それは麻薬に違いない、と隊長は言うのだった。この国では禁止されている麻薬をネーリ男爵が行商人のころの伝手で手に入れて、妻を通じて売りさばいているのではないかと。そもそも成り上がったときの金も、そういった後ろ暗い商売で手に入れたのではないかと隊長は疑っていた。
嬉し気に若い男達とダンスをしているネーリ男爵夫人を見張るため、オルランドは夜会会場の壁に張り付いていた。
数人の貴族令嬢が切なげにオルランドを見るが、オルランドにダンスを申し込みに来ることはない。
オルランドが監視任務を与えられていることを知っているのではなく、申し込んでも断られることを知っているのだ。
白銀の髪に青灰色の瞳、幼いころから彫刻のように整った美貌で知られていたオルランドは、女性嫌いでも知られていた。
いや、嫌いというのとは少し違う。
オルランドは女性に興味がなかった。恋愛遊戯を楽しむよりも、剣の腕を磨き自分を高めることをなにより好んでいたのだった。それは上と年の離れた末っ子次男に生まれ、両親や兄、姉達に可愛い可愛いと甘やかされて育った反動だったのかもしれない。
「……っ」
鼻を啜る音に気づいて、オルランドは隣を見た。
隣には壁の花がいた。
壁の花令嬢は夜会の初めに婚約者と別れてから、ずっとオルランドの隣にいる。いるものの、オルランドの存在には気づいていないかもしれない。彼女の緑色の瞳はずっと、ネーリ男爵夫人を取り囲む輪の中へ入っていった婚約者を見つめていた。
当時のオルランドは王国騎士団の平団員だった。
夜会と聞けば顔を出すネーリ男爵夫人に違法の麻薬密売の疑いがかかっていて、彼女の動向を監視するために騎士団員としてではなく、実家のベッリーニ侯爵家の次男として出席していたのだ。
ネーリ男爵夫人は、いつものように若い青年貴族や貴族子息達に取り囲まれていた。
彼女は昔からそうだ。
オルランドは彼女と同世代ではないが、彼女と同世代の隊長から聞いている。この王国の貴族子女が通う学園でも彼女は男達に取り囲まれていたと。
結局そのせいで本来の婚約者には捨てられて、行商人から成り上がったネーリ男爵のもとへ嫁いだ彼女は、今も若くて見目の良い男達に取り囲まれて満足そうである。
しかしね、と言った隊長の声をオルランドは思い出す。
若くて可愛らしい貴族令嬢だったころならともかく、今の彼女には男達を惹きつけるほどの魅力はない。元は良かったので誠実に生きていれば今も美貌が残っていたかもしれないけれど、若いときの荒淫の結果は厚化粧でも隠せていなかった。
ネーリ男爵家はジョルダーノ辺境伯家の寄子貴族だ。
ジョルダーノ辺境伯家はこの王国でもかなりの権勢を誇っている。それゆえ寄子貴族はたくさんいる。親族でもないネーリ男爵家を特別扱いしたりはしていない。
成り上がりといっても末端貴族に相応しい程度の活躍しか見せていないネーリ男爵家は、わざわざ若い青年貴族や貴族子息が夫人に擦り寄って縁を結びたいと思うほどの権威も財力も持ち合わせていなかった。
それでも男達がネーリ男爵夫人を取り囲んでいるのだから、そこにはなにかがある。
若いころなら体目当てだったかもしれないが、今は間違いなくほかの目当てがあるはずだ。
それは麻薬に違いない、と隊長は言うのだった。この国では禁止されている麻薬をネーリ男爵が行商人のころの伝手で手に入れて、妻を通じて売りさばいているのではないかと。そもそも成り上がったときの金も、そういった後ろ暗い商売で手に入れたのではないかと隊長は疑っていた。
嬉し気に若い男達とダンスをしているネーリ男爵夫人を見張るため、オルランドは夜会会場の壁に張り付いていた。
数人の貴族令嬢が切なげにオルランドを見るが、オルランドにダンスを申し込みに来ることはない。
オルランドが監視任務を与えられていることを知っているのではなく、申し込んでも断られることを知っているのだ。
白銀の髪に青灰色の瞳、幼いころから彫刻のように整った美貌で知られていたオルランドは、女性嫌いでも知られていた。
いや、嫌いというのとは少し違う。
オルランドは女性に興味がなかった。恋愛遊戯を楽しむよりも、剣の腕を磨き自分を高めることをなにより好んでいたのだった。それは上と年の離れた末っ子次男に生まれ、両親や兄、姉達に可愛い可愛いと甘やかされて育った反動だったのかもしれない。
「……っ」
鼻を啜る音に気づいて、オルランドは隣を見た。
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壁の花令嬢は夜会の初めに婚約者と別れてから、ずっとオルランドの隣にいる。いるものの、オルランドの存在には気づいていないかもしれない。彼女の緑色の瞳はずっと、ネーリ男爵夫人を取り囲む輪の中へ入っていった婚約者を見つめていた。
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