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第二話 マンチーニ子爵令嬢アレッシア
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泣いている壁の花令嬢を見て、オルランドは気づいた。
(一緒にいたメイドがいないな)
ネーリ男爵夫人はまだ夜会会場にいるのだが、彼女を取り囲んでいた男達は何人か姿を消していた。
隊長の推理が当たっていたとしたら、夫人から密かに購入した麻薬を裏庭や休憩室で楽しんでいるのかもしれない。
メイドは隣の壁の花令嬢のために婚約者を探しに行ったのだろう。ひとり残された壁の花令嬢は、自分の指で零れ落ちる涙を拭った。
(……美しいな)
緑色の瞳からあふれる透明な涙は夜会会場の照明を浴びて、水晶のように輝いていた。
オルランドは壁の花令嬢のことを知っていた。
マンチーニ子爵家の令嬢アレッシアだ。直接の知り合いではないけれど、ジョルダーノ辺境伯家次男のイザッコの婚約者であることから知識として頭に入れていた。
この王国では珍しくない茶色い髪と緑色の瞳を持つ地味な印象の令嬢だ。
彼女がジョルダーノ辺境伯家次男と婚約しているのは恋愛によるものではなく、マンチーニ子爵家が裕福だからだ。ジョルダーノ辺境伯家は権勢を誇っているからこそ、資金を必要としているのである。
そしてジョルダーノ辺境伯家次男イザッコは、ネーリ男爵夫人の取り巻きのひとりだった。
(あの男、最初のダンスを婚約者とではなくネーリ男爵夫人と踊っていたな)
ネーリ男爵夫人はそういったことを好む。
学園時代も婚約者のいる男を誑かして、相手の女性にわざと見せつけるような行為をしていたらしい。
結局それで自分の婚約者には捨てられてしまったのだが、今の夫が麻薬密売の手先として妻を利用しているのならば、客との行為に嫉妬するようなことはないだろう。
「……」
涙を拭いても赤く充血した目で、マンチーニ子爵令嬢はなにかを決意したような表情になる。先ほどの涙とは違う凛とした美しさに、オルランドは思わず息を止めた。
彼女は最初から最後までオルランドには視線を送らずに去っていった。
婚約者を探しに行ったのかもしれない。
(あの男が麻薬に興じていたとしたら危険だな……)
そう思いはしたものの、オルランドはこの場を離れられない。
ここでネーリ男爵夫人を監視するのがオルランドの役目なのである。
消えた男達はほかの団員や団員の従者達が尾行している。壁の花令嬢の婚約者は自分の従者が尾行していたから、なにかあっても大丈夫だろうと自分に言い聞かせながら、オルランドは役目を全うした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──後に、オルランドは自分の従者ウーゴから彼が尾行していたジョルダーノ辺境伯家次男が裏庭で婚約者のメイドと睦み合っていたと聞いた。
途中でマンチーニ子爵令嬢が現れて、大変な騒ぎになったのだという。
それがネーリ男爵夫人と関係あるのかどうかは、このときはまだわからなかった。
子爵令嬢は婚約を解消したりはせず、そのままジョルダーノ辺境伯家次男と結婚した。
辺境伯家次男がマンチーニ子爵家に婿入りしたのだ。
浮気相手のメイドを追い出すだけで事を収めたのだろう。
オルランドが次にマンチーニ子爵家の令嬢、そのときは父を亡くして子爵家の当主となっていたアレッシアと会ったのは、それから五年後のことだった。
王都にあるマンチーニ子爵邸が火災で焼け落ちたのを調査に行ったのだ。
アレッシアは黒焦げの遺体となっていた。
(一緒にいたメイドがいないな)
ネーリ男爵夫人はまだ夜会会場にいるのだが、彼女を取り囲んでいた男達は何人か姿を消していた。
隊長の推理が当たっていたとしたら、夫人から密かに購入した麻薬を裏庭や休憩室で楽しんでいるのかもしれない。
メイドは隣の壁の花令嬢のために婚約者を探しに行ったのだろう。ひとり残された壁の花令嬢は、自分の指で零れ落ちる涙を拭った。
(……美しいな)
緑色の瞳からあふれる透明な涙は夜会会場の照明を浴びて、水晶のように輝いていた。
オルランドは壁の花令嬢のことを知っていた。
マンチーニ子爵家の令嬢アレッシアだ。直接の知り合いではないけれど、ジョルダーノ辺境伯家次男のイザッコの婚約者であることから知識として頭に入れていた。
この王国では珍しくない茶色い髪と緑色の瞳を持つ地味な印象の令嬢だ。
彼女がジョルダーノ辺境伯家次男と婚約しているのは恋愛によるものではなく、マンチーニ子爵家が裕福だからだ。ジョルダーノ辺境伯家は権勢を誇っているからこそ、資金を必要としているのである。
そしてジョルダーノ辺境伯家次男イザッコは、ネーリ男爵夫人の取り巻きのひとりだった。
(あの男、最初のダンスを婚約者とではなくネーリ男爵夫人と踊っていたな)
ネーリ男爵夫人はそういったことを好む。
学園時代も婚約者のいる男を誑かして、相手の女性にわざと見せつけるような行為をしていたらしい。
結局それで自分の婚約者には捨てられてしまったのだが、今の夫が麻薬密売の手先として妻を利用しているのならば、客との行為に嫉妬するようなことはないだろう。
「……」
涙を拭いても赤く充血した目で、マンチーニ子爵令嬢はなにかを決意したような表情になる。先ほどの涙とは違う凛とした美しさに、オルランドは思わず息を止めた。
彼女は最初から最後までオルランドには視線を送らずに去っていった。
婚約者を探しに行ったのかもしれない。
(あの男が麻薬に興じていたとしたら危険だな……)
そう思いはしたものの、オルランドはこの場を離れられない。
ここでネーリ男爵夫人を監視するのがオルランドの役目なのである。
消えた男達はほかの団員や団員の従者達が尾行している。壁の花令嬢の婚約者は自分の従者が尾行していたから、なにかあっても大丈夫だろうと自分に言い聞かせながら、オルランドは役目を全うした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──後に、オルランドは自分の従者ウーゴから彼が尾行していたジョルダーノ辺境伯家次男が裏庭で婚約者のメイドと睦み合っていたと聞いた。
途中でマンチーニ子爵令嬢が現れて、大変な騒ぎになったのだという。
それがネーリ男爵夫人と関係あるのかどうかは、このときはまだわからなかった。
子爵令嬢は婚約を解消したりはせず、そのままジョルダーノ辺境伯家次男と結婚した。
辺境伯家次男がマンチーニ子爵家に婿入りしたのだ。
浮気相手のメイドを追い出すだけで事を収めたのだろう。
オルランドが次にマンチーニ子爵家の令嬢、そのときは父を亡くして子爵家の当主となっていたアレッシアと会ったのは、それから五年後のことだった。
王都にあるマンチーニ子爵邸が火災で焼け落ちたのを調査に行ったのだ。
アレッシアは黒焦げの遺体となっていた。
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