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第三話 従者ウーゴ
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この王国では、犯罪を未然に防ぐための見回りや取り締まりは衛兵がおこない、起こった後の犯罪捜査は騎士団がおこなう。
王国騎士団には実家の跡取りではなかった貴族子息が多いため、犯罪に貴族が関わっていても対応しやすいからだ。
夜会から五年経って副隊長になっていたオルランドは、隊長に頼み込んでマンチーニ子爵邸の火災調査の担当にしてもらった。
マンチーニ子爵邸の火災は放火だった。
当主アレッシアの入り婿であった元ジョルダーノ辺境伯家次男イザッコの愛人、元メイドのファータが火を付けたのだ。
黒焦げの遺体となっていたアレッシアは火災前にファータに腹を刺され、動けないでいたところを焼け死んだようだ。先代マンチーニ子爵の死にもイザッコとファータが関わっていたことがわかった。
そしてここで、ネーリ男爵夫人に若い青年貴族や貴族子息が群がっていたわけも判明した。
彼らは麻薬を購入していたのではなく、ネーリ男爵夫人の存在を利用して愛人と会っていたのだ。
配偶者や婚約者に責められても、男爵夫人と恋愛関係になんかなるはずがない、友達が集まっていたから自分も行っていただけだ、と誤魔化していたらしい。
それは事実だったが、真相はそれだけではなかった。
昇進を勧められながらも小さな隊の隊長として現場に残っていた上司の執念で、夫人を利用したネーリ男爵の企みはやがて白日の下に晒された。
オルランドの上司がネーリ男爵夫人にこだわり続けていたのは、学園時代に彼の妻が男爵夫人のせいで婚約を破棄されたからだという。そのおかげで自分の妻に出来たといっても、他人の幸せを打ち砕いた男爵夫人が罰を受けずに野放しにされていることが許せなかったのだそうだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マンチーニ子爵邸の火災から五年が過ぎた。
夜会からは十年である。
ネーリ男爵夫人とその夫の罪を暴いて念願を果たしたオルランドの上司は、かねてからの要請に応えて王国騎士団の幹部に昇進し、その跡は副隊長だったオルランドが継いでいた。
隊長となったオルランドは詐欺事件を追っていた。
祭りなどの露店で、不思議な力があると称してガラクタを高値で売り付けていた男がいるのだ。
その日のオルランドは騎士団の倉庫で、従者のウーゴとともに被害者から押収した物品を調べていた。
「オルランド様は結婚なさらないんですか?」
「無駄口を叩くな」
「そうはおっしゃいますけどねー、私は喋りながらでも絵が描けますし、オルランド様は私が絵を書き終えるまですることないじゃないですか。教えてくださいよー。ご実家のご両親やお兄様方、オルランド様と私が恋仲なのではないかと疑っているんですよ?」
「お前には恋人がいるだろうが」
「ええ、いますよ! 五年前の火災調査の際に知り合った恋人が! でもその恋人にも疑われているんですよ! 大切な主人を失った悲しみから、やっと立ち直ってくれた愛しいヨランダに! お兄様にもお姉様にもお子様がたくさんいらっしゃいますから結婚はしないとしても、オルランド様も恋人を作るとか娼館へ行くとかしてください!」
「……」
「あーあー。だんまりですかー?」
軽口を叩きながら、ウーゴは押収品の絵を描いていく。
被害者からの調書と照らし合わせて、絵の横に詐欺師が語ったホラを記入していくのはオルランドの仕事だ。
とりあえず一枚の絵が完成したので、オルランドはそれを受け取った。
「実際のところどうなんですか? 女性と男性どちらがお好きなんですか? もしかして前の隊長様をお好きだったとか?」
「そんなわけがないだろう!」
「それにしちゃ前の隊長様がいらしたころは異常に仕事熱心だったじゃないですか。前の隊長様のためだったんじゃないですかー?……あ、早く追い出して隊長になりたかったとか?」
しつこいウーゴの言葉に、オルランドの脳裏で蘇るものがあった。
火災事件の調査の最中、ずっと心から離れなかった光景だ。
「……ハンカチも渡せなかったから……」
「は?」
王国騎士団には実家の跡取りではなかった貴族子息が多いため、犯罪に貴族が関わっていても対応しやすいからだ。
夜会から五年経って副隊長になっていたオルランドは、隊長に頼み込んでマンチーニ子爵邸の火災調査の担当にしてもらった。
マンチーニ子爵邸の火災は放火だった。
当主アレッシアの入り婿であった元ジョルダーノ辺境伯家次男イザッコの愛人、元メイドのファータが火を付けたのだ。
黒焦げの遺体となっていたアレッシアは火災前にファータに腹を刺され、動けないでいたところを焼け死んだようだ。先代マンチーニ子爵の死にもイザッコとファータが関わっていたことがわかった。
そしてここで、ネーリ男爵夫人に若い青年貴族や貴族子息が群がっていたわけも判明した。
彼らは麻薬を購入していたのではなく、ネーリ男爵夫人の存在を利用して愛人と会っていたのだ。
配偶者や婚約者に責められても、男爵夫人と恋愛関係になんかなるはずがない、友達が集まっていたから自分も行っていただけだ、と誤魔化していたらしい。
それは事実だったが、真相はそれだけではなかった。
昇進を勧められながらも小さな隊の隊長として現場に残っていた上司の執念で、夫人を利用したネーリ男爵の企みはやがて白日の下に晒された。
オルランドの上司がネーリ男爵夫人にこだわり続けていたのは、学園時代に彼の妻が男爵夫人のせいで婚約を破棄されたからだという。そのおかげで自分の妻に出来たといっても、他人の幸せを打ち砕いた男爵夫人が罰を受けずに野放しにされていることが許せなかったのだそうだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マンチーニ子爵邸の火災から五年が過ぎた。
夜会からは十年である。
ネーリ男爵夫人とその夫の罪を暴いて念願を果たしたオルランドの上司は、かねてからの要請に応えて王国騎士団の幹部に昇進し、その跡は副隊長だったオルランドが継いでいた。
隊長となったオルランドは詐欺事件を追っていた。
祭りなどの露店で、不思議な力があると称してガラクタを高値で売り付けていた男がいるのだ。
その日のオルランドは騎士団の倉庫で、従者のウーゴとともに被害者から押収した物品を調べていた。
「オルランド様は結婚なさらないんですか?」
「無駄口を叩くな」
「そうはおっしゃいますけどねー、私は喋りながらでも絵が描けますし、オルランド様は私が絵を書き終えるまですることないじゃないですか。教えてくださいよー。ご実家のご両親やお兄様方、オルランド様と私が恋仲なのではないかと疑っているんですよ?」
「お前には恋人がいるだろうが」
「ええ、いますよ! 五年前の火災調査の際に知り合った恋人が! でもその恋人にも疑われているんですよ! 大切な主人を失った悲しみから、やっと立ち直ってくれた愛しいヨランダに! お兄様にもお姉様にもお子様がたくさんいらっしゃいますから結婚はしないとしても、オルランド様も恋人を作るとか娼館へ行くとかしてください!」
「……」
「あーあー。だんまりですかー?」
軽口を叩きながら、ウーゴは押収品の絵を描いていく。
被害者からの調書と照らし合わせて、絵の横に詐欺師が語ったホラを記入していくのはオルランドの仕事だ。
とりあえず一枚の絵が完成したので、オルランドはそれを受け取った。
「実際のところどうなんですか? 女性と男性どちらがお好きなんですか? もしかして前の隊長様をお好きだったとか?」
「そんなわけがないだろう!」
「それにしちゃ前の隊長様がいらしたころは異常に仕事熱心だったじゃないですか。前の隊長様のためだったんじゃないですかー?……あ、早く追い出して隊長になりたかったとか?」
しつこいウーゴの言葉に、オルランドの脳裏で蘇るものがあった。
火災事件の調査の最中、ずっと心から離れなかった光景だ。
「……ハンカチも渡せなかったから……」
「は?」
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