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第三話 テオ
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「……わかったわ。テオを呼んできます。あの子の闇魔術なら、無数のスズメバチを眠らせることも出来るはずよ」
そう言って、テッサ様と侍女達が走っていきます。
幸いこのお茶会の場にほかの生徒達の姿はありませんでした。
……良かった。布越しに私が刺され始めていることには気づかれなかったようです。痛みはありますが、布越しで傷が浅いせいか、すぐ命が亡くなるようなことはなさそうです。
婚約破棄をされて死を選んだ私が、こうして大切な人を救える瞬間に戻ってこられるだなんて、なんて幸せなことでしょう。
何度となく刺されたせいか、少し頭が痛くなってきました。呼吸も苦しくなってきた気もします。
でも少しだけ、後少しだけ、テオ様がいらっしゃるまで命が続けば、どれほど嬉しいかしれません。
テッサ様の義弟、闇魔術を操るテオ様こそが私が初めて恋した方でした。
婚約者の王太子殿下に愛されたいと望んでいましたけれど、初対面のときから妹を愛している彼に恋することは出来なかったのです。
愛する努力はしていましたが、それでも……そんな人間だから愛されなかったのでしょう。だれにも愛されることがなかったから、愛することがわからなかったのでしょう。
「ソフィー嬢!」
力を失った頭が袋の上に落ちていきます。薄れていく意識の中、卒業パーティで窓から飛び降りたときに聞こえたのと同じ声が聞こえた気がしました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
テオ様はテッサ様の従弟に当たります。
ひとつ年下の彼は、妻子ある方との禁断の恋に落ちたテッサ様の叔母様のお子様です。
年若かった彼女は出産に耐え切れずお亡くなりになり、彼はまだ子どもがいなかった父親に引き取られました。
とはいえ、父親の正妻が彼を歓迎するはずがありません。
激しい虐待を受けた彼は隠れたり眠りを呼び込んだりすることに長けた闇魔術に目覚め、そんな魔術を使う人間はうちの血筋ではないと言われて、テッサ様のお宅へと返されたのだそうです。
魔術は系統ごとに特徴が違い、人間の精神に働きかける闇魔術は悪事への応用が容易だということで嫌われているのです。才があっても秘密にしている方がほとんどだとか。スズメバチの巣を布袋へ入れてお茶会の場へ放り込んだ男爵令嬢も闇魔術の才があったのではないかと、後で言われていました。
テオ様はテッサ様と同じ黒い髪に紫の瞳でした。
とても整ったお顔なのに、いつも不機嫌そうな表情で周囲を睨みつけています。
口が悪くて皮肉屋だと評判です。きっとテッサ様と同じで、なんでもはっきりと口に出される方なのです。
彼は、不眠症だった私のために眠りの魔術をかけたラベンダーの香りの人形を作ってくださいました。
『眠りたいのに眠れないことってあるよね。考えたくもない、嫌なことばかりが頭に蘇って、今はもう大丈夫なのに、どうしても過去の記憶から逃れられなくて。……僕の闇魔術はね、自分を眠らせるために目覚めたんだよ』
人形を渡してくださいながら寂しそうに微笑んだ彼に、私は恋をしたのです。
愛されていなくても、王太子殿下の婚約者である私にとって、生涯口にすることの出来ない想いでした。そもそも身勝手で一方的な恋なら出来ましたが、家族にも愛されなかった私が互いに想い合う愛を抱ける日が来るとも思えません。
スズメバチのせいでテッサ様がお亡くなりになってから、お会いすること自体が無くなりました。
……テオ様はテッサ様を慕っていらしたのだと思います。
私にとってそうだったように、テオ様にとってもテッサ様は生きていくために必要な希望の光だったのでしょう。
優しさで言葉を濁されるよりも、はっきりと口に出されたほうが楽になる。そんなときもあるのです。
そう言って、テッサ様と侍女達が走っていきます。
幸いこのお茶会の場にほかの生徒達の姿はありませんでした。
……良かった。布越しに私が刺され始めていることには気づかれなかったようです。痛みはありますが、布越しで傷が浅いせいか、すぐ命が亡くなるようなことはなさそうです。
婚約破棄をされて死を選んだ私が、こうして大切な人を救える瞬間に戻ってこられるだなんて、なんて幸せなことでしょう。
何度となく刺されたせいか、少し頭が痛くなってきました。呼吸も苦しくなってきた気もします。
でも少しだけ、後少しだけ、テオ様がいらっしゃるまで命が続けば、どれほど嬉しいかしれません。
テッサ様の義弟、闇魔術を操るテオ様こそが私が初めて恋した方でした。
婚約者の王太子殿下に愛されたいと望んでいましたけれど、初対面のときから妹を愛している彼に恋することは出来なかったのです。
愛する努力はしていましたが、それでも……そんな人間だから愛されなかったのでしょう。だれにも愛されることがなかったから、愛することがわからなかったのでしょう。
「ソフィー嬢!」
力を失った頭が袋の上に落ちていきます。薄れていく意識の中、卒業パーティで窓から飛び降りたときに聞こえたのと同じ声が聞こえた気がしました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
テオ様はテッサ様の従弟に当たります。
ひとつ年下の彼は、妻子ある方との禁断の恋に落ちたテッサ様の叔母様のお子様です。
年若かった彼女は出産に耐え切れずお亡くなりになり、彼はまだ子どもがいなかった父親に引き取られました。
とはいえ、父親の正妻が彼を歓迎するはずがありません。
激しい虐待を受けた彼は隠れたり眠りを呼び込んだりすることに長けた闇魔術に目覚め、そんな魔術を使う人間はうちの血筋ではないと言われて、テッサ様のお宅へと返されたのだそうです。
魔術は系統ごとに特徴が違い、人間の精神に働きかける闇魔術は悪事への応用が容易だということで嫌われているのです。才があっても秘密にしている方がほとんどだとか。スズメバチの巣を布袋へ入れてお茶会の場へ放り込んだ男爵令嬢も闇魔術の才があったのではないかと、後で言われていました。
テオ様はテッサ様と同じ黒い髪に紫の瞳でした。
とても整ったお顔なのに、いつも不機嫌そうな表情で周囲を睨みつけています。
口が悪くて皮肉屋だと評判です。きっとテッサ様と同じで、なんでもはっきりと口に出される方なのです。
彼は、不眠症だった私のために眠りの魔術をかけたラベンダーの香りの人形を作ってくださいました。
『眠りたいのに眠れないことってあるよね。考えたくもない、嫌なことばかりが頭に蘇って、今はもう大丈夫なのに、どうしても過去の記憶から逃れられなくて。……僕の闇魔術はね、自分を眠らせるために目覚めたんだよ』
人形を渡してくださいながら寂しそうに微笑んだ彼に、私は恋をしたのです。
愛されていなくても、王太子殿下の婚約者である私にとって、生涯口にすることの出来ない想いでした。そもそも身勝手で一方的な恋なら出来ましたが、家族にも愛されなかった私が互いに想い合う愛を抱ける日が来るとも思えません。
スズメバチのせいでテッサ様がお亡くなりになってから、お会いすること自体が無くなりました。
……テオ様はテッサ様を慕っていらしたのだと思います。
私にとってそうだったように、テオ様にとってもテッサ様は生きていくために必要な希望の光だったのでしょう。
優しさで言葉を濁されるよりも、はっきりと口に出されたほうが楽になる。そんなときもあるのです。
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