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第二話 テッサ
「テッサ様、テッサ様、テッサ様」
「どうしたの、ソフィー! 私が王太子殿下の悪口を言ったから? 貴女には悪いけれど本当のことよ。あの男はお莫迦だわ。でも貴女が責任を感じることはないのよ?」
私は泣きながら首を横に振りました。
違うのです。今は王太子殿下のことなど考えていません。
もう二度と会えないと思っていたテッサ様とお会い出来たこと、そのことが嬉しくて涙が止まらないのです。だって、テッサ様は──
「あら? お嬢様、あれはなんでしょうか」
「だれかの落し物かもしれないわね」
テッサ様の侍女がいつの間にか近くに転がっていた布袋に気づきました。
見覚えがあります。
ああ、まさか今があの日だったなんて! いいえ、あの日なら好都合です。
「触らないで!」
私は布袋を拾おうとしたテッサ様の侍女を止めました。
「その袋にはスズメバチの巣が入っています。今は眠っていますが、動かしたら目覚めてしまいます。以前スズメバチに刺されたことのあるテッサ様がもう一度刺されたら危険です」
「ひぃっ!」
テッサ様の侍女は小さく悲鳴を上げて布袋から離れましたが、少し持ち上げて落としたせいか、袋の中から嫌な羽音が聞こえ出しました。
内側のなにかが布にぶつかっているのがわかります。
私達は視線を合わせて頷き合い、その場を離れることにしました。早く虫を鎮める魔術を持つ方を呼んでこなければいけません。小さくて数の多いスズメバチが相手では、魔獣や暴漢に対峙するときのような攻撃魔術はすり抜けてしまうのです。
「あ!」
布袋の小さな破れに気づいた私は、蠢くそれに慌てて覆い被さりました。
「ソフィー、貴女!」
「布が破れていたのです。スズメバチは黒いものを狙います。黒髪のテッサ様は一刻も早くお逃げください」
私が知っている未来では、侍女が開けた布袋からスズメバチが飛び出し、黒髪のテッサ様が集中的に刺されてしまったのです。以前刺されたこともあり、テッサ様はお亡くなりになってしまいました。
テッサ様と私のお茶会の場にこんな布袋を投げ入れたのは、とある男爵令嬢でした。
彼女は私達より二学年下で、私の妹の取り巻きのひとりでした。
この魔術学園での私は、妹と王太子殿下の真実の愛を邪魔する悪女です。
……王太子殿下のお心が自分にないことを知っている私が婚約解消を申し出ても、許してくださらなかったのは王家のほうなのですけれどね。
公爵令嬢のテッサ様でなく私が王太子殿下の婚約者に選ばれていたのには、私の実母の実家に由来する理由もあったのです。卒業パーティの前夜に自分の出生を知るまでは、妹の母親が自分の母でもあると思っていたので、どうして妹では駄目なのだろうと不思議に思っていたものです。
ともあれ男爵令嬢は義憤に駆られて、このようなおこないを為したのでしょう。
卒業パーティで窓から飛び降りた私と同じように、正しい真実の愛が実ることを夢見て。
彼女はその後自害したと聞いています。
「どうしたの、ソフィー! 私が王太子殿下の悪口を言ったから? 貴女には悪いけれど本当のことよ。あの男はお莫迦だわ。でも貴女が責任を感じることはないのよ?」
私は泣きながら首を横に振りました。
違うのです。今は王太子殿下のことなど考えていません。
もう二度と会えないと思っていたテッサ様とお会い出来たこと、そのことが嬉しくて涙が止まらないのです。だって、テッサ様は──
「あら? お嬢様、あれはなんでしょうか」
「だれかの落し物かもしれないわね」
テッサ様の侍女がいつの間にか近くに転がっていた布袋に気づきました。
見覚えがあります。
ああ、まさか今があの日だったなんて! いいえ、あの日なら好都合です。
「触らないで!」
私は布袋を拾おうとしたテッサ様の侍女を止めました。
「その袋にはスズメバチの巣が入っています。今は眠っていますが、動かしたら目覚めてしまいます。以前スズメバチに刺されたことのあるテッサ様がもう一度刺されたら危険です」
「ひぃっ!」
テッサ様の侍女は小さく悲鳴を上げて布袋から離れましたが、少し持ち上げて落としたせいか、袋の中から嫌な羽音が聞こえ出しました。
内側のなにかが布にぶつかっているのがわかります。
私達は視線を合わせて頷き合い、その場を離れることにしました。早く虫を鎮める魔術を持つ方を呼んでこなければいけません。小さくて数の多いスズメバチが相手では、魔獣や暴漢に対峙するときのような攻撃魔術はすり抜けてしまうのです。
「あ!」
布袋の小さな破れに気づいた私は、蠢くそれに慌てて覆い被さりました。
「ソフィー、貴女!」
「布が破れていたのです。スズメバチは黒いものを狙います。黒髪のテッサ様は一刻も早くお逃げください」
私が知っている未来では、侍女が開けた布袋からスズメバチが飛び出し、黒髪のテッサ様が集中的に刺されてしまったのです。以前刺されたこともあり、テッサ様はお亡くなりになってしまいました。
テッサ様と私のお茶会の場にこんな布袋を投げ入れたのは、とある男爵令嬢でした。
彼女は私達より二学年下で、私の妹の取り巻きのひとりでした。
この魔術学園での私は、妹と王太子殿下の真実の愛を邪魔する悪女です。
……王太子殿下のお心が自分にないことを知っている私が婚約解消を申し出ても、許してくださらなかったのは王家のほうなのですけれどね。
公爵令嬢のテッサ様でなく私が王太子殿下の婚約者に選ばれていたのには、私の実母の実家に由来する理由もあったのです。卒業パーティの前夜に自分の出生を知るまでは、妹の母親が自分の母でもあると思っていたので、どうして妹では駄目なのだろうと不思議に思っていたものです。
ともあれ男爵令嬢は義憤に駆られて、このようなおこないを為したのでしょう。
卒業パーティで窓から飛び降りた私と同じように、正しい真実の愛が実ることを夢見て。
彼女はその後自害したと聞いています。
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