今日は私の結婚式

豆狸

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第五話 アレンスキー女伯爵

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 屋根裏部屋の死体は私が殺したものだという愚かな父の言いがかり──
 私の代わりに、王女殿下が真実を明かしてくださいました。

「あれは私がレーナに預かってもらったのよ」
「は?」
「彼女は殺人事件の被害者で、もう衛兵が犯人も捕らえているわ。だけど死体安置室がいっぱいだったから、田舎にいる家族が迎えに来るまでの間、あれ以上腐らないように腐敗の恩恵ギフトを授かっているレーナに保管を頼んだの」

 彼女に私のドレスを着せたのは、王女殿下の悪趣味です。

「どうしてそんなことを……」
「そうねえ。ただレーナがいないだけだったら、アレンスキー伯爵邸の秘密の抜け道で逃げ出したと思われて計画を変更されるかもしれないでしょう? 人間ね、わけがわからなくて混乱しているときは、最初から予定されていた行動を取るものよ」

 二日前、秘密の抜け道から逃げ出して王女殿下のところへ駆け込んだとき、いきなり死体を預けられて驚きました。……私のドレスに着替えさせなくても、私が着替えたと思われたのではないでしょうか。
 彼女の言動はいつも突飛過ぎるのです。
 もっとも本人に言わせると、正統な血筋にもかかわらず冷遇されている正妃の娘なんだから、突飛な言動で目立ってるくらいじゃないと密かに消されちゃうわよ、とのことです。

 ちなみに国外で外交の勉強中の──という名目で、国内で勢力を広げないよう追い出されていた──はずの王女殿下がこの国にいたのは、学園時代の親友だった私が結婚すると聞いて、周囲が納得せざるを得ないほど優秀な姿を見せて帰国してきていたからです。
 どうやら私を驚かせるつもりだったらしく、なんの連絡も受けてはいませんでした。
 彼女が持つ王都の館へ助けを求めに行ったら、いるはずのない本人がいたので驚きましたわ。

「初めまして、皆様。伯爵令嬢としての私はご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、本日はアレンスキー女伯爵としての初顔見せとなります。今日の良き日は私の誕生日。畏れ多くもターニャ王女殿下に付き添っていただきまして、成人した私は貴族院にて正式に家督を継いでまいりました」

 招待客を見回して言い、私は久しぶりに心からの笑みを浮かべました。

「今後のお付き合いを、とは申しません。だって皆様は元伯爵代理と結託して、アレンスキー伯爵家の簒奪に協力していらしたのですもの。国家に認められた爵位を不当な手段で奪うということは、国家に反逆する行為でもあります。一族郎党が処刑される皆様とは、もう二度とお会いすることもないでしょう」

 招待客の顔色が一気に青く染まっていきます。怒りで赤く染まっている方は不思議といらっしゃいません。私の言葉が真実だとわかっているのです。
 学園でも社交界でも、目立つ王女殿下と一緒に行動することが多かった私はおとなしい人間だと思われているようですが、実際はかなりの捻くれ者です
 そもそもあの家庭環境で、明るく前向きで天真爛漫な性格になっていたとしたら、どこかで心が死んでしまったのではないかと疑うべきではないでしょうか。

「待ってくれ!」

 最初に叫んだのは、ウスペンスキー伯爵でした。
 いつかは義父になると思っていた方。伯爵夫人がご存命のときは、本当に心優しい方でした。父の友人だなんて信じられないくらいに。
 お母様と伯爵夫人が亡くなった後、何度トーマ様との婚約解消を申し出ても私の恩恵ギフトを身内として安く使い続けるために受け入れてくださらなかったときは、やっぱり父の友人だったのだと納得しましたけれど。

「トーマは仕方がない。私も知らなかったと言い訳はしない。息子の監督不行き届きで罰を受けよう。しかしウスペンスキー伯爵家は残してやってくれ。爵位が下がってもかまわない。長男夫婦には跡取り息子が産まれたばかりなんだ!」

 知っています。
 義兄になるはずだった方とその奥様は、トーマ様のことでいつも私の味方になってくださっていました。
 それでも当主であるウスペンスキー伯爵の意見を変えることは出来なかったのです。……半分ほどは、婚約解消によって私に妙な男がすり寄ってくるのを防ぐ気持ちもあったのでしょうか。

 私は頷きました。
 本来なら私に決められることではありませんが、ターニャ王女殿下はこの場の人間に対する罪状は私の意見を取り入れるとおっしゃってくれています。
 それが私への誕生日プレゼントなのだそうです。気前がよろしいこと。

 ……まあ最終的に決めるのは裁判所と貴族院なのですけれど、被害者である私の意見は大きな判断材料になるでしょう。

「わかりましたわ、ウスペンスキー伯爵」
「わ、私は騙されたんだ!」
「私もだ! まさかニセモノの花嫁による伯爵家簒奪に利用されるとは思わず、アレンスキー伯爵代理からの招待状に応じただけだ」

 私がウスペンスキー伯爵を、もとい、彼の家を許したことで、ほかの招待客達も声を上げ出しました。

「そうですの。皆様、元伯爵代理に騙されたのですね。ええ、わかりますわ。ご次男が実行犯だったウスペンスキー伯爵とは違いますものね。私、皆様のことは訴えませんわ」

 安堵の表情を浮かべる招待客に、私は言葉を続けます。

「元伯爵代理程度の人間に騙されるようでは、貴族家の当主として心配になりますけれど。その招待状、アレンスキー伯爵家の正式な紋が入っておりましたかしら?」

 招待客が息を飲みます。
 申し訳ございません。私、捻くれ者の上に口が回るんですの。
 学園時代、大神官様を論争で言い負かして涙目の彼に、この次は負けませんよ、と捨て台詞を言われたこともありますわ。

 ターニャ王女殿下が悪い顔になりました。

「まったくだわ。あなた達は愛妾様の派閥よね? 愛妾様まであなた達に巻き込まれて悪党に騙されたりしないよう、お父様と愛妾様に注意喚起しておかなくちゃ」

 招待客の顔色は、今度は白くなりました。
 彼らの行動は派閥の足を引っ張る──弟王子殿下を王太子の座から遠ざけるものだったのですから。
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