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第四話 暴虐の王女殿下
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「あら、どうしたの? 結婚までする仲なのに、今さらキスくらいで恥ずかしがってどうするの?」
ターニャ王女殿下の声に、大神官様が頷きます。
「神の前で誓いのキスを済まさなければ、おふたりが本当に婚姻関係を結んだとは認められません」
「……」
「……」
トーマ様と花嫁は無言のまま見つめ合うだけです。
参列席にいるアレンスキー伯爵代理とその愛人は、さすがに王女殿下に対してはなにも言えず、俯いて小刻みに震えていました。
ウスペンスキー伯爵はようやく状況に気づいたのか、なにもかも諦めたような顔をして、光のない瞳にふたりを映しています。
「ベールを上げてキスなんか出来ないわよねえ? 共犯者以外がここに来たんだから」
王女殿下の楽しげな声が神殿に響き、招待客の中から「共犯者?」という疑問の声が聞こえてきます。
亡くなったアレンスキー女伯爵は正妃様と王女殿下を支持していましたが、今ここにいる貴族家は愛妾様と王子殿下を支持する派閥です。
なにかを察したのか、愛妾派達の顔色が変わっていきます。
「ああ、嘆かわしいわ。我が国のこんなに多くの貴族家が、他家が簒奪されようとするのを受け入れているなんて。……ねえ、そう思わない? アレンスキー女伯爵?」
私は頭を上げ、ベールをめくって顔を見せました。
女性が神殿へ入るときはベールで髪を隠すのが礼儀ですが、顔は出しても良いのです。
ほかの招待客の女性達も髪だけ隠して顔を出しています。
「なんてことでしょう! 花嫁として署名したのが別人だったとは! 神聖なる神殿でこんな不正がおこなわれようとしていたとは嘆かわしい!」
大神官様が大げさな叫びを上げて、花嫁に微笑みかけます。
「プィートカさんでしたか? 学園で貴女がレーナ嬢に向かって吠えていたときにも教えて差し上げたと思うのですが、他人の名前で署名をするのは犯罪ですよ?」
「……っ。うるさいわねっ!」
花嫁は叫んで、大神官様を睨みつけました。
彼女のベールが流れ落ちて、殿方を惑わす美しい髪が露わになります。
愛人の娘は見かけだけなら美しい少女です。学園でも何人もの殿方を虜にしていました。……真実を告げても、トーマ様は信じてくださらなかったのですけれど。
「あの女がっ! お義姉様が悪いのよ! トーマとの婚約を破棄して、伯爵になったらアタシ達親子を家から追い出すだなんて言うんだから!」
「それはレーナ嬢の当然の権利です。アレンスキー伯爵代理が、いいえ、元伯爵代理が入り婿な上に先代伯爵様の足は引っ張っても力になったことはないなんて、だれもが知っていますから」
大神官様、それは言い過ぎです。事実を言われると逆上する人間もいるのですよ。
「なっ! なんたる侮辱だ! わしはアレンスキー伯爵代理として相応しい行動を取って来た」
「伯爵家となんの関係もない親娘を家に引き入れて、正統な跡継ぎを冷遇することがですか?」
「大神官様、ご存じ? この方々は、結婚を拒むレーナを二日前に屋根裏部屋へ閉じ込めて、それから水も食事も与えなかったのよ」
「なんと! なんと恐ろしいことでしょう! それは殺人未遂ではありませんか!」
王女殿下と大神官様の会話は、どこか芝居じみています。
招待客の何人かが、こっそりと神殿を出ようとしています。けれど、王女殿下が入ったときに開け放たれたままの扉の前には、彼女が連れて来た護衛騎士達がいました。
招待客の面々は父の計画など知らなかったのでしょう。
むしろ父達にも予想外のことだったでしょう。
本当の計画は弱った私を花嫁にして、無理矢理結婚式を挙げさせるというものだったのですから。小ズルい父は、本当ならここまであからさまで愚かな花嫁入れ替えなんて手段は取りません。
花嫁が違うと気づいた招待客が、共犯者になってくれる保証なんてないのですから。
「さ、殺人だと? 違うぞ、大神官。そうじゃない! 三日水を飲まないと死んでしまうと聞いていたから、二日で屋根裏部屋から出すつもりだったんだ! なのに……そうだ! 殺人者はレーナだ! 屋根裏部屋にあった死体は、お前が殺して腐らせたんだろう?」
ターニャ王女殿下の声に、大神官様が頷きます。
「神の前で誓いのキスを済まさなければ、おふたりが本当に婚姻関係を結んだとは認められません」
「……」
「……」
トーマ様と花嫁は無言のまま見つめ合うだけです。
参列席にいるアレンスキー伯爵代理とその愛人は、さすがに王女殿下に対してはなにも言えず、俯いて小刻みに震えていました。
ウスペンスキー伯爵はようやく状況に気づいたのか、なにもかも諦めたような顔をして、光のない瞳にふたりを映しています。
「ベールを上げてキスなんか出来ないわよねえ? 共犯者以外がここに来たんだから」
王女殿下の楽しげな声が神殿に響き、招待客の中から「共犯者?」という疑問の声が聞こえてきます。
亡くなったアレンスキー女伯爵は正妃様と王女殿下を支持していましたが、今ここにいる貴族家は愛妾様と王子殿下を支持する派閥です。
なにかを察したのか、愛妾派達の顔色が変わっていきます。
「ああ、嘆かわしいわ。我が国のこんなに多くの貴族家が、他家が簒奪されようとするのを受け入れているなんて。……ねえ、そう思わない? アレンスキー女伯爵?」
私は頭を上げ、ベールをめくって顔を見せました。
女性が神殿へ入るときはベールで髪を隠すのが礼儀ですが、顔は出しても良いのです。
ほかの招待客の女性達も髪だけ隠して顔を出しています。
「なんてことでしょう! 花嫁として署名したのが別人だったとは! 神聖なる神殿でこんな不正がおこなわれようとしていたとは嘆かわしい!」
大神官様が大げさな叫びを上げて、花嫁に微笑みかけます。
「プィートカさんでしたか? 学園で貴女がレーナ嬢に向かって吠えていたときにも教えて差し上げたと思うのですが、他人の名前で署名をするのは犯罪ですよ?」
「……っ。うるさいわねっ!」
花嫁は叫んで、大神官様を睨みつけました。
彼女のベールが流れ落ちて、殿方を惑わす美しい髪が露わになります。
愛人の娘は見かけだけなら美しい少女です。学園でも何人もの殿方を虜にしていました。……真実を告げても、トーマ様は信じてくださらなかったのですけれど。
「あの女がっ! お義姉様が悪いのよ! トーマとの婚約を破棄して、伯爵になったらアタシ達親子を家から追い出すだなんて言うんだから!」
「それはレーナ嬢の当然の権利です。アレンスキー伯爵代理が、いいえ、元伯爵代理が入り婿な上に先代伯爵様の足は引っ張っても力になったことはないなんて、だれもが知っていますから」
大神官様、それは言い過ぎです。事実を言われると逆上する人間もいるのですよ。
「なっ! なんたる侮辱だ! わしはアレンスキー伯爵代理として相応しい行動を取って来た」
「伯爵家となんの関係もない親娘を家に引き入れて、正統な跡継ぎを冷遇することがですか?」
「大神官様、ご存じ? この方々は、結婚を拒むレーナを二日前に屋根裏部屋へ閉じ込めて、それから水も食事も与えなかったのよ」
「なんと! なんと恐ろしいことでしょう! それは殺人未遂ではありませんか!」
王女殿下と大神官様の会話は、どこか芝居じみています。
招待客の何人かが、こっそりと神殿を出ようとしています。けれど、王女殿下が入ったときに開け放たれたままの扉の前には、彼女が連れて来た護衛騎士達がいました。
招待客の面々は父の計画など知らなかったのでしょう。
むしろ父達にも予想外のことだったでしょう。
本当の計画は弱った私を花嫁にして、無理矢理結婚式を挙げさせるというものだったのですから。小ズルい父は、本当ならここまであからさまで愚かな花嫁入れ替えなんて手段は取りません。
花嫁が違うと気づいた招待客が、共犯者になってくれる保証なんてないのですから。
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