たとえ番でないとしても

豆狸

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9・たとえ幻の記憶だったとしても

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 お昼の監視役は、ソティリオス様の弟で近衛騎士隊副隊長のオレステス様でした。
 もちろん森の中にある離宮の監視役がひとりのわけはなく、ソティリオス様やオレステス様が代表で複数の近衛騎士に指示を出して見回らせているのです。ソティリオス様は本宮殿のほうへお戻りになるとき、オレステス様や部下の方々の全身鎧をすべて抱えていかれました。竜人族の方々は本当にヒト族より力が強いようです。
 私が食べ終わった食器も鎧の上に器用に載せて持って帰ってくださいました。

 昼食のサンドイッチを食べた後、私は離宮を囲む森へ出ました。

「本宮殿に行かれるのですか?」
「いいえ、少しお散歩をするだけです。よろしいでしょうか」
「妃殿下のお心のままに」

 オレステス様が少し離れてついて来てくださいます。
 彼のことはあまり記憶にありませんが、近衛騎士達の態度が前回とはまるで違うことはわかります。
 ソティリオス様がそのように指示を与えたのでしょう。

「……実は僕、妃殿下にとても感謝しております」

 しばらく歩いたところで、オレステス様がおっしゃいました。
 結界が張られていたのはどの辺りだったかしら、などと思っていた私は、慌てて彼へと視線を向けました。

「そうなのですか?」

 私は首を傾げました。
 感謝される覚えがありません。
 前回はカサヴェテス竜王国中に嫌われていましたし、今回は昨夜この国へ来たところです。

「はい。妃殿下のおかげで、あのクソ邪魔な全身鎧を着なくて良くなりました」

 私とのお茶を終えたソティリオス様に鎧について話をされて、ほーらね! 気配りの方向を間違ってたんだよ兄上は! と叫んでいたオレステス様の声が耳に蘇ります。

「竜人族の皆様には魔力の鱗がおありですものね」
「ええ! 兄上と陛下は巨竜にも変じられます。……僕は出来ないんですけど」
「個人差があるのは仕方のないことですわ。私なんか魔導の才がまるでありませんもの。魔力自体ほとんどなくて」
「魔道具はお使いになれるのですか?」

 魔道具とは魔物の心臓が結晶化した魔石を燃料として使い、魔導の才がない人間でも魔導を使うことが出来るようになる道具です。
 魔物を倒せるほど強い魔導は使えませんが、日常生活には欠かせません。

「上手く発動出来ないことが多いです」
「大変じゃないですか! なにかあったら、すぐに僕達を呼んでくださいね」
「ありがとうございます。でも母にいろいろ教わりましたので、魔道具がなくても補えますわ」
「それは凄いですねー」

 などと話をしながら、私達は散歩を続けました。
 前回の記憶で結界があったと思しき場所に特別なものはありませんでした。魔導の才がないから気づかなかったのでしょうか。
 そもそもあれは本当にあったことなのでしょうか。でも……この記憶で竜王ニコラオス陛下を救えるかもしれないのです。一年が無事に済むまでは、真実だと思って行動していきましょう。
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