たとえ番でないとしても

豆狸

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幕間 サギニの夢③

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「どういうことなの?」

 尋ねるサギニに、愛人から義父になったメンダシウム男爵は笑みを浮かべて言った。

「竜人族に毒は効かない。怪我をしてもすぐ治る。生まれつき魔力が強くて回復力が高いからだ」

 それくらいサギニだって知っている。
 魔物蔓延る危険なカサヴェテス竜王国は外国から食糧を輸入しているが、茸などの珍しい嗜好品についてはこちらから輸出することもある。
 竜人族には平気でもヒト族や獣人族には危険な毒を持つ茸は出荷してはいけないのだと、母のお財布が言っていた。特に人気のあるディリティリオ茸は季節によって毒の強さが違うから気をつけなくてはいけないらしい。

「体が勝手に解毒したり怪我を治したりしているとき、竜人族は熱を帯びて興奮状態になり、頭が朦朧として判断力が低くなる。そのとき上手く誘導すればつがいを偽ることも出来るのさ」

 昔どこかの貴族家が、その方法で竜王のつがいを仕立て上げたことがあるらしい。
 しかしそのときは、正式に竜王と結婚する前に浮気に気づかれて処刑されてしまったのだという。

「お前は上手くやれよ」
「ちょっと待って! 私は竜王のつがいになんかなる気はないわ! 男爵家の愛人で十分よ」
「私はそうじゃない。お前程度の愛人を囲ったくらいで満足出来るものか。もっと成り上がってやるんだ。竜王に余計なことを言うなよ? すべてお前のせいにしてやるからな」

 サギニの母親はつがいを仕立てた貴族家の末裔だった。
 娘が処刑されただけでなく実家も平民に落とされていたのである。
 当然のことだろう。つがいとは神聖なものだ。まして竜王のつがいともなれば、竜人族自体の心の拠りどころとなる。サギニの先祖はそれを騙ったのだ。

 メンダシウム男爵はサギニにとって都合の良い夢の化身ではなく、サギニを操る人形使いだった。
 王宮に部屋を与えられたサギニは、男爵に与えられた毒を夜ごと竜王に飲ませ、無意識に解毒する体の興奮状態をつがいへの情熱だと思い込んだ彼に抱かれている。

(嫌で嫌でたまらないわ。どんなに美しく見えても、本性は巨大なトカゲじゃない!)

 サギニにはそうとしか思えない。たぶん自分は竜人族としての血よりもヒト族としての血のほうが濃いのだろう。
 男爵の計画のすべてが上手く行ったわけではなかった。サギニの母の出生は暴かれたし養女としても実家が男爵家では身分が低過ぎると、高位貴族達がふたりの結婚に反対した。
 それでも竜王はサギニをつがいだと信じて愛し続けた。

 一方魔物の大暴走スタンピードはますます激しくなり、食糧と引き換えに竜王は政略結婚することになった。

(いっそ相手の女に夢中になって、私を捨ててくれればいいのに!)

 けれどヒト族の花嫁ディアナが嫁ぐ前日もサギニと夜を過ごした竜王は、解毒による興奮の反動から来る虚無感で花嫁に興味を示さなかった。
 サギニは今も竜王のつがいのままだ。
 トカゲの化身にしか思えない男は毎夜サギニの床を訪れる。ヒト族の花嫁が去ったら正式に王妃にすると誓われている。

「上手くやれよ」

 男爵家の愛人というサギニの夢を壊した男は、自分の夢が叶うと浮かれている。
 それが憎くてたまらない。
 男爵はひとり目は竜王の種で産み、ふたり目は自分の種で産めという。上手くふたり目に跡を継がせて、竜王の父親になってやるとほざいている。

 サギニの今の夢は、いつかメンダシウム男爵の夢を粉々に壊してやることだ。
 だが残念なことに、彼の計画を暴けば自分も巻き込まれる。
 竜王のつがいを偽ったとして処刑されるのは嫌だった。

 王宮で囲われるようになってからは王家の財産で贅沢もした。
 竜王のつがいという立場を利用して、ほかの貴族令嬢を甚振ったこともある。
 男爵に騙された、利用されたと言ってもすべてが許されはしないだろう。男爵の愛人だったことまで知られたら、嫉妬に狂った竜王に殺されるかもしれない。先祖の貴族家と同じように巨竜の爪で肉塊にされるのは真っ平だ。

 ──サギニは今夜も悪夢を見る。
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