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26・たとえ番だったとしても
「……」
ルキウスとユーノがディリティリオ茸を持ち帰る処理をするために客間へ戻り、ソティリオス様はオレステス様と交代して本宮殿に戻られました。オレステス様は離宮の外で見回りをしてくださっています。
私は談話室にひとりでいました。
静寂の中、ルキウス達がいなくなったら寂しくなると、ぼんやり思いました。前はひとりでも平気だったのに……いえ、平気な振りをしていただけでした。前の私は、夜ごと竜王ニコラオス陛下のお名前を呼んで泣いていました。
『ディアナ』
「精霊王様?」
音の無い懐かしい声がして、私の影から黒い巨狼が現れました。
『我が子達が乳離れしたので会いに来たのだが……もう朝食のパンケーキは食べ終わっているのか……』
残念そうなお顔の精霊王様に続いて、銀色の狼と小さな仔狼達も顔を出します。
「奥方様とお子様達ですか? 初めまして、ディアナです。すぐにオレステス様にお願いして蜂蜜たっぷりのパンケーキを用意していただきますね」
『そうか、済まぬな』
先触れをいただけたら良かったのに、と一瞬思いましたが、よく考えれば精霊王様の肉球ではお手紙は書けません。
奥方様とお子様達が私の影から出てくるのを待って、オレステス様にパンケーキの手配をお願いしました。
これは転移の魔導なのでしょうか。精霊王様はご家族を一緒に移動させられるようです。
「お会い出来て嬉しいです。……あの、魔力の高まりのほうはどんな感じでしょうか? 私に出来る範囲の魔力は鎮めたつもりなのですが」
『上出来だ。我が子達が乳離れ出来たのも、そなたが魔力の高まりを鎮めてくれたおかげだぞ』
「そうなのですか?」
銀に輝く奥方様が微笑みます。
『そうなのですよ、ディアナ。私と夫は聖域の魔力を受けて特別な存在になりました。そのため世界の魔力が高まっても、その強い魔力を受け入れることが出来ます。しかし生まれたばかりの子ども達はそうもいきません』
普通の狼などの野獣は、強い魔力を受け入れられなくて衰弱したり、逆に受け入れ過ぎて魔物と化したりします。作物と同じです。
魔物には魔力だけで出来たものもいます。
野獣や作物が変化した魔物も魔力だけで出来た魔物も、互いに食らい合い強く大きく凶暴に変化していくのです。そして最後は群れ集って人里を襲う大暴走を引き起こします。
『ディアナが魔力の高まりから生じる澱みを鎮めて解きほぐしてくれたので、我が子達は妻の乳に含まれる魔力だけでなく世界の魔力も吸収出来るようになったのだ』
「お役に立てたなら良かったです」
そうこうしていたら、茸を片付けたルキウス達が談話室に戻って来ました。
精霊王様とご家族を見て目を丸くします。
「大きいですね、お妃様の飼い犬ですか? もしかして僕達が落ち着くまで余所に預けていらしたんですか? こんなに懐いている犬と離れるだなんてお寂しかったでしょう。お気遣いいただいてありがとうございます」
「わあ可愛い!」
ユーノがお子様達を見て目を輝かせています。
精霊王様のお子様達は奥方様よりも黒味の強い銀色で、ふわふわしていてとても可愛いですものね。
私はふたりに告げました。
「いいえ、精霊王様とご家族様ですよ」
「ああ、そういえば辺境伯様にお聞きしました。お妃様はカサヴェテス竜王国の精霊王様の愛し子で、そのため竜人族の病気を癒せるのだ、と……え?」
「……」
ルキウス達は真っ青になり、初対面のときの私のように床に額を擦り付けました。
「「も、申し訳ありません!」」
『……』
ふたりをじっくりと眺めた後、精霊王様は言いました。
『うむ。吾らは犬ではなく狼だ。今後は間違えぬようにな』
精霊王様にとっては、それが一番大切なことなのですね。
しばらくして、オレステス様が蜂蜜たっぷりのパンケーキと鶏肉のシチューを運んできてくださいました。精霊王様が鶏肉をお好きなようだから、と気を利かせてくれたのです。
ご家族で食べながら、精霊王様が私にこっそり教えてくださいました。
『……吾は鳥が好きなのだが妻は鹿のほうが好きでな、森では鹿肉ばかり食べておるのだ……』
お子様を気遣いながらパンケーキとシチューを食べる精霊王様と奥方様は仲の良い番に見えましたが、食事の好みは違うようです。
ルキウスとユーノがディリティリオ茸を持ち帰る処理をするために客間へ戻り、ソティリオス様はオレステス様と交代して本宮殿に戻られました。オレステス様は離宮の外で見回りをしてくださっています。
私は談話室にひとりでいました。
静寂の中、ルキウス達がいなくなったら寂しくなると、ぼんやり思いました。前はひとりでも平気だったのに……いえ、平気な振りをしていただけでした。前の私は、夜ごと竜王ニコラオス陛下のお名前を呼んで泣いていました。
『ディアナ』
「精霊王様?」
音の無い懐かしい声がして、私の影から黒い巨狼が現れました。
『我が子達が乳離れしたので会いに来たのだが……もう朝食のパンケーキは食べ終わっているのか……』
残念そうなお顔の精霊王様に続いて、銀色の狼と小さな仔狼達も顔を出します。
「奥方様とお子様達ですか? 初めまして、ディアナです。すぐにオレステス様にお願いして蜂蜜たっぷりのパンケーキを用意していただきますね」
『そうか、済まぬな』
先触れをいただけたら良かったのに、と一瞬思いましたが、よく考えれば精霊王様の肉球ではお手紙は書けません。
奥方様とお子様達が私の影から出てくるのを待って、オレステス様にパンケーキの手配をお願いしました。
これは転移の魔導なのでしょうか。精霊王様はご家族を一緒に移動させられるようです。
「お会い出来て嬉しいです。……あの、魔力の高まりのほうはどんな感じでしょうか? 私に出来る範囲の魔力は鎮めたつもりなのですが」
『上出来だ。我が子達が乳離れ出来たのも、そなたが魔力の高まりを鎮めてくれたおかげだぞ』
「そうなのですか?」
銀に輝く奥方様が微笑みます。
『そうなのですよ、ディアナ。私と夫は聖域の魔力を受けて特別な存在になりました。そのため世界の魔力が高まっても、その強い魔力を受け入れることが出来ます。しかし生まれたばかりの子ども達はそうもいきません』
普通の狼などの野獣は、強い魔力を受け入れられなくて衰弱したり、逆に受け入れ過ぎて魔物と化したりします。作物と同じです。
魔物には魔力だけで出来たものもいます。
野獣や作物が変化した魔物も魔力だけで出来た魔物も、互いに食らい合い強く大きく凶暴に変化していくのです。そして最後は群れ集って人里を襲う大暴走を引き起こします。
『ディアナが魔力の高まりから生じる澱みを鎮めて解きほぐしてくれたので、我が子達は妻の乳に含まれる魔力だけでなく世界の魔力も吸収出来るようになったのだ』
「お役に立てたなら良かったです」
そうこうしていたら、茸を片付けたルキウス達が談話室に戻って来ました。
精霊王様とご家族を見て目を丸くします。
「大きいですね、お妃様の飼い犬ですか? もしかして僕達が落ち着くまで余所に預けていらしたんですか? こんなに懐いている犬と離れるだなんてお寂しかったでしょう。お気遣いいただいてありがとうございます」
「わあ可愛い!」
ユーノがお子様達を見て目を輝かせています。
精霊王様のお子様達は奥方様よりも黒味の強い銀色で、ふわふわしていてとても可愛いですものね。
私はふたりに告げました。
「いいえ、精霊王様とご家族様ですよ」
「ああ、そういえば辺境伯様にお聞きしました。お妃様はカサヴェテス竜王国の精霊王様の愛し子で、そのため竜人族の病気を癒せるのだ、と……え?」
「……」
ルキウス達は真っ青になり、初対面のときの私のように床に額を擦り付けました。
「「も、申し訳ありません!」」
『……』
ふたりをじっくりと眺めた後、精霊王様は言いました。
『うむ。吾らは犬ではなく狼だ。今後は間違えぬようにな』
精霊王様にとっては、それが一番大切なことなのですね。
しばらくして、オレステス様が蜂蜜たっぷりのパンケーキと鶏肉のシチューを運んできてくださいました。精霊王様が鶏肉をお好きなようだから、と気を利かせてくれたのです。
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『……吾は鳥が好きなのだが妻は鹿のほうが好きでな、森では鹿肉ばかり食べておるのだ……』
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