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幕間 近衛騎士隊長の夢のかけら①
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ガヴラス大公家の長子ソティリオスは竜王を殺すために生まれた。
大公家に叛意があったわけではない。
竜王以外で巨竜化出来る竜人族はすべて、暴走した竜王を止めるために存在しているのだ。巨竜姿で暴走した竜王を止められるのは同じように巨竜化した竜人族と運命で結ばれた番だけ──いや、竜王の昂る魔力を鎮める番がいれば、そもそも暴走することもない。
ソティリオスの父は王弟だが、兄のように巨竜化することは出来なかった。
世界の魔力が高まって魔物が活発化し大暴走が頻発する状況で、暴走の恐怖と戦いながら民のために巨竜化する兄王を救う力を持たない自分にいつも罪悪感を抱えていた。
ソティリオスの伯父である当時の竜王、従兄ニコラオスの父親の妃は番ではなかった。政略結婚で結ばれた貴族令嬢は夫の竜王を愛し、己を鍛えて彼の巨竜化を最小限にするべく大暴走の最前線で戦い続けた。
竜王も妃を愛していた。
番が現れても彼女を選ぶと宣言していたほどだ。
しかし悲劇は訪れた。終わりの見えない大暴走の連続で、疲れ果てた竜王が暴走したのだ。ソティリオスは竜王太子のニコラオスと王都を守っていた。暴走する伯父に止めを刺したのは妃の剣で、役目を果たした彼女は夫の跡を追って自害した。
次代の竜王で実子でもあるニコラオスが止めを刺すことにならなくて良かった、とみなが言う。新竜王ニコラオスにはソティリオスもいる。
けれどニコラオスの心の傷は深かった。仕方がないこと、予想されていたこととはいえ、母が父を殺して自害したのだ。傷つかないわけがない。
だから──
「番を見つけた。メンダシウム男爵令嬢のサギニだ。彼女が私の番なんだ!」
即位して一年ほど経った竜王ニコラオスがそう語ったとき、ソティリオスは心からそれが真実であることを願ったのだった。
メンダシウム男爵家に令嬢がいただろうか、とかすかな疑問を感じながらも。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「慌てて養子縁組したみたいだけど、娘だなんて真っ赤な嘘。あの女はメンダシウム男爵の愛人だよ」
ソティリオスが近衛騎士隊の隊長としてサギニの調査を命じた弟のオレステスは、報告書を渡しながら吐き捨てるように言った。
「そうか……」
「怪我の回復で興奮していた竜王ニコラオス陛下を上手く誘導したんじゃない? 昔の例でもあったじゃん。てかあの女、そもそも昔の恥知らずの血筋なんだよねー」
「だれか生き延びていたのか?」
「みたいだね」
以前番と称して竜王をたばかった一族は、全員処刑されたと聞いていた。
処刑といっても絞首刑や斬首刑ではない。番と信じていた女の裏切りに暴走した当時の竜王が一族郎党を巨竜の爪で肉塊に変えたのだ。
彼は竜王国を半壊させ、番と称した女に溺れる前に政略結婚した妃に産ませた実の息子に止めを刺された。
「元々底の浅い雑な悪党だもの。一族の男がそこら中に種を蒔いてたよ」
ソティリオスは調査結果をニコラオスに報告した。
竜王はそれらを受け止めた上で、たとえメンダシウム男爵の愛人だったとしても今は自分の番なのだ、と言った。
今後男爵と関係を持つようなことがなければ、いつか生まれた子がちゃんと竜王の血を引いていると証明されれば、サギニを正式な妃として迎えたいと彼は願い、次男オレステス以外のガヴラス大公家の人間はそれを認めた。とはいえオレステスも口外はしなかった。
ほかの貴族家には情報が流れないよう秘匿したが、高位貴族は独自の情報網で察しているようだ。
カサヴェテス竜王国は魔物蔓延る土地にある。度重なる大暴走に対応出来るのは巨竜化した竜王だけだ。巨竜化は常に暴走の危険を抱えている。
だれも竜王の願いを無下にすることは出来なかった。欺瞞に気づかれていないと信じているのは当人達だけだった。
「たとえ最初は回復の興奮を利用した欺瞞だったとしても、夜ごとサギニと会うたびに心と体が昂る。彼女は私の番だ。男爵とのことは……私に会う前で間違えただけだろう」
王宮へ来てからのサギニはメンダシウム男爵と関係は持っていなかった。
だが彼女が竜王の子を身籠る前に、彼はカサヴェテス竜王国のためにリナルディ王国の王女を娶らなくてはならなくなったのだった。
ひとり他国へ嫁いできたヒト族の王女ディアナは、婚礼の夜会でニコラオスを番だと叫んだ。
大公家に叛意があったわけではない。
竜王以外で巨竜化出来る竜人族はすべて、暴走した竜王を止めるために存在しているのだ。巨竜姿で暴走した竜王を止められるのは同じように巨竜化した竜人族と運命で結ばれた番だけ──いや、竜王の昂る魔力を鎮める番がいれば、そもそも暴走することもない。
ソティリオスの父は王弟だが、兄のように巨竜化することは出来なかった。
世界の魔力が高まって魔物が活発化し大暴走が頻発する状況で、暴走の恐怖と戦いながら民のために巨竜化する兄王を救う力を持たない自分にいつも罪悪感を抱えていた。
ソティリオスの伯父である当時の竜王、従兄ニコラオスの父親の妃は番ではなかった。政略結婚で結ばれた貴族令嬢は夫の竜王を愛し、己を鍛えて彼の巨竜化を最小限にするべく大暴走の最前線で戦い続けた。
竜王も妃を愛していた。
番が現れても彼女を選ぶと宣言していたほどだ。
しかし悲劇は訪れた。終わりの見えない大暴走の連続で、疲れ果てた竜王が暴走したのだ。ソティリオスは竜王太子のニコラオスと王都を守っていた。暴走する伯父に止めを刺したのは妃の剣で、役目を果たした彼女は夫の跡を追って自害した。
次代の竜王で実子でもあるニコラオスが止めを刺すことにならなくて良かった、とみなが言う。新竜王ニコラオスにはソティリオスもいる。
けれどニコラオスの心の傷は深かった。仕方がないこと、予想されていたこととはいえ、母が父を殺して自害したのだ。傷つかないわけがない。
だから──
「番を見つけた。メンダシウム男爵令嬢のサギニだ。彼女が私の番なんだ!」
即位して一年ほど経った竜王ニコラオスがそう語ったとき、ソティリオスは心からそれが真実であることを願ったのだった。
メンダシウム男爵家に令嬢がいただろうか、とかすかな疑問を感じながらも。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「慌てて養子縁組したみたいだけど、娘だなんて真っ赤な嘘。あの女はメンダシウム男爵の愛人だよ」
ソティリオスが近衛騎士隊の隊長としてサギニの調査を命じた弟のオレステスは、報告書を渡しながら吐き捨てるように言った。
「そうか……」
「怪我の回復で興奮していた竜王ニコラオス陛下を上手く誘導したんじゃない? 昔の例でもあったじゃん。てかあの女、そもそも昔の恥知らずの血筋なんだよねー」
「だれか生き延びていたのか?」
「みたいだね」
以前番と称して竜王をたばかった一族は、全員処刑されたと聞いていた。
処刑といっても絞首刑や斬首刑ではない。番と信じていた女の裏切りに暴走した当時の竜王が一族郎党を巨竜の爪で肉塊に変えたのだ。
彼は竜王国を半壊させ、番と称した女に溺れる前に政略結婚した妃に産ませた実の息子に止めを刺された。
「元々底の浅い雑な悪党だもの。一族の男がそこら中に種を蒔いてたよ」
ソティリオスは調査結果をニコラオスに報告した。
竜王はそれらを受け止めた上で、たとえメンダシウム男爵の愛人だったとしても今は自分の番なのだ、と言った。
今後男爵と関係を持つようなことがなければ、いつか生まれた子がちゃんと竜王の血を引いていると証明されれば、サギニを正式な妃として迎えたいと彼は願い、次男オレステス以外のガヴラス大公家の人間はそれを認めた。とはいえオレステスも口外はしなかった。
ほかの貴族家には情報が流れないよう秘匿したが、高位貴族は独自の情報網で察しているようだ。
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だれも竜王の願いを無下にすることは出来なかった。欺瞞に気づかれていないと信じているのは当人達だけだった。
「たとえ最初は回復の興奮を利用した欺瞞だったとしても、夜ごとサギニと会うたびに心と体が昂る。彼女は私の番だ。男爵とのことは……私に会う前で間違えただけだろう」
王宮へ来てからのサギニはメンダシウム男爵と関係は持っていなかった。
だが彼女が竜王の子を身籠る前に、彼はカサヴェテス竜王国のためにリナルディ王国の王女を娶らなくてはならなくなったのだった。
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