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幕間 近衛騎士隊長の夢のかけら③
──悪いことはどこまでも続く。
かねてから噂になっていた竜人族傭兵連続殺人事件の犯人が、竜王の霊廟に忍び込んでニコラオスの心臓を盗み去った。衛兵達もみな殺されていた。
目的はわからない。そもそも心臓を抉り取った方法が不明だ。いくつかの魔導を組み合わせるにしろ、毎回同じように発動出来るとは思えない。
(魔道具を使ったのではという意見もあったが、普段の生活を補う程度の魔導しか発動出来ない魔道具でそんなことが出来るのだろうか。……よほどの天才が、竜人族の心臓だけを抉り取るために専用の魔道具を作った?)
復讐だろうか。
魔力の鱗を纏っていないときの竜人族は美しく、ほかの人間、ヒト族や獣人族を魅了する。魅了して弄んでおきながら竜人族は番を選ぶと嫌われているのだ。
考えてみると心臓を抉ることに特化したのは合理的な判断だ。一気に止めを刺さなければ強い魔力を持つ竜人族はすぐに回復してしまう。
やがて、激しい吹雪がカサヴェテス竜王国全土を覆った。
真白き巨竜が暴れているのだという。
精霊王様の住まう聖域も吹雪に飲み込まれてしまったらしい。
ソティリオスは民のため、竜王国のため、白銀の巨竜となった。真白き巨竜を探して竜王国の上空を飛んでいて、白銀の竜王は思い出した。
(彼女は巨竜姿の俺を見ても怯えていなかったな)
先代の黄金の竜王の妃のことだ。
不安にさせたくないからと、婚礼の前夜も愛人と過ごすことを決めた従兄の代わりに近衛騎士隊長のソティリオスが迎えに行ったのだ。
黒い髪に紫の瞳の美しい少女。冤罪を着せられた母親と八年間牢で暮らしていたことは知っていた。だから心が擦り切れて、巨竜を前にしても恐怖を感じないのだろうとそのときは思った。同じ竜人族でも巨竜に怯えるものは多いのだ。魔力の鱗さえ纏えないヒト族が怯えないはずがない。
(魔力の鱗を纏ったトカゲの姿を見せないよう全身鎧を着たことで、少しは彼女の心を休められていただろうか)
思って自嘲の笑みを浮かべる。
食事も与えず世話もせず、閉じ込めて監視していたくせに好かれたいとは傲慢にもほどがある。
そもそも全身鎧に関しては弟のオレステスに、兄上は気配りの方向を間違えてるよ! と言われていた。
オレステスは巨竜化出来なかった。
今、竜王となったソティリオス以外に巨竜化出来る竜人族はいない。
真白き竜を倒して吹雪が収まったら、すぐにでも妃を迎えろと言われることだろう。それ以前にカサヴェテス竜王国以外の国の様子も確認しなくてはいけない。竜王国だけでは食糧を自給出来ないのだ。
(他国から妃を迎えるのなら……)
黒い髪に紫の瞳、美しい少女の姿が頭を過ぎったところで、ソティリオスは真白き竜と出会った。
吹雪のような光の魔力を浴びせられて、なすすべもなく破壊され同じものに変わっていく。
そして、世界は終わった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……?」
目覚めたソティリオスは、断片的な夢のかけらに頭を捻った。
長い夢を見ていた気がするのに、どんな夢だったのか思い出せない。まるで、もう終わってしまったことだから思い出さなくてもいいのだとだれかに言われているようだ。
でもひとつだけ覚えていること、忘れられないことがある。
(夢の中でも俺は妃殿下のことを考えていた)
妃殿下、他国から嫁いできた竜王の妃。
一年間の白い結婚の後で竜王と離縁することが決まっている少女。
作物の魔物化を鎮め、病気に苦しむ竜人族を救い、数年ぶりの収穫祭を実現させてくれたリナルディ王国の王女。従兄ニコラオスに命じられたソティリオスの護衛対象だ。竜王の命令がなくても守りたいと思っている相手だった。
(彼女は俺の番ではない。だけど……)
ソティリオスは起きて支度を始めた。
朝目覚めるのは数か月ぶりだ。昨夜の離宮の夜勤は弟に代わってもらった。
今日──カサヴェテス竜王国の民が待ち望んでいた収穫祭の今日は、ソティリオスとディアナがお忍びで王都へ行くことを許された日だった。
かねてから噂になっていた竜人族傭兵連続殺人事件の犯人が、竜王の霊廟に忍び込んでニコラオスの心臓を盗み去った。衛兵達もみな殺されていた。
目的はわからない。そもそも心臓を抉り取った方法が不明だ。いくつかの魔導を組み合わせるにしろ、毎回同じように発動出来るとは思えない。
(魔道具を使ったのではという意見もあったが、普段の生活を補う程度の魔導しか発動出来ない魔道具でそんなことが出来るのだろうか。……よほどの天才が、竜人族の心臓だけを抉り取るために専用の魔道具を作った?)
復讐だろうか。
魔力の鱗を纏っていないときの竜人族は美しく、ほかの人間、ヒト族や獣人族を魅了する。魅了して弄んでおきながら竜人族は番を選ぶと嫌われているのだ。
考えてみると心臓を抉ることに特化したのは合理的な判断だ。一気に止めを刺さなければ強い魔力を持つ竜人族はすぐに回復してしまう。
やがて、激しい吹雪がカサヴェテス竜王国全土を覆った。
真白き巨竜が暴れているのだという。
精霊王様の住まう聖域も吹雪に飲み込まれてしまったらしい。
ソティリオスは民のため、竜王国のため、白銀の巨竜となった。真白き巨竜を探して竜王国の上空を飛んでいて、白銀の竜王は思い出した。
(彼女は巨竜姿の俺を見ても怯えていなかったな)
先代の黄金の竜王の妃のことだ。
不安にさせたくないからと、婚礼の前夜も愛人と過ごすことを決めた従兄の代わりに近衛騎士隊長のソティリオスが迎えに行ったのだ。
黒い髪に紫の瞳の美しい少女。冤罪を着せられた母親と八年間牢で暮らしていたことは知っていた。だから心が擦り切れて、巨竜を前にしても恐怖を感じないのだろうとそのときは思った。同じ竜人族でも巨竜に怯えるものは多いのだ。魔力の鱗さえ纏えないヒト族が怯えないはずがない。
(魔力の鱗を纏ったトカゲの姿を見せないよう全身鎧を着たことで、少しは彼女の心を休められていただろうか)
思って自嘲の笑みを浮かべる。
食事も与えず世話もせず、閉じ込めて監視していたくせに好かれたいとは傲慢にもほどがある。
そもそも全身鎧に関しては弟のオレステスに、兄上は気配りの方向を間違えてるよ! と言われていた。
オレステスは巨竜化出来なかった。
今、竜王となったソティリオス以外に巨竜化出来る竜人族はいない。
真白き竜を倒して吹雪が収まったら、すぐにでも妃を迎えろと言われることだろう。それ以前にカサヴェテス竜王国以外の国の様子も確認しなくてはいけない。竜王国だけでは食糧を自給出来ないのだ。
(他国から妃を迎えるのなら……)
黒い髪に紫の瞳、美しい少女の姿が頭を過ぎったところで、ソティリオスは真白き竜と出会った。
吹雪のような光の魔力を浴びせられて、なすすべもなく破壊され同じものに変わっていく。
そして、世界は終わった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……?」
目覚めたソティリオスは、断片的な夢のかけらに頭を捻った。
長い夢を見ていた気がするのに、どんな夢だったのか思い出せない。まるで、もう終わってしまったことだから思い出さなくてもいいのだとだれかに言われているようだ。
でもひとつだけ覚えていること、忘れられないことがある。
(夢の中でも俺は妃殿下のことを考えていた)
妃殿下、他国から嫁いできた竜王の妃。
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(彼女は俺の番ではない。だけど……)
ソティリオスは起きて支度を始めた。
朝目覚めるのは数か月ぶりだ。昨夜の離宮の夜勤は弟に代わってもらった。
今日──カサヴェテス竜王国の民が待ち望んでいた収穫祭の今日は、ソティリオスとディアナがお忍びで王都へ行くことを許された日だった。
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