お爺様の贈り物

豆狸

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最終話 お爺様の贈り物

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「ゲルトルーデ」

 後ろからアレクサンダー様に呼ばれて、私は振り向きました。
 魔術学園に入学して数か月が経ちます。
 あの日お爺様に放逐された父と仲間達がどうなったのか、私は知りません。後見人のヘルベルト様なら知っていそうなのですけれど、尋ねても唇に人差し指を当てて微笑まれるだけなのです。

 第三王子殿下の行方だけはわかっています。
 彼は国王陛下のお子様ではなかったことがわかり、側妃様のご実家へ引き取られました。側妃様と彼女を陛下に引き合わせた宰相は処刑されましたが、彼は子どもだからと許されたのです。
 もっとも心の傷は深かったようで、私と同い年なのに魔術学園には通っていません。あ、違います。側妃様のご実家が貴族でなくなったから魔術学園には来ないのですね。

「……アレクサンダー様」
「ゲルトルーデ?」

 新しい婚約者の公爵家の次男アレクサンダー様は、幸いなことに私を気に入ってくださっているようです。
 いつも満面に笑みを浮かべて駆け寄って来てくださいます。
 彼の叔父のヘルベルト様がお爺様を大変お好きだったように、アレクサンダー様の血筋は私の血筋に惹かれる運命なのかもしれません。それは大変嬉しいことなのです、が!

「私、今日はご令嬢のお友達と裏庭で昼食を摂るとお伝えいたしましたよね?」
「ああ、もちろん聞いた。だから邪魔はしなかっただろう?」
「直接混ざったり話しかけたりして来なくても、私達が裏庭で食事をしているのを校舎の窓からずっと見つめられていては気になってしまいます!」

 この方はあまりにも私に執着し過ぎているのです。

「……すまない。ゲルトルーデが友達と仲良くするのは良いことだと思うが、俺は君がとても好きなので見つめていたかったんだ」

 しゅん、と項垂れるアレクサンダー様を見ていると、なんだか胸がときめくのを感じました。
 ああ、私はお母様の娘です。少し莫迦な男性にときめいてしまうのです。
 ですがシュタインボック辺境伯家の跡取りとして、二代続けて莫迦な婿を入れるわけにはいきません。

「アレクサンダー様」

 項垂れたアレクサンダー様の頭を撫でると、彼はすぐに笑顔になって顔を上げました。

「ゲルトルーデ!」
「いつも私を見つめていたいとおっしゃってくださるのは、とても嬉しいです。でも私のお友達やほかの方々を怯えさせないよう考えなくてはいけません」
「怯えさせていたのか、俺は」

 私は頷きました。
 アレクサンダー様は叔父のヘルベルト様とは違い、しなやかというより逞しい体躯でお顔も整ってはいるものの厳つさのほうが勝っているのです。同じ十五歳とは信じられないほどの巨体でもあります。
 そんな彼が物陰に隠れて私を見つめていたら、気がついた人間は怯えてしまいます。

「ゲルトルーデも俺が怖いか?」
「いいえ」

 生前のお爺様に比べたら、どんなに逞しくて厳つくてもアレクサンダー様は小熊ちゃんに過ぎません。
 初めて出会ったときから怖いと感じたことはありませんでした。
 彼が私を好いてくださるのは、そのせいでしょうか。

「私はアレクサンダー様が好きです。失礼かもしれませんが、とてもお可愛らしいと思っております」
「そうか」

 少し怒られるかもしれないと覚悟して言った言葉に、アレクサンダー様は嬉し気に微笑みました。
 ほんのり頬を赤く染めています。

「ですからこそ、アレクサンダー様がほかの方に怯えられてしまうのは嫌なのです」
「ゲルトルーデ……」
「うちの執事のジェームズに弟子入りして気配を消す技術を覚えてください」
「わかった!」

 単純過ぎて不安になることもありますけれど、アレクサンダー様は私の大切な愛しい婚約者です。
 最近、死者を復活させる方法の研究を始めたヘルベルト様も頼りになる後見人でいらっしゃいます。私が魔術学園を卒業するまでは、クレープス伯爵家が大暴走スタンピードと対峙するシュタインボック辺境伯家への物資の用意と輸送を代行してくださっているのです。
 どちらの方も癖はありますが、とても素敵な方々です。……お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ダニエル「ゲルトルーデ? ヘルベルトの研究は止めてくれんかのう?」
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