6 / 6
最終話 お爺様の贈り物
しおりを挟む
「ゲルトルーデ」
後ろからアレクサンダー様に呼ばれて、私は振り向きました。
魔術学園に入学して数か月が経ちます。
あの日お爺様に放逐された父と仲間達がどうなったのか、私は知りません。後見人のヘルベルト様なら知っていそうなのですけれど、尋ねても唇に人差し指を当てて微笑まれるだけなのです。
第三王子殿下の行方だけはわかっています。
彼は国王陛下のお子様ではなかったことがわかり、側妃様のご実家へ引き取られました。側妃様と彼女を陛下に引き合わせた宰相は処刑されましたが、彼は子どもだからと許されたのです。
もっとも心の傷は深かったようで、私と同い年なのに魔術学園には通っていません。あ、違います。側妃様のご実家が貴族でなくなったから魔術学園には来ないのですね。
「……アレクサンダー様」
「ゲルトルーデ?」
新しい婚約者の公爵家の次男アレクサンダー様は、幸いなことに私を気に入ってくださっているようです。
いつも満面に笑みを浮かべて駆け寄って来てくださいます。
彼の叔父のヘルベルト様がお爺様を大変お好きだったように、アレクサンダー様の血筋は私の血筋に惹かれる運命なのかもしれません。それは大変嬉しいことなのです、が!
「私、今日はご令嬢のお友達と裏庭で昼食を摂るとお伝えいたしましたよね?」
「ああ、もちろん聞いた。だから邪魔はしなかっただろう?」
「直接混ざったり話しかけたりして来なくても、私達が裏庭で食事をしているのを校舎の窓からずっと見つめられていては気になってしまいます!」
この方はあまりにも私に執着し過ぎているのです。
「……すまない。ゲルトルーデが友達と仲良くするのは良いことだと思うが、俺は君がとても好きなので見つめていたかったんだ」
しゅん、と項垂れるアレクサンダー様を見ていると、なんだか胸がときめくのを感じました。
ああ、私はお母様の娘です。少し莫迦な男性にときめいてしまうのです。
ですがシュタインボック辺境伯家の跡取りとして、二代続けて莫迦な婿を入れるわけにはいきません。
「アレクサンダー様」
項垂れたアレクサンダー様の頭を撫でると、彼はすぐに笑顔になって顔を上げました。
「ゲルトルーデ!」
「いつも私を見つめていたいとおっしゃってくださるのは、とても嬉しいです。でも私のお友達やほかの方々を怯えさせないよう考えなくてはいけません」
「怯えさせていたのか、俺は」
私は頷きました。
アレクサンダー様は叔父のヘルベルト様とは違い、しなやかというより逞しい体躯でお顔も整ってはいるものの厳つさのほうが勝っているのです。同じ十五歳とは信じられないほどの巨体でもあります。
そんな彼が物陰に隠れて私を見つめていたら、気がついた人間は怯えてしまいます。
「ゲルトルーデも俺が怖いか?」
「いいえ」
生前のお爺様に比べたら、どんなに逞しくて厳つくてもアレクサンダー様は小熊ちゃんに過ぎません。
初めて出会ったときから怖いと感じたことはありませんでした。
彼が私を好いてくださるのは、そのせいでしょうか。
「私はアレクサンダー様が好きです。失礼かもしれませんが、とてもお可愛らしいと思っております」
「そうか」
少し怒られるかもしれないと覚悟して言った言葉に、アレクサンダー様は嬉し気に微笑みました。
ほんのり頬を赤く染めています。
「ですからこそ、アレクサンダー様がほかの方に怯えられてしまうのは嫌なのです」
「ゲルトルーデ……」
「うちの執事のジェームズに弟子入りして気配を消す技術を覚えてください」
「わかった!」
単純過ぎて不安になることもありますけれど、アレクサンダー様は私の大切な愛しい婚約者です。
最近、死者を復活させる方法の研究を始めたヘルベルト様も頼りになる後見人でいらっしゃいます。私が魔術学園を卒業するまでは、クレープス伯爵家が大暴走と対峙するシュタインボック辺境伯家への物資の用意と輸送を代行してくださっているのです。
どちらの方も癖はありますが、とても素敵な方々です。……お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダニエル「ゲルトルーデ? ヘルベルトの研究は止めてくれんかのう?」
後ろからアレクサンダー様に呼ばれて、私は振り向きました。
魔術学園に入学して数か月が経ちます。
あの日お爺様に放逐された父と仲間達がどうなったのか、私は知りません。後見人のヘルベルト様なら知っていそうなのですけれど、尋ねても唇に人差し指を当てて微笑まれるだけなのです。
第三王子殿下の行方だけはわかっています。
彼は国王陛下のお子様ではなかったことがわかり、側妃様のご実家へ引き取られました。側妃様と彼女を陛下に引き合わせた宰相は処刑されましたが、彼は子どもだからと許されたのです。
もっとも心の傷は深かったようで、私と同い年なのに魔術学園には通っていません。あ、違います。側妃様のご実家が貴族でなくなったから魔術学園には来ないのですね。
「……アレクサンダー様」
「ゲルトルーデ?」
新しい婚約者の公爵家の次男アレクサンダー様は、幸いなことに私を気に入ってくださっているようです。
いつも満面に笑みを浮かべて駆け寄って来てくださいます。
彼の叔父のヘルベルト様がお爺様を大変お好きだったように、アレクサンダー様の血筋は私の血筋に惹かれる運命なのかもしれません。それは大変嬉しいことなのです、が!
「私、今日はご令嬢のお友達と裏庭で昼食を摂るとお伝えいたしましたよね?」
「ああ、もちろん聞いた。だから邪魔はしなかっただろう?」
「直接混ざったり話しかけたりして来なくても、私達が裏庭で食事をしているのを校舎の窓からずっと見つめられていては気になってしまいます!」
この方はあまりにも私に執着し過ぎているのです。
「……すまない。ゲルトルーデが友達と仲良くするのは良いことだと思うが、俺は君がとても好きなので見つめていたかったんだ」
しゅん、と項垂れるアレクサンダー様を見ていると、なんだか胸がときめくのを感じました。
ああ、私はお母様の娘です。少し莫迦な男性にときめいてしまうのです。
ですがシュタインボック辺境伯家の跡取りとして、二代続けて莫迦な婿を入れるわけにはいきません。
「アレクサンダー様」
項垂れたアレクサンダー様の頭を撫でると、彼はすぐに笑顔になって顔を上げました。
「ゲルトルーデ!」
「いつも私を見つめていたいとおっしゃってくださるのは、とても嬉しいです。でも私のお友達やほかの方々を怯えさせないよう考えなくてはいけません」
「怯えさせていたのか、俺は」
私は頷きました。
アレクサンダー様は叔父のヘルベルト様とは違い、しなやかというより逞しい体躯でお顔も整ってはいるものの厳つさのほうが勝っているのです。同じ十五歳とは信じられないほどの巨体でもあります。
そんな彼が物陰に隠れて私を見つめていたら、気がついた人間は怯えてしまいます。
「ゲルトルーデも俺が怖いか?」
「いいえ」
生前のお爺様に比べたら、どんなに逞しくて厳つくてもアレクサンダー様は小熊ちゃんに過ぎません。
初めて出会ったときから怖いと感じたことはありませんでした。
彼が私を好いてくださるのは、そのせいでしょうか。
「私はアレクサンダー様が好きです。失礼かもしれませんが、とてもお可愛らしいと思っております」
「そうか」
少し怒られるかもしれないと覚悟して言った言葉に、アレクサンダー様は嬉し気に微笑みました。
ほんのり頬を赤く染めています。
「ですからこそ、アレクサンダー様がほかの方に怯えられてしまうのは嫌なのです」
「ゲルトルーデ……」
「うちの執事のジェームズに弟子入りして気配を消す技術を覚えてください」
「わかった!」
単純過ぎて不安になることもありますけれど、アレクサンダー様は私の大切な愛しい婚約者です。
最近、死者を復活させる方法の研究を始めたヘルベルト様も頼りになる後見人でいらっしゃいます。私が魔術学園を卒業するまでは、クレープス伯爵家が大暴走と対峙するシュタインボック辺境伯家への物資の用意と輸送を代行してくださっているのです。
どちらの方も癖はありますが、とても素敵な方々です。……お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダニエル「ゲルトルーデ? ヘルベルトの研究は止めてくれんかのう?」
1,054
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします
柊
ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。
マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。
それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。
※複数のサイトに投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる